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35.帰還

 アルセは、海賊が好んで使う小刀、カトラスを構える。

「スージー。俺はアルセ、覚えていないか?

 まあ、お前が知っている俺は髪の毛もフサフサしていたし、若かったからな」


「アルセ? 覚えていない」

 スージーは、つれない答えを返す。


「お前の顔に傷をつけたと言えば、思い出すか?

 俺は25年前、お前が親父の仇だと知って、ずっと命を狙っていた。

 当時の俺はまだ子供だったから、油断したお前に襲い掛かって、顔を切り刻んで海に捨てたんだ。

 それがまさか、25年後にそうやって姿を現しやがるとは驚いたぜ」


「ああ、あの時のガキか。

 風魔法が、結構鬱陶しかったな」

 スージーが思い出したようだ。


「へへへへ。

 俺あな、お前が仕返ししてくるんじゃねえかと気が気じゃ無かったぜ。

 それに、お前は親父の仇だ。

 何とか殺してから船を移りたかったんだが、昔スージーがいなくなったのは俺の仕業だってことは、ゼロ達も気付いていなかった。

 あの漂流する船に残しても、また俺の前に現れやがるんじゃないかと思ってた。

 こんなおあつらえ向きの再会が果たせて、嬉しいぜ。

 今度こそ、間違いなく殺してやるぜ」

 アルセが、いきなりスージーに向かって風魔法を放つ。

 隙をついて、カトラスで突いて来る。


 スージーは後ろに下がりながら、腰のホルスターから銃を抜いて構える。

 アルセは、少し距離を取る。


 ダーン


 そんなに離れてはいないが、外れたようだ。


「へへへへ。

 お前の片目を潰した時にも撃たれたが、その時も当たらなかった。

 お前は、片目では銃が当たらないんだな」

 アルセが笑いながら、もう一度襲い掛かろうとする。


「もう、目は治っている。

 次は、外さない」

 スージーが、アイパッチを取る。

 確かに未だ傷跡は残っているが、あおい目が姿を現す。


 アルセは、すばしこく左右に体を振りながら、カトラスで突きかかっては後ろに下がることを繰り返す。

 彼が攻撃を繰り出すたびに、つむじ風が起こってまっすぐ立っていられない。


 今度はスージーが後ろに下がって避ける。

 スージーが右手を前に出す。

 パタンと音がして、手首から先が下に落ちる。

 いや、つながっていた。

 手首の切断面には銃口がのぞいている。


 ドムッ


 変わった発射音が響くが、アルセは無事だ。

「へっ、脅かしやがって。

 両目が見えても、やっぱり当たらねえようだな」


「いや。今のは脅しのために、わざと外した。

 音だけ出したんだ。

 次は当てる。戦いをやめる気は無いか?」


「やめるわけ、ねえだろ。

 俺はおまえを倒すために海賊になった。

 そして、何十年も海賊として人を殺してきたんだ。

 殺らなきゃ殺られる。

 また切り刻んで、海に捨ててやるぜ」


「そうか。

 今回は、マスターを守らなければならない。

 さらばだ」

 向かってくるアルセに向かって、銃口が火を吹く。


 ダーン


 音響とともに、アルセはもんどりうってその場に倒れる。

 船の揺れに相まって、海に転げ落ちる。

 約1ヶ月の短い間だったが、一緒に航海した男が恐らく命を落とした。

 だが、感傷に浸っている暇はない。



「何だ何だ? 何の音だ?」

 どやどやと海賊たちが船室から、溢れ出してくる。



 俺は、確認する。

「スージー、お前すごいジャンプ出来るよな。

 あの、ボートまで一人担いで跳べるか?」


「すごいかどうかは知らないが、あの小型艇までなら余裕だ」


「じゃあ、セリカちゃんを抱いて、跳んでくれ」


「了解した」

 言うが早いが、スージーはセリカちゃんを抱きかかえるとジャンプして、小型艇の上に着地する。



 リンプーが聞いてくる。

「アタイ達は、ここに残って戦うのかニャ?」


「そんな訳無いだろ。

 俺たちは海に飛び込んで、小型艇まで泳いでいくんだよ」

 俺は、リンプーを急かしつつ海に飛び込む。


 ドボーン


 船の上から、ナイフやなんやが投げ込まれてくる。

 ひょえー、当たりませんようにと祈るしかない。


 スージーとセリカちゃんに船の上から手を差し伸べてもらって、俺とリンプーは小型艇に乗る。

「リンプー、怪我はないか?」


「大丈夫だニャ」


「よし、行くぞ」

 俺とリンプーでオールを漕いで、去って行く。


 ダーン


 スージーが一発弾を打つ。

 海賊船の3本立っているマストの内一本が倒れていく。

「おいおい、お前のその腕の銃。すごい威力だな」

 俺は思わず、声を上げてしまう。


「マストが折れたら、航行はかなり難しくなるはずだ。

 私たちをすぐには追って来れないだろう」


 必死でオールを漕いで、30分くらい経っただろうか。

 レヴィ号に到着する。


 スージーは、今度はリンプーを抱いてレヴィ号の甲板にジャンプする。

 そこから、クレーンのロープを海に降ろしてくれた。

 ロープのフックを小型艇に掛けて、魔法でロープを巻き上げる。

 俺たちは、レヴィ号に戻って来れた。


「また、戻って来れてよかった」

 セリカちゃんが泣いている。

 俺もつられて涙が出そうだ。


「本当に良かったニャン」

 声をかけるリンプーを見て、セリカちゃんが不思議そうな顔だ。

「リンプーさん。出航からずっと姿が無かったんですが、何処に隠れておられたんですか?」


「アタイは、ずっとネコになっていたニャ」


「ええっ? そんなことが出来るんですか?

 確かに、ネコのリンプーさんがずっといましたね。

 でも、トモヤさん。リンプーさんと一緒に寝ていませんでしたか?」


「一緒に寝ていたのは、ねこの姿の時だけニャ。

 まあ、人間の格好の時も一緒に寝てやっても良いけどニャ」


「リンプーは、もともとネコだったからな」

 俺は答えた後、安心したのか座り込んでしまう。

 もう立てない。

 ここまで、本当に緊張の連続だった。

 本当に、セリカちゃんを無事に取り戻すことが出来てよかった。


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