8.エンドレス エニグマ (永遠の謎)
ゴーレムは、しばらくこちらの様子を窺っているようだったが、俺達がもう一度溝に降りようとはしていない、つまり船の方に来ないと判断したのだろう。
引き返していく。
ドックのあった大きな部屋に戻っていくと、扉がパタンと閉まった。
「あのストーンゴーレム、船を守っているのかな?」
「きっと、そうに違いないニャ」
俺たちは、別に船が必要なわけじゃ無い。
あんな強そうなゴーレムと、関わる必要は無い。
建物を出て、砂浜に向かって歩いていく。
俺は、少し違和感を感じていた。
ゴーレムから逃げる時、ゴーレムに攻撃された時、命の危険を感じて冷や汗をかいた。
今まで、これほどの緊張感の中、咳き込むことが無いなんて無かった。
原子の単位まで分解されて、再構成されたせいなんだろうか?
もしこれから、咳止め薬なしで生きていけるのなら、それだけでも儲けものだ。
新しい人生?
体が再構成?
ネガティブな感情にひるまずに、飛び込んで良かった。
なんだか嬉しくなってきた。
「何、ニヤニヤしているニャ?」
リンプーが不審げに聞いてくる。
「いや、何でも無いよ」
「すっかり心を読ませなくなって、楽しみが一つ減ったニャ」
「すまないな。リンプー。
でも、俺の方は楽しみだらけだぜ」
「えっ? それ、本当?
本気で言ってる?」
なんか、食べ物も絡まないのに、突然マジ顔だ。
「あ、ああ。
大きいヤマネコとかゴーレムは怖かったけど、初体験の連続だからな。
異世界に来て良かったよ。ありがとな、リンプー」
リンプーが、思いっきり笑顔になる。
「それを聞いたら、アタイも満足だニャー」
何か、スキップしているぞ。
「しかし、立派な船だったな。
誰が、何のためにあんな船を建造したんだろう?」
俺は、あの大きな部屋の中の様子を思い出しながら言った。
あれだけの船と陸上のドックの規模を考えると、中世ヨーロッパ風と言っても中世の後期以降だろうと思った。
それにしても、お金もすごくかかっただろうに、放置されているのは不自然だ。
ほとんど完成していたように見える。
なぜ、あそこまで作っておいて放置しているんだろう。
ゴーレムも何のために、あんな所にいるんだろう?
船を守るためなのかな?
リンプーが、突然そのゴーレムについて話し始める。
「あんな物騒なゴーレムを見張りにするニャンて、意地が悪いニャ。
きっと、船の持ち主は罰が当たって絶滅したニャ」
「絶滅とは、穏やかじゃ無いな。
スージーさんはどう思う?」
ずーっと黙っている、古代の機械人形さんにも聞いてみる。
「分かりません。
しかし、あのゴーレムは、私と同じタイプの魔力を動力源にしているようです」
「じゃあ、古の技術が使われているのかな?」
「技術の古さは知らニャイけど、あのゴーレム自体は何百年も昔のモノじゃ無いニャ」
大賢者のリンプーには、ゴーレムの年齢が分かるのか?
「でも、人間の寿命は何十年だからな。
やっぱり、絶滅しちゃったのかな」
俺が疑問を口にすると、スージーさんが応えてくれる。
「恐らくその通りでしょう。
私の着ているローブの経時変化の様子から考えて、私がエネルギー切れで動作を停止していた期間は、20年を超えると考えられます。
私があの建物に入った時には、すでに人の気配はありませんでした」
確かにスージーさんのローブは、ボロボロだ。
「まあ、絶滅していたとしても、ここに手がかりが入っているかも知れないニャー」
いつの間にか、リンプーが小さな宝箱のようなものを手に持っている。
「リンプー、お前、い、いつの間に?」
「ニャンか部屋の隅に、仕切られた空間があったニャ。
そこに入ってみると、この箱が置かれていたニャ。
この箱に手を触れた瞬間に、ゴーレムが現れたニャ」
「その箱が、ゴーレムのスイッチになっていたってことか?」
「そーかも知れないけど、船から離れたら追いかけるのを止めたから、この箱のせいじゃないと思うニャー」
確かに箱が原因なら、箱を取り返すまで追いかけてくるはずだ。
俺は、リンプーからその箱を受け取ると、箱を上下左右から観察してみる。
「随分上等そうな、つくりだな。
フタは開かないな。
箱のフタには、鍵がかかっているのか?
見られたくないものが、入っているのかな?」
あの船の持ち主たちの見られたくないモノ。
エッチな本とか?
いや、いかん。考えを読まれるんだ。
油断していた。
リンプーがニターっと笑いながら、面白いものを見るような目でこっちを見ている。
帯域を変えて、考えを続ける。
「もお、面白くないニャ」
「何で、俺はリンプーの考えることが分からないのに、お前だけ俺の考えが分かるんだよ?」
「それは、ご主人のスキルは双方向の魔法だからニャ」
「双方向?」
「ご主人のは、相手の考えを読みにいけば、自分の考えも伝えてしまうニャ。
アタイは、別に心を読みにいっているんじゃなくて、駄々モレの心が聞こえちゃうだけニャ。
だから、ご主人は無理につなげない方が、良いかも知れないニャー」
「それでもリンプーは、一方的に俺の考えを読み取れるんだろ。
ズルいな」
「その代わりご主人は、相手がモンスターだろうと何だろうと会話できるニャ。
どっちが得かは、微妙な所ニャ」
そうか、俺のは思考が漏れているだけなのか。
でも、明らかにリンプーは俺の思考を読みに来ているよな。
話題を戻そう。
「鍵付きの箱を置いたままってことは、やっぱり持ち主はもういないんだろうな」
「その可能性は高いニャー。
この程度の大きさの箱なら、苦も無く持ち運べるはず。
何十年も置きっぱなしなのは、明らかにおかしいですニャ」
「そうかあ。
この世界に来てから会うのって、ヤマネコの怪物とか機械人形とかゴーレムとか、人間じゃないモノばっかだもんな。
普通の人間は、いないのかな?」
「アタイが、いるじゃニャーか」
「お前、普通の人間なのか?」
「失礼な。まあ、大賢者ニャから人間というよりは、神に近い存在なのかもニャ」
「ああ、まともな人間と会話できることは、もう無いのだろうか?」
冗談交じりに、ため息をついて見せる。
と、人間の声が聞こえる気がする。
次回更新は、明日4月19日の17時から18時の間の予定です。




