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第2話 エスリンの魔法


 トール・モールのてっぺんの居室。

 ここには、トール・モールの姫様——エスリンが暮らしている。


「また失敗だ……」


 と、頭を抱える彼女は、毎朝の「爆発」を引き起こす張本人である。

 今回もめちゃくちゃになった彼女の居室をエスリンはせっせと片付けていた。


 床には、エスリンが書いた魔法陣と、その上には「爆発したてです」と言わんばかりにもくもくと煙を上げている魔法釜が置いてある。


「やっぱりもう少し…。

 イモリの尻尾を加えないといけなかったかなあ」

 

 エスリンはそうつぶやくと、爆発した魔法釜をのぞき込む。

 そしてその煙にやられ、こほこほとせき込む。


「魔法書に書いておこ……ごほっ、げほっ」


 そう言って、お手製のノートに実験の成果を記録する彼女は、姫様というより魔法に取りつかれた魔術師らしい。

 あでやかな茜色の長い髪は、爆発のせいでちりじりである。

 白いサテンの服も、白くなめらかな肌も、ススで黒くなってしまっているのだから。


 そんなエスリンの顔をのぞき込むように、一匹のイモリがやってくる。

 それは彼女が「サラマン」と名付けて、こっそり餌付けしているペットだ。


 エスリンは、サラマンの頭を指でなでた。


「サラマン。私はいつになったら、ここから出られるかな」


 サラマンは黙ったままだ。

 ただのイモリだから、喋ることはない。


 それでもエスリンにとって、話しかける相手はサラマンしかいなかった。


「魔法使いになればいいよ、エスリン」


 エスリンはサラマンの声を想像し、自分でこうして話すのだった。


「そうだね。魔法で塔を壊して、わたしは旅に出るんだから」


 エスリンは微笑むと、書き加えた魔法書を閉じて本棚にしまう。

 それはもう12冊目の魔法書で、隣には完結した11冊の魔法書が並んでいる。


 エスリンはふと、置き鏡に映る自分の顔を見る。

 そして恥ずかしそうに髪を整え、顔の汚れを拭いて、そして鏡に向けて微笑んで見せる。


 エスリンは、誰もエスリンを見ないこの塔の中でも、できる限り身なりを整えておきたかった。


 それはいつか、塔の外へ旅立つとき。

 絵本でしか知らない「恋」をするためだ。


(私だって……。いつか、素敵な恋と冒険をするんだ)


 エスリンはそっと目を閉じ、眠るようにして思いを馳せるのだった。


 フォーモリア族の姫エスリン。


 16歳の彼女は、見目麗しい姫に育っていた。

 しかし、この塔に閉じ込められて育った姫は、外の世界を知らない。


 姫がまだ幼子だった時。

 父でありフォーモリア族の王であるバロールに、「孫に命を奪われる」という予言が下された。

 予言を恐れたバロールは、1人娘のエスリンを巨塔に閉じ込め、姫から恋をすることを奪ったのだった。


「……明日はどんな魔法を試そうかなあ」


 そうつぶやいて、エスリンはソファーで魔法の指南書を読む。


 すると部屋の外から、ドタバタと、巨体の男が階段を上る音がする。


 エスリンは慌てて、魔法グッズを全て仕舞い込み、

 自分の居室を「姫らしい」ものに作り替えた。

 

「エスリン!!」


 荒々しい声をあげエスリンの居室に現れたのは、魔王バロールとその家臣である老人の司祭だ。

 

「お父様!ごきげんよう」

 

 うやうやしく挨拶をするエスリンを前に、バロールは怒りを露わにしていた。


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