18話
威勢のいいガキは嫌いじゃない。
本当ならこの部屋に来る兵士はジングの部下になる予定だった。
が、気が変わった。
団長のヘイラスがあれほど誉めた青年を自分の目で見極めてみたくなった。
ここに来る途中で替わってもらったのだ。
部下からは散々非難された。
「副団長が試験官やったら誰も通過しないじゃないですか!」
「それはそれだろ?面白いガキは少し遊んでやらないとな〜」
「それは入ってからでいいでしょ!もう、悪ふざけが過ぎますって」
「がははははっ、団長に言うんだな〜、あいつが目をかけたのが悪い!」
そう言い切ると、今ここにいる。
目の前の二人の青年は確かにコンビネーションはいい。
下手な大人なら簡単に出し抜けるだろう。
ジングにはまだまだ通じなかった。
他の奴らも相手してやらないとな。
おぉ、情けない。
みんなのびてしまった。
残ったのは初めに親しげに話していた3人だった。
まだ若く、幼い。
「さぁ〜いくぞぉぉぉーーーー!」
一気に棍棒を振り下ろした。
しかし、まさか受けられるとは思っても見なかった。
さっき後ろにいた青年だ。
まだ一番若い気のする青年が軽々と受けたのだ。
ジングも全力で振り下ろした訳じゃないが、それでもまさか簡単に受け
られるとは思っても見なかった。
それ以上に掴まれた棍棒を引っ張られた。
掴んでいた腕が身体ごと持っていかれるかと思った。
力で敵わない?
そんなはずはない!
なぜだ?
騎士団一の力自慢で知られている副団長の俺が…?
まさかこんな小さな子供に?
身長だって、腰くらいしかないガキに…
「こっのぉ〜力で俺に勝てるはずがぁ〜〜〜なぁ〜〜〜い!!」
力いっぱい引くと急に軽くなった。
そしてその青年が一気に距離を詰めて来ていた。
振り回す余裕はない。
太い腕でガードしようとした瞬間、一気に鉄で殴られたような衝撃に襲
われたのだった。
「そんな…ばかなっ…」
くらくらする。
たかが一発くらっただけでこの有様とは、自分でも情けなかった。
立ちあがろうとして、起き上がれない事を思い知った。
予想以上に衝撃が強かったらしい。
そのうちに砂時計が全部流れ落ちたのだった。
「すげーーー!勝ったぁ〜」
「まぁ、こんな感じかな…」
意外と冷めている青年にヘイラスが気に留める訳だと実感したのだった。
この部屋では3人が騎士団の入隊資格を得たのだった。
ジングが部屋をでると、目の前にヘイラスが立っていた。
「どうだった?彼は…」
「とんでもねー化け物だな…」
「負けたのか?」
少し意外だという団長にジングは『見事に完敗だ』と付け加えたのだった。
受かった受験者達はそのまま騎士団の寮の方へと案内された。
そこで、入隊訓練の日程や、これからの事を説明されて、夜遅くにやっと
就寝になった。
騎士団の朝は早かった。
さっき寝たと思ったらすぐに起床の鐘が鳴った。
部屋は3人部屋と4人部屋に分かれていて、ケイルはノックとナシスと一緒
の部屋に入れて少し気が楽だった。
「おい、朝だぞ!」
「もうちょっと…むにゃむにゃ…」
いまだに夢の中にいるノックの布団を剥ぎ取ると耳元で大声で叫んだ。
「おきろ!初日から遅刻する気か!」
「うわぁっ!!なっ、なんだよ〜うるせーな…」
「あ、ノックおはよ。」
ナシスはすでに起きて支給された制服に着替えていた。
ケイルは世話が焼けると文句を言いながらノックを叩き起こしたのだ。
昔、圭子を何度も起こしに行ったのを思い出しながらこんなやりとりが平和
である事を意識するなんて思いもしなかった。
食堂には受かった見習い騎士団のメンバーがすでに集まっており、朝食を取
っていた。
「今日のメニューは…魚かよ〜肉がねーじゃん」
「文句言わないの、ノック行くよ」
ナシスに言われて渋々トレイを取ると列に並んだ。
確かに食事は質素で、メインは魚の焼いたものだった。
食べ盛りなせいかやっぱり肉が食べたいと思ってしまうのは仕方のない事だ
ろう。
「肉が食べたいか?」
席についてからも文句をぶつぶつ言っていたノックの横に座った大柄な男が
声をかけて来た。
「当たり前っすよ!やっぱり戦うにも訓練にも肉が必要でしょ!」
「そうだな〜なら、立派な騎士になれ!見習いじゃなくてな?」
「当たり前っすよ!俺は誰よりも強くなって、あの団長に認められるんっす
よ!」
胸を張っていうノックに横にいるナシスが遠慮がちに服を引っ張った。
「なんだよ、ナシス?」
「横、横…」
「ん?横?…あ、あんたあの時の兵士?」
横で豪快に食事をとっているのは昨日部屋でケイルに負けた兵士だった。
「まぁ、兵士でも相手が多人数じゃ負けても仕方ないっすよ?」
「おぉ、それは慰める気か?俺を?はっはははは、気に入ったぞ?その
傲慢な態度、なかなかできるもんじゃぁ〜ねーよな!」
「ってかあんたも同じ兵士でしょ?少し長くいただけで…」
「ノック、違うよ。紋章見て!」
「紋章?」
肩につけられた紋章は貴族を表している。
騎士団でこの紋章を表している意味はと考えると一つしかない。
「えっ…副団長のジングさん…」
「おぉ、俺を知っておったか?」
「…」
「有名なのか?」
固まってしまったノックに替わってケイルが平然と聞いて来た。
「おいおい、俺を知らないで騎士団に来たのか?まぁ〜お主の強さでは
仕方あるまい。完敗じゃったしな〜がははははっ」
負けた事に悔いがあったわけではなさそうだった。




