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現実とさよならを

朝起きると、大学生になったばかりの佐野遼馬は目覚ましが止まっている

事に慌てて飛び起きた。


着替えると階段を駆け下りキッチンへと向かう。


「母さん、声かけてよ〜」

「大学生にもなって起こさないと起きれないの?圭子がいた時はあんたが

 起こしに行ってたじゃない?」

「それは…圭子が寝坊ばっかりしてたから…あいつ一体どこにいるんだろ

 うな〜」

「きっとどこかで元気にしてるわよ。私は死んだなんて思えないもの」


母親は3年前にいきなり失踪した妹の佐野圭子を思い出す。


行方不明になって3年…どれだけ探しても見つからなかった。

誘拐されたのか?

はたまた事故で亡くなったのか?


どちらにしても死体がない限りはどこかで生きていると思っている。


もちろん、遼馬だって生きていると思いたい。

が、母親の様に信じて待っている気にもなれなかった。


見つからないと言う事は、もうこの世に居ないと言う事を意味している。


圭子とは仲が良かった。

兄妹なのに、可愛い圭子を遼馬は大事にしていたし、なんでもしてやろう

と思った。

圭子も兄の遼馬の言う事を聞く素直な性格だったので、周りからも羨まし

がられていた。


遼馬は平凡な顔だったが、妹の圭子は美人であった。

周りからの視線も良くも悪くも集めてしまう。


あの日も、ショッピングに行くと出ていったっきり帰って来なかった。

一緒に行った友人に聞いてもさっきまでいたのに、忽然と消えたと証言し

た。


当時は警察も動いて捜索されたが、トイレのそばに鞄が見つかった以外、

何の手がかりも見つからなかった。


監視カメラもいきなりその時間だけ切れていて、ついた時には鞄だけ残し

て忽然と消えていた。


他のも調べたが、その時間だけ全部切れていた。


おかしな話だった。

目撃者すら出て来なかった。


おかしいと言えば、いなくなる前に小さな子供が圭子に話けてきたという。


見知らぬ子供に友人も戸惑ったが、圭子は迷子の案内へ行くと言っていた

らしい。


結局はその子供すら見当たらなかった。

なぜなら、子供と会っているはずの時間に写っている映像には子供の姿など

映ってはいなかったのだから…


結局、今も見つからないまま、二人きりの生活が始まった。

母だってわかっているはずなのだ。

もう、圭子は戻って来ないという現実に。


遼馬は食事を駆け込むと大学へと向かった。


「じゃ〜行ってきます」

「気を付けていくのよ!」

「はいはい」


電車はいつもの様にぎゅうぎゅうに混雑していた。

母は圭子が居なくなってから、遼馬を過保護かと思うくらいに心配する様に

なった。


圭子みたいに誘拐されるわけないのに…と思いながら電車を乗り換える。


駅のホームもいつもの様にごった返していた。

電車が来ると我先にと押し寄せ毎回もみくちゃにされる。


こう言う時に女性用車両は羨ましいなと思ってしまう。


朝のラッシュでも少しすいてる気がしたからだった。


すると、明らかに見た目男だろ?と思える人が隣の女性専用車両へと乗り込

むのを見かけた。


すぐに降りて女性専用車両に入るとその男の腕を掴んだ。


「あんた、そこ女性専用だから降りた方がいいぜ?」

「…」


黙ったまま睨みつけて来る男を引きずり出すと、再び元の車両へと乗った。


「おっはよ!遼馬お前良く声かけたな?」

「かっちゃん、おはよ!あんなの他っておいちゃダメだろ?」

「でもよ〜、なんか恨まれそうで声かけずらいじゃん?」

「間違った事は言うべきだろ?」

「そう言うところはかっこいいよな〜遼馬はさ〜」


同じ大学に通う高校からの腐れ縁の岩倉慎太郎は圭子の事も良く知っている

友人だった。


圭子が失踪してから気落ちしている遼馬をいつも励ましてくれた親友でもあ

る。


「そう言えばさ〜、今回新設する学部見たか?」

「何それ?」

「それが〜先輩がめっちゃ美人揃いなんで、人気殺到してるらしいぜ!」

「マジ?なんか微妙かも…」

「またお前は〜圭子ちゃんは確かに可愛かったけど、そろそろ現実を見ろ

 よ!彼女作って安心させてやれって」

「彼女ね〜俺には程遠いかな〜」

「何言ってんだよ。一応平凡な顔ではあるんだし、無難なところを捕まえ

 に行こうぜ!」


岩倉は大学に入って彼女を作ると大いに意気込んでいたのだ。


電車を降りるとそのまま改札へと向かう。

今日は一限と三限。

そして、旧校舎の方で四限目を受けたら期待予定だった。


「今日は四限までか?」

「あぁ。かっちゃんもか?」

「もちろん。サークルの飲み会があるからな!一緒に行くだろ?」

「いや、今日は遠慮しておくよ」


岩倉慎太郎なのに、遼馬はいつも『かっちゃん』と呼んでいた。

その由来は昔に圭子を笑わせる為にと漫画の両津勘吉に似せて、マジックで

極太眉毛を描いたのがきっかけだった。


「付き合い悪いな〜」

「仕方ないだろ?最近母さんが遅いと心配すんだよ」


そう言って改札を抜けると学生達の団体に紛れて歩き出す。


「おいっ、おっさんぶつかってるんじゃねーよ!」

「黙ってんじゃね〜って!おい!」


「うるさい…お前も消えてしまえばいいんだ!」


「何ぶつぶつ言ってんだよ?こいつおかしいんじゃねぇ〜の?」

「え…ぅわぁぁぁーー!!」



後ろで騒がしくなると、いきなり後ろから何人もの学生が走り出してきた。

ぶつかるのも厭わずどんどん逃げるように走り出す。


「さっきから騒がしいけど、何かあったのか?」

「まぁ〜遅刻で走ってるとかか?」


岩倉と話しながら振り向くと視界に入ったのはさっき電車で注意した男だった。

ニヤッと卑しい笑いを口元に浮かべると全力でこちらに走ってきた。


「なっ…」

「おい、あいつって…」


床に倒れている男子学生は倒れたまま動かない。

赤い血が飛び散っていて辺りは騒然となっていた。


「遼馬、逃げるぞ」

「あ…あぁ…」


咄嗟に逃げようとしたが、足がもつれてうまく走れない。

男との距離が目前の迫ってきていた。


かっちゃんも足は早い方ではない。

逃げ切れないと思った瞬間、男は確実に遼馬を狙ってきていた。


「さっきはよくも邪魔したな…」

「なっ…」


腹にナイフが刺さると痛みから言葉よりも嗚咽が漏れる。

そして内臓から一気に溢れ出る血が逆流したのか口からは大量の血を吐き出

していた。


耳元で男の声が聞こえてきた。それはさっきの仕返しとも取れる言葉だった。


「お前が邪魔しなければ、今日あの女を仕留めれたのに…お前が邪魔しなけれ

 ば…お前さえ、いなければ…」


道路に崩れ落ちると何度も切りつけられた。


友人が目の前で腰を抜かして驚愕の表情を浮かべている。


(あぁ、これは確実に死んだだろ?マジか…こんな死に方嫌だな〜。母さん一人

 残していったら、本当に一人ぼっちになっちゃうじゃん…せめて圭子がいて

 くれたらな〜)


意識が薄れていくなか、走馬灯に様に妹と母親との記憶が蘇った。

後悔しかないけれど、一緒に生きていたかった…と。


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