40.感染症の影響
お昼の間に、海賊たちは相当揉めたようだ。
どうやら、上陸してから2,3人病気になったようで、そこから伝染ったものを含めて、5人が寝たきりらしい。
動ける7人ほどで意見が分かれて、喧嘩になったらしい。
その喧嘩で二人いなくなって、残りは10人だそうだ。
結局、俺たちの知っている奴で残っているのは、ゼロとディエゴの二人だけみたいだ。
仲間割れした俺たちの知らない3人は、ゼロからリーダーの座を奪い取って、ゼロとディエゴの二人を追い出したようだ。
追い出された二人は、こちらに向かって歩いてきているということだ。
「ちょっと、この状況じゃあ船には帰れないニャ」
リンプーが、身構えて戦いの準備を始める。
こちらは、スージーが一人で奴ら数人分の戦力だ。
リンプーも今までの戦いを見る限り、そこそこの戦力だ。
セリカちゃんには逃げてもらうにしても、俺もいる。
俺の方はハッキリ言って戦力外かも知れないが、片足の無いゼロとなら互角に戦えるかもしれない。
ゼロは、片足が無い。戦いは苦手そうだから、敵は実質ディエゴだけだろう。
スージーもリンプーも、ディエゴと1対1なら十分勝つだけの実力者だ。
ゼロの肩に乗っているフリントっていうドラゴンパピーが、戦力としては読めない所だが。
油断さえしなければ、負けることは無いだろう。
しばらくすると、ゼロの叫び声が聞こえ始める。
「おーい。降参だー。
俺様たちは、降参するー。
おーい。降参だー。
俺様たちは、降参するー」
何度も叫びながら、二人とも両手を上げて歩いてくる。
木の下を通り過ぎた所で、ピタッと止まる。
木からリンプーが飛び降りてきて、二人の背後に立ったからだ。
「そのまま、両手を後ろに回して、背中の後ろで手首を交差させるニャ」
二人は、言われたとおりにする。
「トモヤー! 二人の両手をロープで縛り付けるニャン」
俺は、用意していたロープで二人を後ろ手に縛り上げた。
二人とも大人しく、抵抗の素振りは見せない。
フリントは、二人が捕まったのを見届けると飛び去って行った。
「へっ、あのドラゴンパピーのやつ。俺様と一心同体じゃねえってか。
飯を食わせてやった恩も忘れやがって」
ゼロが吐き捨てるように言う。
スージーが敵の様子を窺ったところ、3人ともテントの前で座って何か話し合っているそうだ。
寝込んでいる5人も、そんなにすぐには起き上がって来れないだろう。
「敵は3人に減りました。
3人だけなら、私が攻め込めば倒すことは十分可能です」
スージーが、海賊たちを倒そうと提案しているつもりなんだろう。
「倒すっていうのは、無力化するってことだよな?」
念のために聞く。
「そうですね。無力化して、命を奪うってことです」
抑揚も無く、スージーが答える。
「この二人のように縛ってしまえば、命を奪わなくても良いんじゃないか?」
「トモヤ。人数が減ったとはいえ、相手はモノホンのならず者だニャン。
ついさっき殺し合いして、勝った奴らニャ。
そんな奴ら相手に、殺しちゃダメとか命令したら、スージーが危ないニャン」
リンプーが、俺の考えを読んだように言ってくる。
「でも、リンプーもいるから……」
リンプーが、言いかけた俺の言葉にかぶせてくる。
「敵を殺さずに捕まえるのは、圧倒的に戦力差が無いと無理だニャ。
しかも、奴らは以前1対1でも、スージーを海に叩き落としているニャ。
最低でも3対3で戦わないと無理ニャけど、トモヤは警戒している敵を、一人殺さずに捕まえられるかニャ?」
言われてみれば、俺には絶対に無理だ。
殺せと言われても無理だが、相手が殺しに来ているのに、いなして捕まえるなんてもっと無理だ。
俺が考え込んでいると、ゼロが語り始める。
「へへへ。スージーは、一度海に沈められたのか。
アルセのやつ。やっぱり、やっていやがったんだ。
あいつは、不意打ちが上手かったからな。
俺様たちのロープを解いて、解放してくれよ。
俺様とディエゴの二人が、アンタらの側で協力してやっても良いぜ。
そうすれば、6対3で倍の戦力だ」
「そ、そうか、その手があったか」
俺が答えかけると、リンプーが思いっきり否定してきた。
「トモヤ、ダメだニャ。
こいつら、その場その場で一番有利な方に付く奴らニャー。
ちょっとしたことで、また敵に寝返るニャ。
絶対にロープを解いては、だめだニャン」
言われてみれば、その通りだ。
俺の考えは、浅かった。
「わかったよ、リンプー。
殺さずに捕まえることは、諦めるよ」
「そうだニャ。分かってくれて、よかったニャン。
じゃあ、スージー。二人で、闇夜に乗じてやるニャ」
「いや、違う違う。
こちらから襲うんじゃない。
いったん、逃げるんだ」
「えっ? 逃げる?
時間をおいたら、倒れてる奴らも回復するかも知れないニャ。
それに、3人の動きを見失ったら、アタイ達が危険だニャー」
「だからこそ、逃げるんだよ。
3人を殺したとしても、残りの寝込んでいる5人はどうするんだ?
殺しちゃわないとしたら、5人の病人の世話は大変だ。
しかも、回復したら敵になる可能性が高い」
「寝ている敵なら、簡単に殺せる」
スージーが、また抑揚も無く怖いことを言う。
俺には、抵抗しない相手を殺すとかそんなこと無理だし、セリカちゃんがどう思うかも気になる。
「とにかく、奴らは放置して逃げるんだ。
5人の病人の世話は大変だ。
奴らが動けないうちに宝物をかっさらって、島を出発してしまおう。
そのためにも、一旦この二人を連れて船に帰ろう」
「全員で引き返すのかニャ?」
「ああ、そうだ。
敵の動きは分からなくなるけど、ゼロ達から敵の情報を引き出すことも出来るかも知れない。
奴らのことが分かれば、打開策も思いつくかもしれない。
敵は3人だけになったんだから、こちらの方は、いつもそれ以上の人数で行動しておくんだ」
俺は精一杯の考えをみんなに伝えた。
「そうですね。私も戦いは怖いので、賛成です」
まず、セリカちゃんが賛成してくれた。
「私は、マスターの命令に従う」
スージーも賛成のようだ。
「アタイは、奴らから目を離すのは心配ニャけど、トモヤが出した結論ニャらそれでいいニャン」
3人とも賛成してくれたので、船に引き返すことにした。




