52.財宝を手に入れて
俺たちは、ボートで財宝(と言っても金貨の箱1つと聖杯だけだが)を船まで運んだ。
まずは、聖杯を布で厳重に包んで、セリカちゃんのベッドの横のセーフボックスに入れた。
その他の日用品と一緒に入っているから目立たないし、みんな金貨の入った宝箱の方に目が行くだろう。
宝物を手に入れたら、先に4人で船に運び込むことは、前もってリブジーさんには伝えてあった。
元海賊組は、どうしても完全には信用できないからだ。
セリカちゃんは、聖杯を手に入れられたことに感激している。
「ああ。今日はこのまま、このベッドで眠りたい気分です」
「じゃあセリカちゃんは、このまま船の見張りに残ってもらおう」
「はい。申し訳ありません」
俺は、セリカちゃんに注意点を述べる。
「サウスパースに着くまで、しっかり隠しておいてね。
港に着いたら、リブジーさんに詳しく使い方を教えてもらおう」
「ひとまずセリカは良いとして、アタイとスージーのどっちかが残って宝の番をしないといけないニャ」
俺たちの仲間の中で、裏切らないと信じられて戦えるのは、この二人だけだ。
二手に分かれる場合は、バラバラになってもらう必要がある。
当然俺は、リブジーさんたちに説明する役目があるので、船には残らない。
「船が襲われることは、ゼロたちが裏切った場合以外ほぼ無いでしょう。
そして、ゼロたちが裏切った場合には、間違いなくリブジーさんたちを迎えに行った側は戦いになります。
私は、マスターとともに行きましょう」
スージーが力強く立候補してくれた。
「うーん。洞窟であんなことがあってから、スージーのトモヤを見る目が少し違う気がするニャ。
アタイが行った方が、良い気がするニャン」
リンプーが否定する。
見る目が少し違う?
俺はスージーの方を見るが、いつも通り無表情だ。
心が生まれてから、だいぶ経つと思う。
いろいろな感情が生まれる可能性は、十分ある。
今回、グランドマスターのミディアム卿ことキャプテン・ミッドの制約から、何百年ぶりに完全に自由になったわけだ。
俺は、聞いてみる。
「スージー。
俺たちは仲間だよな?」
「はい、間違いありません」
いつも通りの答えに聞こえるが、ああいうことがあったせいだろうか、少し力がこもっている気がする。
お金が全部欲しくなったとか、そういうことは無いだろう。
「リンプー、大丈夫だよ。
スージーは間違いなく俺たちの仲間だ。
もしスージーに変な感情が生まれていたなら、フリントを倒した後でも、俺たちを撃ち殺す機会はいくらでもあったんだから」
「そうですよ。心配し過ぎですよ。リンプーさん」
セリカちゃんも、ニコニコしながら俺の意見に賛成してくれる。
笑顔がすごくまぶしい。
お母さんを助けられる古代の秘宝が手に入って、本当にうれしいんだなあ。
「そういう意味じゃ、ないんだけどニャー」
リンプーも仲間を疑うのは、気が引けるんだな。
ちょっとシブシブそうだが、スージーを行かせることに納得してくれた。
財宝を守るためにリンプーとセリカちゃんを船に残して、俺とスージーは再度島に向かう。
ボートに二人で乗って、吊り下げたクレーンを降ろす。
着水した瞬間の揺れが少し大きかった。
「キャッ」
スージーが、抱きついてきた。
えっ、ええっ。こんな事今までなかったな。
何があっても、動じることはないという印象だったんだけど。
機械人形とはいえ、すごい美人だ。
美人に抱きつかれて、なんだかうれしい。
思いっきり、にやけてしまう。
「オーイ、そこ。引っ付き過ぎだニャー」
甲板の上から、リンプーが叫んでいる。
とにかく、二人とも一本ずつオールを持って漕いで行く。
息を合わせて漕がないと、曲がってしまう。
島までは、そこそこ距離があるのだ。
俺は、船を漕いだだけで結構息が上がったが、スージーはやっぱり平気そうだ。
俺とスージーは、リブジーさんたちがいるはずの、アンヘルと二人の海賊が寝ているキャンプに向かった。
「マスター。お疲れのようですが、大丈夫ですか?」
スージーが、俺のことを気遣ってくれている。
「ああ。色々あったからな。
ちょっと疲れちゃったけど、財宝も手に入ったし、目的を一つにした仲間と一緒に行動できたことが、何よりうれしい。
なんだか心がウキウキしていて、体の疲れが気にならないかな」
「そうですか。私も、マスターと二人きりで行動出来て嬉しいです」
制約から解放されたせいだろうか。
スージーが、すごく人間らしくなってきた気がする。
「俺も、うれしいよ」
キャンプに着くと、ゼロが焚火をしていた。
リブジーさんとディエゴは、テントの中のようだ。
少し警戒しながら近づいていくと、ゼロが軽い調子で話しかけてきた。
「おう、子供船長さんよ。
お宝は、手に入ったのか?」
「ああ。船に積み込んできた。
リンプーとセリカちゃんは、船で待ってもらっている」
「すごい財宝だったはずだが、お前たちだけで運び出せたのか?」
「キャプテン・ミッドの魂を宿したフリントが死んだら洞窟が崩れてしまったから、ほとんどは埋まってしまったけどな」
「そうか。そいつは残念だ。
宝を狙っていた3人とは会わなかったのか?」
「しっかり出口で待ち伏せされたけど、スージーがやっつけちゃったよ」
俺はそう言いながら、スージーの方を見た。
スージーは、いつも通り無表情だ。
「じゃあ、安心だな」
ゼロが、焚火に追加の薪をくべた。
リブジーさんの見立て通り、キャンプにいた海賊たちは2,3日で歩けるまでに回復した。
その間に俺たちは、狩りをしたり釣りをしたりして食料を調達していた。
セリカちゃんは、食べられそうな木の実や草をたくさん集めてきた。
帰りの航海も一カ月ほどかかる。
海の上では、魚だけしか補充できない。
動けるようになった3人にも協力してもらって、肉の処理も始めた。
帰りはシウバがいないせいで冷凍ができないので、簡易なベーコン作りをした。
まず、石を集めて来て燻製窯を作る。
俺が地球から持ってきた金網が、ここで役に立った。
野生動物の肉を塩漬けにして、煙でいぶした。
ひと月ぐらいなら、腐らずに食べることが出来るだろう。
実は、俺はベーコンの作り方なんて知らなかった。
リンプーがいろんなことを知っていることに、感心した。
「エッヘン、アタイを崇めたたえるニャ」
「へへーっ。リンプー様のおかげで、助かりますだ」
俺は思いっきりへりくだって、リンプーに感謝の意を示した。
「うむ。その気持ち、忘れるでないぞ、なのだニャー」
ちょっと、調子に乗らせてしまったかな。
でも、伝説の財宝も手に入れられて、俺たちが調子に乗るのは仕方ないよな。




