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断章2C.海賊の隠し財宝

 断章2Bの続きです。

 ゼロ・ブラックドッグ視点です。


 俺様は、アルセに文句を言う。

「おい。海軍に目をつけられちまったぞ。

 これで、まともな海運業が出来なくなっちまった。

 どうしてくれるんだ?」


 アルセは、平然としている。

「兄貴。あの海軍に囲まれた港から、逃げおおせる腕前だぜ。

 海賊をやらなきゃ勿体ないってもんだ」


「畜生。はめやがったな」


「嵌めたわけじゃねえよ。

 成り行きで、こうなっちまったんだ」


 結局俺様は、また海賊に戻っちまった。

 ただ、今度は俺様の海賊団だ。


 アルセたち3人にもう二人加えて5人を、俺様の直属の部下にした。


 そいつらの通り名を、風水火雷地にちなんで、ウインド、ウオーター、ファイア、サンダー、アースと名乗らせた。

 魔法の使え無い奴もいて、そんなハッタリかました名前は嫌だとか抜かしやがった。

 だが、ハッタリだろうが何だろうが、名乗っちまえば勝ちなんだ。

 特に、キャプテン・ミッド・ジュニアのことを知っている奴からしたら、勝手に勘違いして恐れてくれるだろうよ。




「ゼロの兄貴。キャプテン・ミッド・ジュニアの野郎が下手を打っちまったみたいだぜ」

 10年ほど経ったある日、アルセが耳打ちしてきた。

 結局俺様は、足を洗うことも出来ずにずっと海賊だ。


「ヘタを打ったって、何をやらかしたんだ?」


「どうやら、海軍の攻撃を浴びて、船が沈められちまったらしいんだ。

 そのまま、奴らは行方不明だ。

 貯め込んでいたと思われる財宝も行方知れずになっちまった訳だ」


 アルセは悔しそうにしているが、俺様はいくつか手掛かりを持っていた。

「アルセ。俺様が今から言うモノを集めてくれ」


「どうしたんだ? 急に」

 アルセが不審そうなので、教えてやる。


「ミッド・ジュニアのやつは、いつもあのフリントとかいうドラゴンパピーを偵察に使っていたじゃねえか。

 あの龍のガキは、魔法の狼煙のろしを上げてやりゃあ、そこにやって来るんだ。

 俺様たちで再現してやりゃあ、ミッド・ジュニアの海賊団が壊滅しているなら、俺様たちの所へ飛んでくるだろうよ」


「兄貴。そりゃ無茶ってもんだ。

 いくらなんでも、世界は広いんだ。

 この辺で魔法の狼煙のろしを上げたって、何もやって来ねえよ」


「まあ、見てろって」

 俺様は、確信していた。

 普通の狼煙と違って魔法石を燃やした狼煙は、その魔法の配合によって、距離に関係なく合図を送ることが出来る。


 あのフリントって龍は、人間の言葉が分かっている。

 飼い主はミッド・ジュニアかも知れねえが、飯を食わせたり、俺様の方が色々世話してやったはずだ。

 きっと、やって来る。




 山の上で魔法の狼煙のろしを上げ始めて3日目のことだった。

 ドラゴンパピーのフリントが飛んできやがった。

 そして、俺様の肩の上にチョコンと止まった。


「ゼロの兄貴。すげえよ」

 アルセたちは、大喜びだ。


「フリント。これからは、俺様がお前を養ってやるよ。

 その代わり、キャプテン・ミッド・ジュニアの財宝の在り処を教えてくれよ」

 フリントが、俺様の顔をのぞき込む。

 爬虫類らしく、顔の表情からは感情が全く感じられない。

 だが、こいつは絶対に在り処を教えてくれる。


 あれから10年以上経っているのに、こいつは全く変わりないな。

 龍っていうのは、一体どれくらいの寿命なんだろう。

 それとも、こいつは一生この幼体のままなんだろうか?




 俺様は、今までの稼ぎを全てつぎ込んで、借金もして、大きな船を買った。

 これで、外洋に出て海賊が出来るようになった。

 俺様はキャプテン・ミッド・ジュニアとは違う。

 あんまり派手には、やらかさない。

 こう言うとおかしいが、中堅の海賊を目指している。




 あまり目立たないように行動していたが、5人の魔法使いや俺の連れているドラゴンパピーのフリントやら、特徴があるせいか悪名が轟き出した。

 俺様は、船の甲板に海賊団の全員を集めた。


 肩に乗せたフリントを指さしながら、大声でまくしたてる。

「こいつがここにいるという事は、俺様たちがキャプテン・ミッド・ジュニアの財宝の権利をもらったってことだ。

 これからしばらくは、こいつに従って行動するぜ」


 アルセが聞いてくる。

「ゼロの兄貴。どういうことだ?

 まさか、フリントと言葉が通じたのか?」


「ああ。お宝の在り処が分かったぜ」

 俺は、すっかり髪の毛が無くなってスキンヘッドになっちまったアルセの顔を見ながら答える。

 こいつも年を取った。

 結局、俺様も海賊として一生を終えちまうんだな。

 若かったあの時、海賊の仲間入りしなければ、どんな人生になったんだろう。

 少しばかり、後悔の念が胸に沸き起こった。




 俺様は、その前の日の夜、夢を見た。

 夢の中でフリントが俺の肩の上で、話しかけてくる。

「キャプテン・ゼロ。お前に良いことを教えてやる。

 キャプテン・ミッド・ジュニアの財宝は、ある島に隠されている。

 その島の手がかりは、サウスパースという港町にある。

 ワシらは、海賊船を沈められて、その町の近くの海岸に流れ着いたんだ」


「へへへ、フリントよ。

 やっぱりお前は、人の言葉が分かったんだな。

 もっと早く教えてくれてりゃ、色々美味しいこともあったんだがな」


「残念ながら、龍には人間が聞き取れる声を出せる器官が無い。

 こうやって、夢の中でしか話が出来んのだ。

 だが、やっと貴様との同期が可能になった。

 以後は、こうやって導いてやろう」


「へへっ。それは、ありがたいこった」

 俺様は、キャプテン・ミッド・ジュニアの財宝を手に入れて、豊かな老後を一人で暮らすことを考え始めていた。


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