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43.海賊の聞き取り調査

 さて、その日の朝食は俺とリンプー、セリカちゃん、リブジーさん、スージーに加えて、ゼロとディエゴの7人でテーブルを囲むことになった。


「信じてほしいんだが、俺様とディエゴの二人は、海賊のお宝にあまり興味がねえんだ。

 だから他のやつらとの意見が分かれちまったんだ。

 俺様たちがアンタたちと敵対する心配は、ねえ」

 パンをちぎりながら、ゼロがまたこの話を始めた。


「興味なかったなら、地図を奪う必要もアタイ達を裏切る必要もなかったはずニャ。

 いい加減なことを言ってるんじゃないニャ」

 相変わらず、リンプーは聞く耳を持たない。


「いや。俺様とディエゴは、アンタたちに一切暴力をふるっていないはずだ。

 それが証拠だぜ」


「アタイは、アンタに海に叩き落とされたんだけどニャ」


「ま、まさか、お前、あの時のトラネコか?

 ゴフッ、ゴホッ」

 ゼロが、動揺したのかパンをのどに詰めて咳き込む。


「その通りニャン。

 しかも、アンタ。サメを引き寄せるために海に魚肉を撒いてたニャ」


「い、いや。それは、俺様はトラネコにトラウマがあって、仕方なかったんだ。

 それに、結局みんな無事だったわけだしな」


「どんなトラウマだニャー?

 確かにディエゴのやつは、トラネコのアタイにもエサをくれたりして優しかったけど、ゼロはちっとも優しくなかったニャ」



 ゼロは少し考えた後、また話し始めた。

「ま、まあ、そいつは悪かったな。

 サメのエサにしようとしたことは、謝る。

 だが、俺様はネコが嫌いなだけで、アンタたちと対立する気は無いんだ。

 それに、少なくともディエゴが良いやつなのは、分かってくれてるんだろ」


「まあ、こいつは悪いやつではないみたいだニャ」

 リンプーに指さされたディエゴが、照れ笑いしている。


 少しずつ打ち解けてきて、和やかな空気になってきた。

 だが俺は、正直言って信じられない。

 それを口に出した。

「だから信じろというのは、虫が良すぎるんじゃないかな。

 俺とリンプーは命を落としかけたこともあるし、一つ間違っていればセリカちゃんは、心に大きな傷を負っていたことだろう。

 お前たちが裏切らなければ、普通に今頃財宝を手に入れて、帰りの航海の準備をしていたはずだ」


「まあ、全面的に信じてくれとは言わねえよ。

 ただ、これだけは言えるぜ。

 たとえ無事に海賊の宝を手に入れたとしても、非力な子供船長とお嬢さんたちじゃ、サウスパースに帰り着くことは不可能だ。

 だが、俺様とディエゴがいれば、帰り着くことが出来る可能性は倍どころじゃねえほど増えるってことだ」


「ここまで裏切らずに一緒に航海してきた仲間が言うならわかるけど、お前たちではニャー。

 とにかく、海賊の宝の分け前は、お前たちにはやらニャイよ」


「それで構わねえ。俺様たちは、生きて帰ることを第一に考えているんだ」



 セリカちゃんが、ここで遠慮がちに提案してくる。

「あ、あのー。

 いつもは縛り付けておいて、食事のときとか帆の上げ下ろしの時だけ解放するというのはどうでしょうか?」


「ハッハハ。お嬢ちゃん、なんだかんだ言っても厳しいね。

 まるで奴隷の扱いだ。

 でも、俺様はそれでも構わないぜ。

 ディエゴ。オメエはどうだ?」


「お、オデは、それでもいいんだな。

 でも、トイレだけは好きな時に行かせて欲しいんだな」


 セリカちゃんが、謝る。

「すみません。とっても酷い仕打ちだとは思います。

 確かにトイレはいいと思うんですけど見張りが必要なんで、私が見張りの時は勘弁してほしいです。

 でも、牢屋とかが無いので仕方ないんです」

 ちょっと言い訳臭い。


「ゼロとディエゴを今後どうするかは、少なくともしばらくは今のままの運用で行くしかないだろう。

 それよりも、本当に俺たちの側に来るつもりなら、奴らの情報を話してもらおう」

 俺も、しばらくは大丈夫だと思い始めている。

 ディエゴは体が大きいが、あまりずる賢くはなさそうだ。

 ゼロが悪だくみをしなければ、大丈夫だろう。


 しかし、ゼロは信用ならない。

 あれほど仲間らしく振舞っていた前半の航海中でも、仲間に信号を送っていた訳だし。

 そのことが、全くばれなかったこともある。


 特に、海賊の財宝が手に入ったら、その時はまた処遇を考え直さないといけないかもしれない。

 金貨1万枚、日本円にして10億円。

 サウスパースでは、100億円相当の価値があるそうだ。

 金を目の前にすると、人間は変わるというからな。




 ゼロが、まず敵の陣容を教えてくれた。

 元気な3人は、ラファエル、リュカ、ウーゴだそうだ。

 3人とも武闘派で、曲刀を持っているので非常に危険だ。


 対して、ゼロ達は武器やら何やらを全部没収されて解放されたらしい。

 

 ただ、奴らはスージーが強いことも知っているので、簡単に襲い掛かってくることもないだろうとのことだ。

 だからといって、ゼロ達のように降伏してきたりはしないだろう。

 それをするくらいなら、最初からゼロ達と争う必要もなかったはずだ。


 おそらく、こちらが油断した隙をついてくるだろう。

 財宝を見つけて、運んでいるところなんかが危なそうだ。

 あるいは、もしかしたらもう財宝を取りに行っているかもしれない。


 先に財宝を確保されたら面倒だ。

 奴らは財宝を、俺たちは帰る手段を持っていることになる。

 奪い合う戦いになるだろう。


 寝込んでいる5人は、あと1週間やそこらで回復しそうにはないということだ。

 一週間以内に宝探しに行ってしまえば、こいつらを意識する必要はなさそうだ。

 急ぐ必要がありそうだ。




 俺は、リンプーに聞く。

「ゼロ達は、ウソはついていないか?」


「ウニャー。ついてないみたいだニャン」


 ゼロは驚いたように聞いてくる。

「なんだ? このネコの姉ちゃんは、ウソをついていたら分かるってのか?」


「ああ。その通りだ。

 でも、それにもかかわらず前半の航海中は俺たちをだませていたんだから、不思議だ」


「それはきっと、フリント、あのドラゴンパピーの仕業だろう。

 奴は、いろいろ不思議な魔法を使うみたいだからな」

 聞けば、奴は人語が理解できるらしいし、ゼロも知らない秘密がありそうだ。


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