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断章2B.海賊は海賊

 ゼロ・ブラックドッグ視点です。

 その頃俺様は、キャプテン・ミッド・ジュニアという海賊の一団に所属していた。

 海賊の棟梁は、伝説の海賊キャプテン・ミッドの子孫だという事だが、本当なのかどうか怪しいもんだ。


 だが、しばらく一緒にいて分かったが、実力はすごい。


 まず戦闘能力が高い。

 棟梁が戦う様子は見たことが無かったが、海上で襲い掛かった船に、何度も先頭で乗り込んで行って無事に帰って来た。

 よほど戦いが上手いか、運が良くないと、そうはいかないだろう。


 そして、機械人形オートマタのスージー。

 こいつは、みかけはキレイなお姉ちゃんだが、冷酷な人形だ。

 キャプテンが命令すれば、どんな敵でもひねり殺してしまいやがる。

 火薬で弾を打ち出す鉄砲という武器を持っていて、これもえげつねえ。

 こいつの腕に仕込んだ鉄砲から打ち出される弾は、下手すりゃあ船を沈めることが出来そうなくらいだ。


 そして、5人の魔法使いが脇を固める。

 それぞれの魔法使いは、自分たちの得意な魔法、風水火雷地にちなんで、ウインド、ウオーター、ファイア、サンダー、アースと名乗っていた。

 強力な5種類の魔法が使える海賊団は、無敵の強さだった。

 だが、有名になり過ぎて海軍のマークを受けていたのも事実だ。


 かなり恨みも買っていただろう。

 漁船か何かの通報で、海軍の軍艦に追い回されることも増えていった。


 棟梁のキャプテン・ミッド・ジュニアは気にしていないようだったが、悪名を轟かせすぎだ。

 多分一生遊んで暮らせる位の財宝を手に入れているはずなのに、どん欲に商船を襲い続ける。

 海賊の被害が大きいので、商船にも腕利きの護衛が乗るようになってきた。

 逆らう護衛達は容赦なく殺して、略奪を繰り返した。


 俺様が棟梁になったら、こんな勇名を馳せるような真似はせずに、そこそこ食っていける稼ぎで済ませるだろうよ。

 護衛も、無闇に殺したりはしねえ。

 もちろん、必要とあらば皆殺しだけどな。




 俺様たちもおこぼれに預かったが、本当に財宝と呼べるほどの宝物が消えていく。

 棟梁は、奪った財宝をどこかに隠していると俺たちは噂した。

 俺様は海賊船のコック長をやっていたから、それ程危険な目には遭わなかったが、戦闘要員の奴らは分け前に不満を持っているようだった。


 特に、アルセ。俺様の少し後に海賊団に入って来たが、相当不満を溜めているようだった。

 その後、スージーが航海中にいなくなった。

 夜のうちに海に落ちたみたいなんだが、アルセが清々した顔をしていたのが、気になった。


「お前が、突き落としたんじゃねえのか?」

 冗談半分に聞いてみた。

「だとしたらどうする?

 あいつは、銃とか仕込んだ機械人形だ。

 重いから、こんな海の真ん中で波間に消えちまったら、二度と浮かんでこれねえよ」

 こいつなら本当に、やりかねねえ。

 俺は、それ以上は追及しなかった。


 俺様がそのことを追求しなかったのが気に入ったのか、それからアルセのやつは、やたら懐いてくるようになった。

 ジャガイモみたいな童顔で、幼さの残る顔に俺様もついつい気を許すことが多くなった。




 スージーがいなくなってから、苦戦することが多くなった。

 人間離れした戦闘能力は、やはり大きな戦力だったんだろう。


 おまけに海軍の軍艦は、数を頼んで追いかけてくる。

 それでも、5人の魔法使いは強力だった。

 何隻もの軍艦に、船で体当たりして、乗り込んだ。

 相手がプロの軍人でも、互角以上に闘った。




 ある時、敵の軍艦の戦力が多きそうだったので、俺も乗り込んだ。

 戦いに夢中で、甲板から海に落下してしまった。

 海軍の奴らは、戦いで死んだ奴らや生ごみの類を海に投げ込んで、サメを誘き寄せやがった。

 仲間が小舟で助けてくれたが、俺はその時サメに片足を喰われちまった。




 このまま、この海賊団にいたら、船と一緒に一生が終わる。

 俺様は、海賊団を抜けさせてもらった。

 片足を失って、戦力として期待できないからか、引き留められなかった。


 10人くらい乗れる船を買って、船員を雇って、海運業を始めた。

 別に金を使う当てもなかったので、そこそこ貯め込んでいたんだ。

 しかし、縄張りやら何やらがややこしくて、あまり儲からなかった。


 ある時、港町で3人組の荒くれ者と出会った。

 その中の一人が、アルセだった。

「よお、久しぶりじゃねえか。ゼロの兄貴」

 アルセは、気安く声をかけてきた。


「おお、元気か?

 何やってるんだ?」


「今は、チンピラやくざみたいなもんだ。

 ところで兄貴。運び屋をやってるって聞いたんだが、俺たちを運んじゃくれねえか?」


「構わねえが、運び賃はしっかりもらうぜ。

 ところで、ミッド・ジュニアたちの海賊団は抜けたのか?」


「おう。兄貴の話を聞いて、俺もヤバイと思い出したんだ。

 こいつらと一緒に抜けてきたんだ」

 後の二人は、シウバとアンヘルと言った。




 俺様は、アルセたちを希望の場所まで運んでやった。

 港に着くと、はしけに兵隊がズラッと並んでいる。

「おい、アルセ。あれは、どういうことだ?」


「すまねえ、ゼロの兄貴。

 どうやら、俺たちの動きは海軍に筒抜けだったようだ」

 アルセは、ある程度予想してやがったようだ。

 笑いながら言い放ちやがった。


「何だよ。海賊とは縁を切ったんじゃねえのか?」


「いや、ミッド・ジュニアの所を抜けただけで、海賊は続けてたさ。

 しかし、しっかり固めてやがるな。

 これじゃ上陸できねえな」


「馬鹿野郎。海の方もしっかり軍艦が固めてて、海にも逃げれねえよ」

 俺は、アルセのやつを叱り飛ばす。


「頼むぜ、兄貴。

 あんたの操船技術で、切り抜けてくれよ」

 まったく、こいつは何を言ってやがるんだ。

 確かに俺様は、みんなが相手の船に乗り移った後の操船を任されることが多かった。

 つかず離れず、ぶつけないように、いつも気をつかっていたから、船の間をすり抜けるくらいはどうってことは無い。


 でもよ、武装した軍艦の間をくぐり抜けて航行するのは、骨が折れるってもんだ。

「このクソ馬鹿が!

 逃げ切ってやるから、運び賃は倍額もらうぜ」

 俺は、軍艦の砲撃をかいくぐりながら、針の糸を通すような細かい動きで、港を出た。

 そのまま速度を上げて、振り切ってやった。


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