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48.洞窟に入る

「あっ、俺様のせいで話が途切れちまったな。

 すまねえ、続けてくれて構わねえぜ。

 奴らの動きが、2通り考えられるって話だったよな」


 ゼロの話を聞いて、思い出していた。

 一時期、親ガチャという言葉が流行っていた。

 結局幸せになれるかどうかは運次第だって話で、人生の最初に当たりの親を引くことができれば、人生がずいぶん有利になるという意味だった。

 ただ、親ガチャが外れと言ったって、国ガチャで日本、時代ガチャで令和を引いている時点で大当たりだという話もあった。


 実際、この世界でこの時代だと、普通に飢え死にとかあるし、殺し合いとかも日常茶飯事みたいだ。

 怪物や野生動物に襲われて死ぬことも多いみたいだし、色々な物資をもって転移していなければ、俺だってすぐ死んでたかもしれない。

 本当によっぽど恵まれた生まれでないと、生きていくことさえ難しいだろう。

 生き残るためには、何だってやらないといけないはずだ。

 海賊だから悪いやつだとか、裏切るとか考えるのは、少し違うような気もしてきた。



「トモヤ。考え込んでいないで、話の続きをするニャ」


 リンプーに言われて、我に返る。

「あ、ああ。そうだな。

 具体的には、明日の朝、みんなで島に上陸する。

 船は沖合に停泊して、小舟はいつもと違う場所につける。

 オールは、持って移動だ」


「まあ、船を狙ってはこないとは思うが、万一小舟を取られても漕ぎ出せないってことか。

 でも、小舟を沈められたら一緒だろ。

 船には戻ってこれないぜ」

 ゼロが、指摘する。


「この船に積んである小舟は、一隻じゃない。

 万一、島につけた小舟を沈められたら、泳いで船にたどり着ければ別の小舟を出せる。

 誰かひとり、たどり着ければいいんだから何とかなるだろう。

 渚に停泊している海賊の小舟を使うことだって、できるしな」


「そこまで考えているのか。

 ご苦労さんなこった」


「ほとんどは、俺じゃなくてリンプーが考えたんだけどな。

 そして、島に着いたら、二手に分かれる。

 リブジーさん、ゼロ、ディエゴの3人と、俺、リンプー、スージー、セリカちゃんの4人だ」


 でも、なんだかちゃんとリーダーしているな、俺。

 ちゃんと説明できてるぞ。

 元の世界で、こんなにちゃんとコミュニケーションを取れたかな?

 これって、やっぱりリンプーのおかげなのかな?




 とにかく、島に上陸してから別れた後のことについても説明したが、ゼロたちも納得したのか特に質問も反論も出なかった。

 その後は、もう寝ることにして自由時間にした。


 信じていることを示すために、もうゼロもディエゴも縛り付けたりはしなかった。

 ゼロは、舳先へさきに座って隠し持っていた酒を飲んでいるようだ。

 ディエゴは、甲板でボーッと星を見ていた。


「仲間に信号を送ったりとかは、もうないですよね」

 セリカちゃんが心配そうに聞いてくる。


「宝を手に入れるためには俺たちが必要なはずだし、変な気を起こしたとしても、寝る必要のないスージーが見張っているから大丈夫だろう」

 俺は、笑顔で答えた。

 スージーは、ちゃんと二人を同時に見張れる場所に位置している。



 ディエゴに倣って、俺も空を見た。

 満天の星空だ。ただ、よく見たら月が二つ出ていた。

 異世界にいるってことを実感した。


 リンプーには、もう元の世界に戻れないって言われたけど、もし財宝が手に入っても入らなくても後悔は無い。

 ここまでの冒険で、今まで経験したことのないほどハラハラドキドキした。


 ずっと女の子に縁のない生活をしていたけど、ここではリンプーやセリカちゃん、機械人形かも知れないけどスージーと、3人のキレイどころに囲まれている。

 前の世界では、考えられなかったことだ。

 母が亡くなった後は、話をする女性って姉くらいのもんだった。

 ちょっとニヤけてしまった。




 日の出とともに、俺たちは小舟で島に向かった。

 船の船室にはカギをかけた。

 リンプーの指輪がないと、船を操作できない。

 帆を張ったり降ろしたりは出来るが、舵を切れないければ操船できないから、船は奪われないはずだ。


 今までとは違う場所にボートをつけて、上陸した。

 打合せ通り、途中で二手に分かれた。

 2つ持ってきたオールは武器にもなるので、セリカちゃんとディエゴが一つずつ持った。


 多分、敵対する3人の海賊は財宝を隠してある洞窟の方にいる可能性が高い。

 だから、洞窟に入る俺たちの方にスージーとリンプーを配置した。

 この二人に守ってもらわないといけないので、自動的にセリカちゃんもこちらになった。


 リブジーさんたち3人は、アンヘルたちが寝込んでいるキャンプの方に行ってもらった。

 アンヘルたちは話ができるくらい回復したとはいえ、まだ病人だ。

 財宝を手に入れた後、船まで運ぶかどうかなど、お医者さんであるリブジーさんに判断してもらう。


 ゼロとディエゴには、リブジーさんの護衛を頼んである。

 万一リブジーさんが無事ではなかった時は、二人は島に置いていくと言ってあるから、キチンと護衛するはずだ。



 山のふもとの川の分かれ目に、目印の木が立っている。

 その木の横の岩陰に穴が開いていて、そこから地下に洞窟が続いている。


 洞窟の入り口で、俺がランタンを用意しようとすると、リンプーがズイッと前に出てきた。

「トモヤ。ここは、アタイに任せるニャ」

 そう言うと、なにやら呪文を唱える。


 リンプーの前にフワフワと、火の玉が漂う。

「リンプー、お前。こんな便利な魔法を使えたのか?」


「海賊たちには、アタイが魔法を使えることを知られないようにしてたニャ。

 宝探し組をこの4人にしたのは、このことを知られても大丈夫なようにだニャン」


「そうか。LEDランタンも、電池がなくなったらただの飾りだからな。

 助かるよ」

 俺が先頭に立って洞窟に入ると、火の玉は俺の頭の前、数メートルの場所にユラユラと浮かんで辺りを照らす。


 まず辺りを見回すが、どうやら海賊たちはいないようだ。

「よし、大丈夫みたいだ。入っていくぞ。

 スージー。もし洞窟の中で奴らが出てきたら、撃ち殺しても良いからな」


「トモヤも、やっと覚悟を決めたのニャね」

 リンプーが、やれやれという顔をしている。


「いや、もし可能なら撃ち殺さずに追い払ってほしいけど、それは難しいだろ」


「了解しました。マスター。

 見つけたら遠慮なく撃ち殺します」


 俺は、殺すことを否定しなかった。

 少し前なら、ちょっと遠慮して欲しいとか言っていたと思う。

 ただ、奴らが洞窟の中に隠れていないことを祈った。

 人が死ぬところを何度か見てしまったが、やっぱり気持ちいいものじゃない。

 出来れば、見たくないからな。

昨日、モデルナの2回目接種を受けてきました。

モデルナアームと発熱、倦怠感のコンボ攻撃で、ヘロヘロです。

今日は仕事を休みましたが、一日でこの『あとがき』しか書けていません。


ばくやく令嬢の更新は、明日10月14日はお休みさせてください。次回更新は、10月16日(土)15時を予定しています。

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