第1話 巨塔の姫様
魔族フォーモリアの国・トーリ島。
農業が栄えるこの国では、農夫たちが早朝から畑仕事を始める。
ガタイの良いフォーモリア族の男たちは、エリン本土に暮らすダーナ族にはどうも野蛮に恐ろしく見えるらしい。
かの神の一族は、フォーモリア族のことを「一つ目の巨人」だとか「ヤギ頭の人間」と呼び、妖魔の一族として恐れている。
ゆえにトーリ島に近寄ることもないのだ。
しかしこの妖魔の一族は、実際は少し腕っぷしがいい、気さくな農夫たちと、純朴な美しさを持つ乙女たちにすぎない。
その見た目もダーナ族と変わりない人の姿形なのだ。
そんな彼らフォーモリア族の静かな朝を切り裂くように。
「「ばあん!!」」と、けたたましい爆発音が鳴り響いた。
それは、この島の穏やかな田園風景に不釣り合いな、天高くそびえる巨大な岩の塔——「トール・モール」の方からした音だった。
しかし農夫たちにとって、これは毎朝のことである。
畑仕事をする手は止まることはない。
「今日もやんちゃしてるねえ、巨塔の姫様は」
「あの姫様も、毎日毎日、よく飽きねえもんだな」
と、互いに笑い合うくらいのものである。