36.宝島には行くしかない
俺は、本当に疲れ切っていたんだろう。
起きたら日が昇っていた。
リブジーさんが舵を切って、船を動かしてくれていた。
帆は、リンプーとスージーで張ったそうだ。
女子2人だが、大人の男3人でやる仕事をこなしていたんだから、大したものだ。
航海のコースは、海賊船から見えないように大回りして島に近付くコースを取った。
リンプーによると、海賊船は主マストを折られてしまったから、速度も出ないし遠くを見渡すことも出来ないそうだ。
ゆっくりと大回りする間に、俺は釣りを体験してみた。
釣り竿が何本か、船室に残されていたのだ。
酒や食料を奪い取っていくのに気を取られて、意外と忘れ物が多かったようだ。
襲い掛かってきたのが夕方だったので、時間的に焦っていたのもあるんだろう。
釣りは一日かかって、数匹釣れただけだった。
でも、釣った後すぐにセリカちゃんがさばいてくれたのと、自分の生まれて初めての釣果だという事で、美味しくいただくことが出来た。
「宝の地図は奪われてしまいましたけど、みんな命が助かって本当に良かったです。
この後、『伝承の妖精が死んだ島』に向かうんだとすると、また奴らと鉢合わせるんじゃ無いですか?」
心配そうなセリカちゃんに、リンプーが答える。
「その点は、仕方ないニャ。
島には行くしかないニャー。
やつら、地図は手に入れたけど、宝のカギが無いはずニャン。
それに気づいたら、きっとサウスパースに戻ってくる。
沢山の人が巻き込まれてしまうニャ」
「それは、心配ない。
カギは一つじゃ無いから。
あのドラゴンパピーの足に付いていた赤い石も、カギになる」
ずっと押し黙っていたスージーが話し始めた。
スージーはアイパッチを取っている。
目を横切った傷跡は痛々しいが、目はすっかり治っているようだ。
中々の美人だ。
「宝を手に入れようが入れまいが、何人かは絶対にサウスパースにやってくるニャ。
海賊たちを放置しておくわけには、いかないニャン。
いずれにしても、帰りの水と食料は無いから、一旦島に行くしか無いニャ。
そこで決着を付けないといけないニャン」
リンプーが、真面目な顔で言い切る。
俺は、それを聞いて考え込んでしまう。
「決着かー。
でも奴ら、カトラスとか武器を持っているし、人数が多いぞ。
とてもじゃないが、俺たちじゃ敵わないんじゃないのか?」
「まず、武器はスージーの銃があるニャ。
ナイフよりも、銃の方が強いニャー。
アルセは死んだと思うし、ラウールもそう簡単には復帰できないくらいの傷を負ったはずニャン。
あいつらは、全部で28人だったから、あと26人だニャ。
上手く立ち回れば、対処できるはず」
リンプーは、やけに自信を持っている。
確かに、その28人乗っている船からセリカちゃんを取り返している訳だから、真正面から戦わないようにすれば、何とかなるかも知れない。
「海賊たちは、やっつけないまでも船を何とかすれば、島から帰って来れなくなると思います。
それで、私たちは宝物は諦めるんでしょうか?」
セリカちゃんが聞き難そうに、聞いてくる。
お母さんの体を治す秘宝がある以上、それは気になるだろう。
「セリカちゃん。俺は、諦めていないよ。
他の宝物は諦めても、少なくとも聖杯だけは諦めないから」
「ありがとうございます。トモヤさん。
でも、みんなの命が危険に晒されるのなら、私は諦めることも仕方ないことだと思います」
「トモヤもセリカも、悲観的過ぎるのニャ。
アタイ達は、やれる。
今までも、絶望的な所からちゃんとここまで来れてるニャン。
信じて進むしか無いニャ」
リンプーに窘められて、俺も思い直す。
「確かに信じて進むしか無いな。
食料は魚を釣ったとしても、水がもうすぐ底を突くからな。
『伝承の妖精が死んだ島』は、そこそこ大きい島みたいだし湖や川もあるみたいだ。
上陸するほか無いんだ。
上陸したら、海賊たちとも戦うしかない。
信じて戦って、勝って、宝物も手に入れよう」
「おお、ついにトモヤが前向きになってくれたニャ」
「そんなポジティブさは、マスターらしくない」
「リンプーも、スージーも俺を何だと思っているんだよ。
ゴーレムを倒して、船を手に入れて、宝島目指して航海までしているんだぞ。
俺ほど、ポジティブな思考の人間はいないぞ」
「うん。確かにワシも長く生きているが、物語の中じゃ無くて実際にこんな冒険をした奴は、見たことも聞いたこともない」
ずっと黙って食事していたリブジーさんが、褒めてくれた。
俺は、ここぞとばかりに言う。
「それ見ろ。やはり人生経験の豊富な人は、見る目も違うぜ」
「私は、多分リブジー氏の数倍は生きていると思う」
いきなりスージーが否定してくる。
「実はアタイも、人生経験はリブジーさんより長いかも知れないニャ」
リンプーまで。
「でもリンプー。ネコは、そんなに長生きできないだろ。
言うほど長くは生きていないはずだぞ」
リンプーは、少し間をおいて話し始めた。
「そんなこと無いのニャ。
アタイは、元々この世界のネコ獣人だったのニャ。
だからネコの姿になったり、人の姿になったりが自由にできるのニャー。
アタイ達の種族は、命の危険が迫った時に一度だけ異世界への転移が出来るのニャン。
戻ってくることも出来るけど、時代が移り変わってしまって誰も知らない世界になってるニャ。
だから、普通は戻って来ずに新しい世界で一生を終えることが多いニャン。
アタイも、あのままトモヤのいた世界で一生を終えるつもりだったけど、トモヤに冒険をさせてあげようと思って戻って来たのニャ」
「そ、そうだったのか」
急にそんな話をされても、何と答えて良いのか困ってしまう。
「ああ。確かに南の方の国に、そんな獣人たちが暮らす国があるって聞いたことがあるな」
リブジーさんが、思い出したように言い出した。
「あの海賊たちとの戦いは、冒険なのだろうな」
スージーが、シミジミと言う。
いつも感情のこもらない話し方なのに、今は感情が入っているように思えた。
少しずつだが、心が通じ始めているのかも知れない。




