56.新たな旅の始まり
さて、金貨が一人分だけでも100キロ近くある。
スージーは運べるが、俺には無理だ。
まず、船に戻って行き先を決めることから始めた。
船に向かう途中、金貨を数枚だけ両替した。
そのお金で、旅のための用意をした。
こんな田舎町では、古い金貨は貨幣としては使えない。
金の含有量の値打ちで取引される。
当然金貨としての価値に比べると下がってしまう。
そうでなければ、金貨を作る意味がないからな。
大きな町に行かないと、宝の持ち腐れだ。
※金1グラムが5千円とすると、30グラムで15万円の値打ちになります。
ただ、この異世界では金の価値はそこまで高くなくて、1グラム千円ほど(帝国銀貨1枚)です。
ですので、金貨は金貨として使用できれば10万円の価値ですが、金として換算すると3万円と3分の1の値打ちになります。
財宝の中の旧金貨は、帝国通貨に両替すると銀貨60枚と目減りしますが、それでも金そのままの2倍の価値となります。
金貨になると発行者の威厳で価値が保証されるので、金貨作りは旨みがあるのです。
金に混ぜ物をすれば、さらに……
(旧金貨は、偽造でなければ混ぜ物が無いことが一般に知られているために、価値が高くなります)
「とりあえず、どこに向かおうか?」
俺は、二人に聞いてみる。
「旅をするのなら、ここからずっと北にあるパーライトという町に行きたい」
スージーが自己主張をするなんて珍しい。
それでリンプーが、スージーに聞く。
「どうして、そのパーライトという町に行きたいのニャ?」
「キャプテン・ミッドは、最初に私を産み出したころは、よく自分の話をしてくれた。
その話の中で、パーライトの時計台の塔から見る夕陽が、世界で一番きれいだったそうだ。
世界一キレイな景色がどんなものか、見てみたくなったからだ」
リンプーも、パーライトに向かうのは賛成のようだ。
「パーライトは、ファルマイト公国のそこそこ大きな町だニャー。
そこなら、十分古い金貨を帝国金貨に両替できるニャン。
ただ、結構遠いニャ」
それを聞いて、最初の目的地が決まった。
「そうか。じゃあ、まずはパーライトって街を目指そうか?」
ここで、スージーが大事なことを言った。
「パーライトは内陸の街だから、船では行けない」
「じゃあ、どうやって行こう?」
困り切った俺に、リンプーが助け舟を出してくれる。
「北に向かえば、ここよりも大きな港町はいくらでもあるニャン。
そこで両替したり、高価な換金性のある商品を買ったりすればいいのニャ。
持ち運べる量になったら、船を港に預けて内陸に向かえばいいのニャ」
「よし、それならまずは、北の大きな港町に向かって、しゅっぱーつ」
「出発進行ニャーッ」
「「オーッ」」
俺たちは声をそろえて、出航した。
急ぐ必要もないので、帆もマスト一本だけに張った。
船の速度は半分以下になるが、これなら3人でも何とかなる。
陸地から離れないように沿岸部を進んでいけるので、食料や日用雑貨も港々で調達できる。
3人で並んで甲板に座って、コーヒーを飲みながら水平線の上を飛ぶカモメを見る。
美女二人に挟まれて、幸せだ。
「すっかり、海上で暮らすことに慣れちゃったよ」
落ち着いた俺に、スージーがまじめな顔で言ってくる。
「そういえば、ゼロたちはまた海賊になると手紙に書いていました。
手近なところで始めるでしょうから、この旅の途中で襲われるかもしれませんね」
「襲い掛かってきたら、返り討ちにしてやるニャー。
奪っていった金貨も、それまで海賊して奪った稼ぎもまとめて取り上げてやるニャ」
「この世界にコーヒー豆があることを教えてくれたりとか、結構ゼロも役に立ってくれたんだけどな。
結局、最後まで裏切られっぱなしだったな」
「トモヤは甘いニャ。
アタイは、絶対に許さないニャ。
ネコを海に投げ込むなんて、絶対にしてはいけないことだニャン」
リンプーの表情に殺意がアリアリと見て取れる。
やつら、この船のことは知っているから、絶対に襲ってはこないはずだな。
「それはそうとリンプー、俺をこの世界に連れて来てくれて、ありがとうな。
そして、冒険の旅を一緒にしてくれて、本当にありがとう」
「ニャハハー、アタイはトモヤのためなら、何だってする覚悟だったからね。
感謝の気持ちは、アタイへの愛情で示してくれたら十分ニャ」
リンプーへの愛情?
どうやって示せばいいんだろう?
スージーにもお礼を言う。
「スージー、お前がいなけりゃ俺は生きていられなかった。
たくさんの場面で、助けてくれてありがとう。
フリントというか、キャプテン・ミッドからも守ってくれて、本当に助かった。ありがとう」
スージーが、遠慮がちに言葉を返す。
「あ、あの。トモヤ。
私も、トモヤにお礼を言いたい。
でも、私がなぜお礼を言いたいのか、上手く説明できないんだ」
「そうなのか?
俺はお前に感謝している。
それだけで十分だから、別にお礼を言ってくれなくてもいいぞ」
しかし、スージーの言葉が棒読みじゃなくなってきている気がするんだよな。
「いや言いたい。
仲間と言ってくれて、嬉しかったからなのかな?
ちがうな。うーん。そうだなあ。
あえて言葉にするならば、トモヤ、生きていてくれてありがとう。
私と出会ってくれて、ありがとう」
「ウニャー。スージー生意気だニャー」
突然、リンプーが怒りだす。
スージーは、怒られる理由が分からない。
「どうして生意気なのですか?」
「その言葉は、アタイがトモヤに言いたかったニャー。
ずるいニャ、ずるいニャー」
リンプーが、本当に地団駄踏んでいる。
「二人とも、ありがとう。
こんな俺を大切に思ってくれる人が出来るなんて、ちょっと前まで考えもつかなかったよ」
ちょっと涙がこぼれそうだ。
「何を言ってるニャー。
アタイは、ずっとネコの姿だったけど、トモヤのことを大切に思っていたニャ」
「そ、そうか。
身近にある幸せを感じ取れなかっただけなのかな?」
「本当ニャ。
こんなに一途なアタイの気持ちに気づかニャイなんて、失礼な奴だったのニャ。
ちなみに、スージーの想いは一途じゃないニャ」
「どうして私は一途じゃないんだ?」
「スージーがトモヤを好きになったのニャンて、ここ数日のモノニャ。
アタイとは年季が違うニャ」
「一途かどうかは、時間の長さじゃなくて思いの強さではないのか?
私は、長い人生の中でトモヤ以外の人を好きになったことはないから、一途の定義に当てはまるはずだ」
「ウヌヌー、スージーも言うようになったニャ」
航海の間、ずっとこの調子だ。
二人が言い合うネタは、食べ物のことだったり、海の広さみたいな世の中の仕組みの話だったり様々だけど。
騒がしいけど、こんな旅も良いか。
俺は、なんだか満たされた気分になった。
前の世界では、感じられなかった感覚だ。
これからの旅も平たんな道じゃないと思うけど、この二人と一緒なら幸せな未来しか想像できないな。
「二人とも、これからも本当によろしく頼むな」
「まかせておけ」
「まかせておくニャ」
力強い返事に、舵を握る手にも力が入る。
「俺たちの旅は、始まったばかりだ。
まっすぐ進むぞ! ヨウソロー」
ご愛読ありがとうございました。




