6年目~中学1年の時に見た事
次の年のお盆を迎えました。
最初に業火に焼かれて炭の塊になった方は、崩れて完全に無くなっていました。
どうやら、炭の塊は3年経つと消え去るようでした。
昨年増えてしまった炭の塊も、来年には消え去るんだろうから、この焦げ臭いも今年で終わるのだろうか?
路地の長老は、相変わらず入り口付近に居て、同じ轍を踏まないよう厳しく見張っていました。
このまま何事も無ければ、来年には以前のような和やかな雰囲気に戻るんだろうな…と思っていました。
しかし、この年は今までに見たことが無い光景を目の当たりにするのです。
確か、前の年の秋頃だと思います。
路地の脇に建ち並ぶ家で、一軒だけ独身の方がお住まいの世帯がありました。
その方は、一族の末代にあたる方でした。
当時、ずっと独身でいる方は現在より少なかったのですが、その末代にあたる方がお亡くなりになったのです。
近所の方々により、何とかお葬式は執り行われたのですが、
「あの方、ずっと独身だったんですってね」
「それも、末代にあたる方だって言うじゃないの」
「それに、近所の方と全然交流がなかったらしいのよ」
「それじゃあ、お墓はどうすんのかねぇ」
近所の方は、口々に言っていました。
「ふ~ん、一族の末代の方なんだ」
「でもまあ、来年には路地に集まるご先祖様の1人になるんじゃないかな?」
その時は、そう思っていました。
末代の方が亡くなって、翌年のお盆が来た時に、その方が路地の入り口付近にいたので、
「やっぱり、この近くに住んでいるご先祖様は、この路地に集まるんだな」
「ん、でも末代の方だと世代交代がないから、ずっとこのままこの路地に居続けるのかな?」
いろいろと、疑問が浮かんできました。
路地の長老が、厳しく監視しているおかげで、末代の方が路地を何度も出入りする…という事もなく、平穏な時間が流れていました。
「ん…でも、この末代の方の様子が何かおかしい」
路地に集まるご先祖様方と比べて、お姿が何か青白いのです。
お盆が1日…また1日…と過ぎる度に、青白いお姿が段々と薄くなっていったのです。
路地に集まるご先祖様の近くに並ぶと、明らかにその違いが分かりました。
お盆の最終日を迎えると、末代の方のお姿が明らかに薄くなっていました。
夕方になり、段々と薄暗くなる頃だったと思います。
「うわぁぁぁっ~」
「消える、消えてしまう!」
その時、既に末代の方の両足は消えていて、胴体から上だけが残っていました。
そして、胴体の下側から、段々と頭に向かってゆっくりと消え続けていました。
「消える、消えるっ!消えてしまう!」
両手を前に出して、手のひらをじっと見つめていました。
その表情は、とても苦しそうでした。
「路地にいる皆さんと一緒にいさせて下さい」
「お願いです!おね…が…い…で…」
末代の方の最後の叫びも虚しく、すぐに両手が消えていきました。
そして、顔の口の部分が消えると静かになり、あとは一気に消え去ったのです。
末代のご先祖様のお姿が、頭まで全て消え去ると、一瞬で人型の影に変わりました。
地面に映る人の影が、そのまま直立したような感じでした。
影になってしまうと、もう、ほとんどその方の特徴をとらえる事は難しくなってしまいます。
人型の影は、暫くの間、ずっと落ち着きなく動き回っていましたが、夜が深くなるにつれ、闇が影を飲み込むように連れ去っていったのです。