表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/65

3.魔法使いとねこみみ少女

 立派な扉を開くと、そこは水面だった。

 波があるので、海なのだろう。


 登ってきた階段がドンドン消滅していく。

 一歩を踏み出さないと、階段と一緒に消滅してしまうのだろうか?


 思い切って扉を越えて、一歩踏み出す。


 ドボーン


 見事に、水の中に落っこちた。

 普通に服を着ているのと、背負ったリュックサックのせいで、泳ぎにくい。

 しかも暗い。そして、シトシトと雨が降っている。


 夜の海だ。

 陸地が見えない。

 まずいぞ。

 人間は、そんなに長時間海に浮かんではいられない。




 うう、ちょっと苦しくなってきた。

 ちょっとじゃないかも。


「こういう場合、目の前にステータス画面が出てきたり、大賢者だと言って頭の中に語り掛けてくるのが、定番なんだけど」


『残念ながら、ステータス画面は用意して無いニャ』

 頭の中に、聞き覚えのある声が響く。


「そ、その声は……」


『お察しの通り、大賢者ニャ』


「そ、そうなのか。何か怪しいけど。

 どっちに泳げば、陸地にたどり着けるんだ?」


『分からないニャ』


「いや、大賢者なんだろ?」


『いくら大賢者でも、分からないものは分からないニャ』


「ここは、海しかない世界なのか?」


『違うニャ』




 いいけどさ。いや、良くないぞ。

「このままじゃ体温を奪われて、おぼれ死ぬことになる。

 せめて、泳ぎ続ける体力とか、水中でも体温を維持できる能力とか、もらえないのか?」


『お勧めしにゃいけど、魚をイメージするといいかもニャ。

 さっきも言ったけど、今の肉体は原子の単位まで分解されて再構成されてるニャ。

 上手くイメージ出来れば、魚の能力が手に入るニャ』


「魚の能力か。ここを生き延びるためには必要だな。

 さかな、サカナ、魚、ぶり、タイ、ヒラメ」


『外見もイメージした魚になるから、気を付けるニャー』


「ええっ? それを先に言えよ。

 カッコいい魚。えーと、マグロ、カツオ、イルカ?」


『でも、さっきご主人は、金髪碧眼きんぱつへきがんの美少年になりたいなあって願ったニャ。

 今、そんな感じにニャってるから、混ざると半魚人になるかもニャ』


「ううっ、究極の選択だな。

 どうしよう」


『命がかかっているのに、ご主人は暢気のんきだニャー。

 仕方ない。

 特別に、つかまるものを与えましょう』


「おっ、そうなのか?

 頼む」


「後ろを振り返るニャ」


 頭の中の声じゃなく、本当に声が聞こえた気がする。

 振り返ると、板切れにつかまった、ちょっと可愛いねこみみ少女が浮かんでいる。


「ニャー、特別にこの救命具に、つかまらせてやるニャ」


「お、お前、リンプーか?」


「そうだニャ」


「そのねこみみ少女ので立ちは、どういうことだ?」

 体は水の中なので、胸より上しか見えないが、白いエプロンをしたメイド姿のように見える。

 頭には、ねこみみが生えている。

 ご丁寧にメイドの象徴、頭に付けるフリル、ホワイトブリムが乗っかっている。


「ご主人が持っていた本に、載っていた絵を真似てみたニャ」


 お、俺の本を見て、ねこみみ娘でメイド姿?

 完全に俺の趣味を、掌握しょうあくされている。

 大賢者というのは、本当だったのか?


「ま、まさか、その本は薄かったか?」


「そんなこと聞かれても、分からないニャン」




 板切れにつかまってプカプカ浮かんでいると、雨が止んで、視界が少し開けてくる。

 周りをグルっと見回してみると、遠くに灯りが見える方向がある。


「こういう場合、近いように見えてもすごく遠いから、その場でじっとして救助を待つのが正解だって、昔じっちゃんが言ってたな」


「この世界は、弱肉強食のファンタジー世界だニャ。

 誰も助けにニャンか来ないから、自力で何とかしないと助からないニャ」


 そりゃ、そうだよね。




 板切れにつかまって、少しずつ泳いでいく。

 潮の流れも味方してくれたのだろう。

 明るくなる頃には、砂浜に着いた。


 夏なのだろうか、暖かい地方なのだろうか、寒くはない。

 だが、ヘトヘトだ。

 何とか体力が持ってくれて、よかった。


 リュックサックは、ビショビショだ。

 せっかくコンビニで買ってきた色々なモノも、大部と海水でやられているだろう。


 とにかく、スマホを点けてみる。

「おお、さすが防水仕様。

 まあ、電波も無いし、GPSも働かないか」


「そんなもの、この世界に持ち込んで、どうする気ニャ?」


「フフフ、時計にもなるし、照明にもなる。

 カメラにもなるし、動画も撮れる。

 こいつを使って、異世界無双生活だ」


「充電はどうするニャ?

 すぐに電池切れで、タダの板になるニャー」


「やっちまった」

 俺は、ガックリとひざをついてしまった。

 とりあえず、必要な時が来るまで電源オフだ。




 朝日が昇って、陽がさしてくる。

 俺は、上着を脱いでパンツ一丁になると、着ていた服を木の枝に掛けて干し始めた。

 靴とか靴下とか、しっかり干しておかないとな。


 リンプーも真似をして、下着姿だ。

「ナナチー」

 俺は思わずリンプーに抱きついてしまった。


「んなあー。

 な、何するニャー。

 アタイは、そんな名前じゃ無いニャ」


「す、すまん。

 で、でも、俺の長年の願いが叶う時がやって来た。

 ねこみみ少女の匂いを嗅いでみたかったんだ。

 クンカクンカ。

 潮の匂いだ」


「そりゃさっきまで海に漬かっていたんだから、当たり前ニャ。

 サッサと離れるニャー。

 度し難いやつニャ。

 アタイに愛想をつかされたら、ご主人はこの世界で生きていけないんじゃニャいか?」


 確かにその通りかもしれない。

 俺は、サッとリンプーから離れた。


「まったく、油断も隙も無いやつニャ。

 せめて、アタイの名前を呼んでくれたら、少しは、ブツブツ」

 聞き取れない位小声で、何か言っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ