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42.朝のコーヒー

 朝起きて、潮風に当たりに甲板に上がった。

 夜中に一度見張りのために起きたので、なんだか寝たりない。


 と、甲板の上で信じられない光景を見た。

 デッキのテーブルの前に、ゼロが腰かけて優雅にコーヒーを飲んでいる。


「お、おい、ゼロ。どうやって縄を抜け出したんだ?」


 ゼロは、特に動じるでもなく答える。

「せっかくのいい朝だ。

 そんなムキになって、突っかかってくるもんじゃねえぜ」


 俺は、まくしたてるように早口になった。

「いや、ベッドに縛り付けていたはずの海賊が、船の中で自由にくつろいでいるんだ。

 ムキになるのは、当たり前だろう!」


「このコーヒーは、豆を船室に隠してたんだ。

 海賊船に去っていく時に回収し忘れたんだが、ここで役に立った。

 アンタたちの分もあるから、れてやるよ」

 そう言って、ゼロはポットからカップにコーヒーを注いで、テーブルの上に置いた。


 俺は文句を言いたかったが、久しぶりに嗅ぐコーヒーの香りの誘惑に負けてしまった。

 ゼロの前のイスに腰かけて、事情を聞こうとする。

「それで。

 どうやって、縄を抜け出したんだ?」


「まあ、いいじゃねえか。

 固いことは、言いっこなしだぜ」

 うーん、困った。どうしたものだろうか。



「ト、トモヤ君。ゼロを解放して良かったのかね?」

 驚いた声がしたので振り向くと、リブジーさんが焦った顔でこちらを見ている。

 今、起きてきたみたいだ。


「い、いや、違うんです。リブジーさん。

 俺が起きてきたときには、すでにここでコーヒーを飲んでくつろいでいやがったんです」


「ずいぶんな言われようだな。おい。

 降伏して皆さんの下僕になった証拠に、コーヒーをご馳走しようとしただけだぜ」


 いつの間にか、リンプーがゼロの後ろに立っている。

「お前をかくまっても、アタイ達には何の得もないニャ。

 好き勝手にふるまうなら、今から海に叩き落としてやってもいいニャ」


「おいおい、ネコのお姉ちゃん。

 俺様たちが船員として優秀なことは、航海の前半戦で痛感しただろ?

 帰りの航海に俺様たちがいれば、鬼に金棒ってもんじゃねえか?

 その意味でも、わだかまりを解消しておきたいんだよ」


「勝手なことを言ってるニャ。

 お前たち抜きでも、しっかり船は島まで着いたし、今も沖合まで無事に航海できているニャ」


「帰りの航海は、長いぜ。

 嵐だって来るだろう。

 人手は、多いに越したことはないと思うぜ」


「うるさいニャ。

 信用できない奴らは、人手に勘定できないニャン。

 フニャー、こんな奴のロープを解いたのはいったい誰ニャ?」



「ごめんなさい。私です」

 朝食を積み込んだワゴンを押して甲板に上ってきたセリカちゃんが、謝る。


「どうして、セリカが?

 ニャにか弱みでも握られたかニャ?

 一人だけ海賊船に連れていかれて、怖い思いをしたはずニャのに」

 リンプーの当たりが、いつになく強い。


「はい。漏らしたら海に捨てられるから、用を足したいと言われました。

 私の横にスージーさんもおられたので、大丈夫だって言われたんです」


「スージーが、大丈夫だって言ったのかニャ?」


「いえ、ゼロさんが自分は片足で弱いから何もできないと。

 スージーさんがいれば、何かやればすぐ海に捨てられるから、心配することないと言われたんです。

 ロープを解いて用を足して来たら、今度は朝食の用意を手伝ってやるって。

 でも、パンを焼いていたら姿が見えなくなっていました」


「スージーは言われたことしかしないから、ゼロの抑えにはならないニャ。

 それに、ロープを解かれたゼロがディエゴのロープも解いたら、二人がかりでセリカを人質に取ったかもしれないニャ」


「そこまでは、考えていませんでした」

 セリカちゃんが、しょんぼりしている。


「そんなことしねえよ。

 俺様たちは、仲間内で命がけで争った末にアンタらに降伏してるんだぜ。

 もう命も何もかも、アンタらに任せてるんだ。

 気に入らなきゃあ、海に捨ててもらったって構わねえくらいだ」

 ゼロが、堂々とした態度でセリカちゃんをかばう。



「トモヤ、どう思うニャ?」

 ここで、リンプーは俺に振ってきた。


 俺は、考え込む。

 ゼロには、もう船もないし、仲間も病気になったり殺し合いをしたりで、いなくなったも同然だ。

 だが、俺たちは一度騙されている。

 まだ何か隠しているかもしれない。


「ディエゴは……、ディエゴはどうなんだろう」

 俺は、ディエゴの様子を見に行くことを提案した。




 船室に降りてみると、ディエゴは大人しくベッドに縛り付けられていた。

「あっ、ゼロ。無事だったんだ。

 良かったんだな。

 気に入らなきゃ海に捨てられてもいいとか言って船室を出て行って、戻ってこないから、本当に捨てられたかと心配したんダナ」


「ほら見ろ。ディエゴのやつは海賊にしとくにはもったいない程、大人しいやつなんだ。

 こいつのロープもほどいてやっちゃあ、くれないか?」

 ゼロの態度が、ドンドンふてぶてしくなっていく。


「あんまり調子に乗るんじゃないニャ。

 今からでも海に捨ててやることも、出来るんだからニャ」

 リンプーが可愛くすごむ。


 ゼロが、失望したような表情だ。

 リンプーが、それを見て表情を緩める。

「まあでも、アタイだけ厳しいと印象が悪いニャ。

 どうせ話も聞かなきゃいけニャいし、ディエゴのロープも解いてやるニャ。

 スージー、しっかり見張るのニャよ」

 そう言って、ディエゴのロープをほどいた。


「ハッ、了解しました。前マスター」

 スージーの返事と同時位に、ロープを解かれたディエゴは大急ぎで用を足しに行った。

 よほど、我慢していたのだろう。

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