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6.オートマタ

 扉を開けた途端にヤマネコと遭遇したので、部屋の中の様子をよく見ていなかったが、すごく雑然としている。

 大きな岩でできたブロックが、ゴロゴロ転がっているし、ガラクタも散らかっている。


 声が聞こえたボロ布のようなローブ。

 くるまっているのは、人間の形をしているようだ。


「ぺ……」

 何か、話そうとしている。

 俺は、顔の辺りに耳を近付ける。


ペースト状の有機物」

 かすれた小さな声が聞こえる。

 どうやら、リンプーとヤマネコさんが取り合いをしていたチューブおやつの事を言っているようだ。


「あれは、ねこ用のおやつだぞ」


「わた、わたしは、オート……

 ペースト状の有機物……

 あれば、動ける」


 よく分からないが、どうやらチューブ入りおやつが欲しいみたいだと、いうことだけ分かった。

 俺が、背中のリュックサックを降ろして、チューブおやつを出すと、突然腕だけ素早く動き、奪い取られた。

 腕以外は全く動かないままフードの中に取り込むと、ジュルジュルとチューブから中身を吸い出す音がした。




「ああああああ!!!」

 物凄い悲鳴のような叫び声が聞こえる。


 続けて、背中を思いっきり叩かれる。

「トモヤのバカバカバカー!」

 ポカポカポカ



「痛い、痛い、痛い」


「なんてことするんだよー!

 アタイの、アタイのカツオ海鮮ミックスがーっ!

 エーン、アタイのカツオ海鮮ミックスがーっ!」


 リンプーがワンワン泣き出した。

「わ、悪かったよ。

 もし、元の世界に帰ることがあったら、また買ってやるから」


「ウワーン、もう2度と帰れないって、言ったのにー。

 やっぱり、トモヤはアタイの言う事を信じていなかったのニャー」


 ポカポカポカ


「いや、信じてるし、信じているから。

 あ、そうだ、あれが最後じゃないから」


 とにかく、もう一つ取り出してみる。

 買う時は、チューブの中身なんて確認していなかった。

 ねこ用か犬用かしか、注意していなかった。

 マグロとかカツオとか、そんな違いがあるとは知らなかったな。


 パッケージを確認する。

「ほら、カツオ海鮮ミックスだぞ」


 おっ、泣き止んだ。


 パシッ


 いきなり、奪い取られた。


 フタを開けて、チューっと吸う。

 すごい勢いだ。

 あっという間に全部吸い尽くした。

「もう一個よこせ」


「そんな、一度に食べたら、体に悪いぞ。

 おやつなんだから」


「良いから、よこせ」


「いや、だから……」


「トモヤは、アタイのおやつを勝手に人にあげちゃうじゃんかー!

 あるうちに食べとかないと、二度と口に入らないんだよー」

 リンプーは、涙をポロポロこぼしながら訴えてくる。


「いや、もう他人ひとにあげないから、許してくれよ」


「絶対? 絶対にあげない?」


「ああ、絶対だ」


「約束だからね!

 もし破ったら、アタリメは全部アタイが食べるからね」


 まあ、そのくらいで許してくれるんなら有難いな。


「ああっ、今アタイを馬鹿にした!」


「い、いや、そ、そんなことは……」



 プシューッ



 リンプーと口論していると突然、異音がした。

 音の方向を見ると、あのローブが動き出す。


 カシャン、カシャーン


 人の動きと思えないような不自然な動きで起き上がると、直立する。


「ご協力感謝する。

 私は、古代文明の技術で作られた魔法で動く機械人形オートマタ


「えっ? そんな古代の機械人形オートマタが、どうしてこんな所に?

 っていうか、古代って自分で言うのか?」

 俺は、未来に跳んでしまったとしても、自分のことを古代人とは呼ばないぞ。


「この奥に、私と同じ古代の技術を使ったモノの反応を感じて、建物内に入ったのですが、エネルギーが切れて、動けなくなってしまいました。

 ペースト状の有機物があれば、エネルギー源と出来ますので、助かりました」


 全く抑揚は無いが、声からすると女性型なのだろう。

 全身をフード付きのローブで覆って、わずかに見える顔も黒いマスクで隠れている。

「まさか、動けるようになったからといって、俺達を攻撃したりしないよね」


「ご命令とあらば攻撃いたしますが、よろしいでしょうか?」


「いや、よろしくない、よろしくない。

 俺たちの味方をしてくれ」

 危ない、危ない。こいつ、自分への話は何でも命令と思ってしまうのかな。


「味方をする? 護衛せよとのことでしょうか?」


「ああ、そうだ。護衛してくれ」


「了解いたしました。

 以後、状況に応じて命令をお願いいたします。

 私の名前はスージーです」


「えっ? ツービー?」


「スージーです。マスター」


 リンプーが割って入ってくる。

「アタイのカツオ海鮮ミックスで復活したんだから、マスターはアタイだろ!」


「いえ、私はペースト状の有機物を、この方にいただきました。

 したがって、マスターはこの方です」


 ムムムーッとリンプーが爆発しそうだ。

 このままだと、このオートマタとリンプーが戦いそうだ。

 俺は、妥協だきょうによって戦いを避ける、平和が好きな魔法使いなのだ。

「分かった。

 マスターを、このリンプーと交代する。

 リンプーをマスターにしてやってくれ」


「了解いたしました。

 マスターをリンプー殿に変更いたします。

 護衛は継続でしょうか?」


「ああ、頼む」


「了解いたしました。

 新マスター、よろしいでしょうか?」


「よろしく頼むニャ」


「ところで、前マスターは何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


「トモヤで良いよ」


「了解いたしました。トモヤ殿」


 仲間が増えた……のか?

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