53.後悔の無い航海
樽に泉の水を汲んで、ねこ車で運んで船に積み込んだ。
重いものを運ぶのに、力持ちのスージーがいるのは大いに助かった。
でも、ゼロたちも知っているジュニアを含めたキャプテン・ミッドの生きてきた歴史を考えると、スージーはすごい年月活動してきたことになる。
ゴーレムコアが傷や損傷を修復すると言っても、その仕組みが分からない。
心配なので、水を運ぶのは出来るだけねこ車を使ってみんなで分担した。
船の見張りは、俺とスージー、リンプー、セリカちゃんの4人で交代にした。
約一週間ほどで、水も食料も十分に備蓄できた。
この島を出発する時がやって来た。
セリカちゃんはお母さんの病状が気になって、すぐにでも帰りたそうだったが、リブジーさんの「数カ月の間で、病状が変わったりはしない」という言葉を聞いて、落ち着きを取り戻した。
リブジーさんは、同じ病気にかかった奥さんを看取っている。
アンヘルたちも元気を取り戻して、船員として働けるようだ。
ディエゴと合わせて、4人で帆を張ったり、畳んだりした。
ゼロが、舵を取る。
俺は、やっぱり名前だけ船長だ。ほぼ役に立たない。
また、海図の上に現在位置を書き込みながら航海を始める。
行きに比べて一人減っただけの状態なので、帰りの航海に支障はなかった。
島を出発して1日とちょっとで島は視界から消え、大海原を進む航海になった。
船の周り360度が水平線だ。
そこからは、まったく陸地が見えない状態で一カ月近く航海することになる。
金貨の入った宝箱は、隠された洞窟の中にあったせいもあって、鍵の類はついていない。
帰りの航海ではスージーを金庫(宝箱)番にして、俺たち5人の誰かが航海中に殺されたら、海賊たちを海に投げ落とすように命令しておいた。
ということにした。
ネズミ獣人のアンヘルが耳を振りながら、夕食を食べつつ文句を言う。
「ちょっと待てよ。医者のじいさんは、寿命で亡くなるかも知れねえだろ。
それで海に放り込まれたんじゃ、やってられねえぜ」
「だから、死んだらじゃなくて、殺されたらなんだよ」
「そうか。まあ、俺たちはお前に拾ってもらった命だから、分け前なんかいらねえんだがな。
だから、分け前のためにお前らを殺すなんて、絶対に無い」
アンヘルが、断言する。
一緒にキャンプから来た二人は無表情だ。
俺は、説明する。
「ゼロとディエゴにも言ったんだけど、無事にサウスパースの港に着いたら、一人につき金貨100枚ずつ渡す。
アンタたち3人もそれは一緒だ」
アンヘルの後ろの二人は、それを聞いて大喜びする。
「やったぜー。金貨100枚ありゃあ、ぜいたくな暮らしができるぜ」
「おおっ」
金貨100枚は、都会では1000万円、サウスパースみたいな田舎に行くと1億円の価値があるそうだからな。
まあ普通喜ぶだろう。
ディエゴは、微妙な顔をしている。
足りないとか考えているんだろうか?
こういうことは、ちゃんと話し合っておいた方が良い。
「ディエゴ、分け前に不満があるのか?」
「違うんだな。
オデは、お金をもらっても管理できないから、そんなにたくさんもらっても、金貨1枚もらうのと変わらないんだな。
港に着いたら、オデはリブジーさんと一緒に行くから、分け前は要らないんだな」
リブジーさんが補足する。
「ああ。病気の3人を介護をしている時、ディエゴ君のまじめな人柄がよく分かった。
あと数年もすれば、ワシは老いぼれて世話をしてくれる人が必要になるだろう。
ディエゴ君が、ワシの世話をしてくれると申し出てくれたんだ」
ディエゴが、ボソボソと補足する。
「お、オデも、リブジーさんが、敵だったはずのオデたちを介抱してくれて嬉しかったんだな。
こんな立派な人と一緒に居られるなら、それだけで良いと思ったんだな」
アンヘルが、それを聞いて大声でまくしたてる。
「そうか。じゃあ、俺も最初に約束していた金貨1枚にしてくれ」
アンヘルは、信じてもらうために言っているんだろうが、後ろの二人が納得いっていない顔だ。
「アンヘル。そうやって取り分を遠慮する人が出ると、100枚欲しくても言い出しにくくなると思う。
ひとまず港で100枚受け取って、必要ないなら孤児院に寄付するなりなんなりしてくれ」
同調圧力ってやつだな。
俺は、真剣な目でアンヘルの目を見つめた。
ジッと目をそらさなかったら、アンヘルが目線を外した。
「分かったよ。その金で、俺は孤児院を開くぜ。
貧しい子供たちが、海賊にならなくてもいいようにするんだ」
「立派だニャー。
その心がけを忘れるんじゃないニャ」
リンプーがバカにしたように言う。
「お、俺は本気だからな。
帰ったら、見てろよ」
アンヘルがムキになる。
ディエゴは好青年で、アンヘルは本当は良い奴だったようだ。
帰りの船内は、すごく和やか雰囲気になった。
あっという間に、ひと月の航海が終わりそうだった。
ある日のお昼ごろ、陸地がうっすらと見えてきた。
サウスパースの向こう側の山脈の山頂が、水平線から顔を出したのだ。
夕方には、すっかり陸地が見えるくらいにまで進んだ。
そこで、錨を降ろした。
その夜は、みんなで祝賀パーティーを開いた。
無事に帰ってこれたお祝いと、財宝を手に入れたお祝いだ。
残った食料も、惜しげなく出した。
久しぶりに破目を外した。
アンヘルたちのいたキャンプに残っていた、一樽の半分だけ残っていた酒も出した。
俺も、リンプーもしっかり飲んだ。
酔っぱらったのは、この世界に来て初めてだ。
今回は、公称13才の俺が飲むことにリンプーも文句は言わなかった。
セリカちゃんの目線は、チョット冷たかったけど。
翌朝、目を覚ますと人数が少ない。
アンヘルたちと一緒に助け出した二人とゼロがいない。
ボートも1隻無くなっていた。
船底にある宝箱を調べると、金貨を100枚ほど残して空っぽになっていた。
宝箱の底に、ゼロの手紙が残っていた。
『親愛なる子供船長へ
俺様は、お前らに船を沈められちまった。
あの船の借金は、金貨100枚じゃ足りねえ。
俺たち3人は、この金で又海賊船を手に入れて海賊に戻る。
後のやつらは財宝なんていらないみたいだったが、情けで100枚だけ置いて行ってやる。
数えたわけじゃないから、大体だけどな
不屈の海賊 キャプテン・ゼロ』




