47.船か、宝か
翌朝俺は、リブジーさんとリンプーを連れて、もう一度海賊たちのキャンプに行った。
縛り付けていたはずの二人は、いなくなっていた。
たった一晩で、寝ている3人は話もできないほど衰弱していた。
リブジーさんが、治療薬を注射して数時間、昼過ぎには3人とも食事ができるほどに回復した。
治療薬、すごい威力だな。
食事ができるといっても、すいとんレベルだが。
海賊のキャンプには、小麦粉などの食料が運び込んであったので、それを使って調理した。
小麦を水で溶いて練ってから、お湯の中に入れて塩で味付けしただけだけど。
「へっ。これでお前は、形見を預ける知り合いから、命の恩人に格上げになったわけだ」
アンヘルが起き上がろうとするので、それを止めながら聞く。
「昨日の晩、外に縛り付けておいた二人なんだけど、今朝にはいなくなってた。
自分でロープをほどいたのか、昨日いなかった奴が夜にやって来てほどいたのか、それが知りたい。
何か知らないか?」
「俺たちは、ほとんど意識がなかったからな。
ちょっと分からねえ。
ただ、ここにいる顔ぶれを見る限り、ラファエルとリュカとウーゴが見当たらねえ。
昨日二人を縛っていたんなら、もう一人は周りを巡回していて、お前らがいなくなってから助けに来たんだろうな」
ゼロから聞いた話を総合しても、その3人が強硬派で、俺たちの命を狙ってくる奴らだってことで確定だろう。
その3人が武器を持って、島の中をうろついているのは不気味だ。
そして、宝のありかも知っているわけだ。
俺は、テントから離れてリンプーに相談する。
「海賊の中の強硬派3人は、どこにいるかわからない。
宝物が隠された洞窟の中に潜んで、待ち伏せをされるかも知れない。
渚に停めた小舟で、船を襲われるかも知れない。
情けなくて申し訳ないけど、俺たちの中で武器を持った3人と戦えるのは、リンプーとスージーだけだ。
どうすべきだと思う?」
「船を襲われないように渚の小舟を全部破壊して、明日にでも洞窟探検かニャア」
「小舟があれば、俺たちが去った後も海賊たちは魚を取って生きていけるだろ。
置いておきたいな。破壊せずに、遠くまで漕ぎ出せないようにできないかな。
俺達が船と島の間を往復している舟も、後をつけられていたら危ない気がする。
もしものために、海賊の小舟は残しておきたいな」
「それなら、舟のオールを全部持って帰ったらいいニャ」
「リンプー、お前すごいな。
そんなにスラスラ対策が考えられるなんて」
「アタイだって、ずっと考えていたのニャよ」
俺とリンプーは、渚に停めてあった小舟の一隻をのぞいて底に穴をあけて沈めた。
オールは、森の中に穴を掘って埋めておいた。
リンプーが、穴掘りに使ったスコップを持って上機嫌だ。
海賊たちのキャンプで、死体を埋めたところに差してあったのを抜いてきたのだ。
「人類史上、最もたくさんの人を殺した兵器を手に入れたニャ」
「えっ? 銃とか爆弾じゃないの?」
「こっちの世界では分からニャいけど、トモヤのいた世界では、19世紀の終わりから20世紀の初めごろに塹壕戦が繰り広げられて、スコップで何十万人も殴り殺されたそうニャ。
一説には、何百万人ともいわれてるニャ」
「へえっ、リンプーって意外と物知りなんだな。
いろんな対策も考えられるし、ネコ獣人って頭がいいんだな」
「ネコ獣人がっていうより、アタイが優秀なのニャよ」
俺たちは一通りの作業を終えると、キャンプで患者の容態を診ていたリブジーさんと合流して、大急ぎで船に引き返した。
俺たちが乗ってきた小舟は、無事だった。
夕食を食べながら、みんなに提案する。
ゼロとディエゴは解放した。
二人の協力なしでは、どうしようもないからだ。
「明日、朝から島に上陸して、宝探しを開始したいと思う」
「おお、やっとか」
ゼロが、すっかり我が物顔だ。
「言っとくけど、ゼロとディエゴには、宝物を山分けしないからな。
最初の契約通り、サウスパースの港に着いたら、金貨1枚ずつ渡す。
だけど、無事に宝物を手に入れて帰ることが出来たら、報酬を上乗せする。
本当に宝の地図に書かれていた通りの財宝が見つかった時は、一人金貨100枚ずつ渡す。
宝なんて無かったら、最初の約束通り金貨1枚ずつしか渡せないけどな」
「ウヒョー。金貨100枚ありゃあ、一生遊んで暮らせるぜ。
神様、仏様、トモヤ様だな」
ゼロが、調子に乗っている。
「ディエゴも、そんなにもらえたら大満足なんだな」
ディエゴも納得しているようだ。
「大事なことだから2回言っておくけど、宝なんて無かったら、金貨1枚ずつしか渡せないからな」
本当は山分けしてもいいんだけど、頭数が減ったら取り分が増えるとなったら、海賊たちは殺し合いをするかもしれない。
まあ、アンヘルたち3人が回復して加わったとしたら、また人数的には海賊の方が多くなる。
俺たちが海賊に襲われないように、ちゃんと考えておかないと危険だ。
「わかってるぜ、ダンナ。
俺様は、もう裏切らねえよ」
ゼロが俺の肩をポンポンたたいてくるが、どうも信用しきれない。
俺は、ゼロを無視して話を続ける。
「宝探しを始めるにあたって最大の問題は、3人の強硬派海賊の対処だ。
敵の動きは、ほぼ2つに絞られると思う。
1つ目は、財宝が隠されている洞窟の入り口か、洞窟の中で待ち伏せすることだ。
奴らは、宝物の間のカギを持っていない。
そのカギか、見つけた財宝を俺たちから奪うしかないんだ」
「そのカギってのは、アンタが持ってるのか?」
ゼロが聞いてくる。
「そんなこと、教えられるわけないニャろ。
アタイ達にしたことを忘れたとは言わせないニャ」
リンプーが、キッとにらみつける。
俺は気を取り直して、話を続ける。
「2つ目は、この船を奪ってくることだ。
無人島に取り残されたら、狩猟で食べ物を手に入れる原始人の生活をしなきゃいけない。
海賊の優先順位は分からないけど、普通の人なら宝物より船を確保したいはずだ」
「それは無いんじゃねえか。
奴らは、海賊だからな」
また、ゼロが話に割り込んでくる。
セリカちゃんが、納得いかない様子だ。
「命の方が、お金より大事でしょう。
私たちが、財宝をあきらめて帰ってしまったら、あの島に取り残されるんですよ。
本当に原始人の生活になってしまいますよ」
「奴らは、貧乏な犯罪者だ。
まともに働くことも、できねえはずだ。
財宝を手に入れずに帰ったって、原始人以下の生活しかできねえよ。
だから、殺し合いをしてでも財宝を奪う選択肢を選んだんだ。
アンタたちには分らんだろうが、貧乏な出の海賊には金より大事なモノなんて無いのさ」
ゼロの話を聞いて、みんな黙り込んでしまった。




