54.財宝の分配
「あの野郎。やってくれやがったな!」
アンヘルが怒っている。
「あの人らしいんだな。
一声もかけてくれなかったのは、少し悲しいけど」
ディエゴは、少し寂しそうだ。
アンヘルとディエゴは、俺たちと心が通じ合っていると思ったんだろう。
ゼロたちは、この二人には一切情報を与えなかったようだ。
「どうする? 追いかけていって取り返すか?」
スージーが聞いてくる。
確かに、今から急いで帆を張って追いかければ、手でオールを漕いで逃げていくゼロたちを捕まえるのは容易だろう。
ただし、奴らが今何処にいるか分かれば、だが。
「じゃあ、アタイが見て来てやるニャー」
リンプーは、言うが早いがオペラグラスを持ってマストに登った。
船の周囲を見回す。
「どうだ、リンプー。奴らは見えるか?」
「うーん。おかしいのニャ。
そんなに遠くに行けるはずニャイんだけど、どこにも見当たらないニャ」
「奴らは海の上では、テントの布をカモフラージュ用に使っている。
恐らく、そのせいで発見できないんだろう」
スージーが教えてくれるが、そういえば奴らのテントは海の色だったな。
「もういいよ、リンプー。
降りてきなよー」
声を掛けたら降りてきた。
「裏切り者を逃がすのかニャ?」
「ここで追いかけて捕まえても、また戦ったりするのは厄介だしな。
奴らのことだから、何か仕込んでいるかも知れないし」
「まあ、トモヤがそう言うなら、ほっとくニャン。
でも、今度会ったら許さないニャ」
「あの、私は聖杯だけもらえたら満足なので。
でも、聖杯は、金貨何百枚の値打ちがあるって聞いたので、申し訳ありませんけど。
あっ、お母さんが治ったら売って、皆さんでそのお金を分けていただいたら、どうでしょうか」
セリカちゃんが申し訳なさそうに言う。
「いや、セリカちゃん。そんな気を使う必要は無いよ」
俺は、キッパリと言い切る。
「でも……」
セリカちゃんは、困った様子だ。
「そんなことより、聖杯が無事かどうか確かめた方が良いんじゃないかな?」
俺の言葉で、セリカちゃんはあわてて荷物を調べる。
「あ、ありました。ちゃんと残ってました」
「私が宝箱の見張りをしていたから、金貨を抜き出す隙はほとんどなかったはずだ。
奴らは、金貨を盗るのに専念していたんだろう。
そっちが無事でよかった」
スージーが少しホッとしているように感じる。
「多分、昨日の晩に盗んだんじゃニャくて、スージーも一緒に甲板に上がっている食事の最中に、毎日少しずつ抜き取ったと思うニャ」
リンプーが呆れたように言う。
アンヘルが、忌々しげにつぶやく。
「確かに思い出してみれば、あいつら飯の途中に用を足しに行くことが多かったな」
「ワシは金には困っとらんからな。
ワシとディエゴ君は、分け前が無くても構わないぞ」
リブジーさんが、遠慮がちに言ってくる。
「だから、リブジーさんも遠慮しないでください」
俺は、ちょっと戸惑った。
アンヘルが、少し声を大きくする。
「でも、金貨100枚だけになっちまったんだろ。
やっぱり俺の取り分は、最初の契約通り金貨1枚だな。
元々のメンバーである船長にリブジー爺さん、セリカ嬢ちゃん、ネコ娘のリンプー、スージーで5人だ。
これだけでも一人20枚以下になっちまう。
普通に考えて、俺やディエゴの取り分は無いだろう」
「オデは、それで構わないんだな」
ディエゴが、アンヘルに合わせる。
スージーが手をあげる。
「あ、あの。私もお金は要らないぞ」
「うーん。事情を知らないディエゴとアンヘルは仕方ないにしても、リブジーさんやスージーまで分け前が要らないとか、訳が分からないよ」
俺は、思わず口に出す。
「本当だニャー。
このままだと、キャプテン・ミッドの財宝はトモヤ一人のモノになってしまうニャ」
リンプーが、笑いを押し殺している。
「いや、金貨百枚は大金だが、財宝というにはチョッとしょぼいだろ」
アンヘルは、リンプーの反応に訳が分からないという顔をした。
「隠し立てしても仕方ないから、ネタバレするよ。
この宝箱は、見せ金だ」
「ええーっ」
俺の言葉に、アンヘルは腰を抜かさんばかりに驚く。
「信じてなかったみたいで、すまない。
でも、しっかり見せ金が活きてしまったから許してくれ」
俺は、謝る。
ディエゴは、あまり興味無さそうだ。
俺は、宝箱から金貨を拾い出した。
そして、底上げに使ったクッションを引っ張り出した。
「宝箱は、こうやって底上げしていたんだ。
中身は、別の所にある」
「別の所って、狭い船内に隠す場所なんてそうそうないぞ」
アンヘルの目の前で、スージーに宝箱をどけてもらう。
船底の床板をはがすと、麻袋が出てきた。
「船の底を二重底にしていたんだ。
ここに金貨が9千枚くらい入っている」
「正確には、古の帝国金貨9,116枚だ。
ゼロが98枚置いていったから、合計9,214枚だ」
スージーが、正確な数字を教えてくれる。
いつの間に数えたんだろう。
「ということは、金貨1万枚入っていたはずだから、ゼロたちは786枚持って行ったわけだニャ」
リンプーの分析結果を聞いて、スージーが計算する。
「3人で分けると、一人あたり262枚になります」
「計算が早いな。
じゃあスージー。残りを俺たち7人で分けたらどうなる?」
「9,214枚を7人で分けると、一人当たり1,316.28571428……」
「いやいや、分けられないから小数点以下は良いから。
それで、もし9人で1万枚を分けていたら、一人当たり1,111枚ってところか。
ゼロたちは、欲をかいて結局損したわけだ」
「ゼロの性格から言って、奴が船代として半分以上を取るだろうから、残りの二人は本当に割に合わねえな」
アンヘルが、大笑いしている。
「さっきも言ったが、老い先短いワシは要らんからな」
リブジーさんが、受け取りを拒否する。
「オデも、要らない」
ディエゴも拒否する。
「私は、聖杯だけでいいです」
セリカちゃんまで。
「ハッハッハ、じゃあ俺は、孤児院を作るのに必要そうな金貨100枚だけもらうぜ。
沢山持ってたら、ギャンブルで擦っちまいそうだ」
アンヘルが、過少に受け取ろうとする。
「やっぱり、トモヤが独り占めになっちゃったニャ」
リンプーが大笑いする。
「じゃあ、アンヘル。
お前が孤児院を立ち上げたら、運転資金を寄付しに行くから、その時は受け取れよ」
「ああ、分かった。その時は、有難くもらうことにするよ」
俺は、セリカちゃんの方を向いて言う。
「セリカちゃん。お金は邪魔にならないよ。
せめて、千枚渡しておくよ」
「いえ。そんな大金を田舎の宿屋に置いておくのは危険です。
100枚あれば一生暮らせますから、100枚だけいただきます」




