33.海賊船を追跡
リンプーが、ねこみみ少女になってから初めて見せるくらいの真面目な顔だ。
「トモヤ。アタイ、スージーのマスター権限を返すよ」
「どうしたんだ、急に?」
「スージーは、マスターの言うことは何でも聞くじゃない。
アタイ、トモヤの言う事を何でも聞く女がいるっていうシチュエーションが嫌だったんだと思う。
多分嫉妬していたんだと思う」
「だから、マスター権限を返してくれるのか?」
「うん」
「本当に俺がエッチな命令をしちゃうかもしれないけど、良いのか?」
「嫌だけど、トモヤがそうしたいんなら、諦める。
でも、信じてるから」
「そいつは、ありがとう。
信じてくれて大丈夫だよ。
俺は逆に、女の子にエッチな命令をしろって言われても、何を命令したらいいか分からないヘタレだから」
「アタイが最初からトモヤのことを信じて、スージーの命令の権限を返していれば、少なくともゼロ達にあんなに好き放題されなかったと思う。
スージーのことは、奴らもすごく警戒していたから」
「スージーが俺の言う事を聞いて戦ったら、犠牲者がたくさん出ていたかも知れないぞ。
俺たちは、みんな無事だったんだし結果オーライかもな」
「でも、セリカが、セリカが連れて行かれて……」
リンプーは、涙目だ。
セリカちゃんを連れて行かれたのは、非常にまずいしな。
ちょっと、場を和ませないといけない。
「リンプーって、命のかかった場面でもニャー言葉で話してたのにな。
真面目な話をする時だけニャーって言わなくなると、いつもふざけているみたいだぞ」
俺は、笑いながら言った。
「イケズー! ほんっとうにトモヤは、イケズだニャー」
ポカポカポカ
「痛い、痛い。でも、なんかこの攻撃も久しぶりに浴びた気がする」
「ホントに、ホントに、アタイはいつでも真剣ニャのに、トモヤはすぐそうやって茶化すんだから。
ホントに酷いニャ」
あっ、泣かせてしまった。
「い、いや、あ、あの、……、ごめんなさい」
リンプーが泣かないようにと思ったのに、逆効果だったか。
リンプーに言われて、スージーは俺のことをまたマスターと呼び始めた。
これで、スージーが色々な意味で戦力になる。
「リンプー。一つだけ言っておきたいことがあるんだ。
生きているから言えるけど、最高に冒険出来たぞ!
お前がこの世界に連れて来てくれなかったら、出来なかった経験だ。
本当に、ありがとう」
「トモヤー、グスッ。
どっちにしても、アタイを泣かせる気じゃないか。
でも、アタイの方こそ言いたいよ。
アタイは、拾ってもらった日からずっと幸せなんだよ。
トモヤと一緒に冒険出来て、アタイも幸せだよ。
トモヤ、ありがとう」
俺は、涙腺が緩みそうになるのをこらえながら言う。
「お互いに幸せだったら良かったよ。
それはともかく、セリカちゃんは取り返さないとな」
「全くだニャー。
この状態で、幸せとか言っているのが後でセリカにバレたら、怒られるニャ」
二人で笑ってしまったが、海賊に連れて行かれたセリカちゃんの気持ちを考えると、笑ってばかりもいられない。
「船を動かすことは出来るかな?
帆の張り方は、ずっと見ていたから大体わかるんだけど、大の男が3人がかりでやっていた作業だ」
リンプーが自信満々に答える。
「大丈夫だニャ。
アタイは、大の男より力があるし、スージーは人間離れしているニャ」
ひとまず夕食を作る。
というよりも、船室を二重底にして隠しておいた携帯食を4人で分けて食べた。
「こ、これは、食べたことの無い食感じゃな」
リブジーさんが、驚いている。
非常食として、ブロック状のバランス栄養食を買って持って来ていて良かった。
こんな所で役に立つとは。
カロリー〇イトをかじりながら、リンプーが聞く。
「スージー、あのサメたちを吹っ飛ばした攻撃は何ニャ?」
スージーが、右手を体の前に持ち上げる。
俺の方から手のひらが見える。
パタンと音がして、手首から先が下に落ちる。
いや、落ちていない。つながっている。
手首の外れた所には、銃口がのぞいている。
「私の右手は魔法の銃です。
私の魔力を弾にして撃ち出すので、何発でも打てるし、特殊な効果のある弾も撃てる。
片目なので当たりにくいが、目が治ったら射撃精度は安定する」
なるほど、この銃でサメたちを撃ったのか。
それにしても、水中のサメを吹き飛ばすなんて、ものすごい威力みたいだ。
翌朝、3人がかりで帆を張った。
リンプーに帆の操作をお願いして、スージーにはマストの上の見張り台から海賊船を探してもらう。
俺が、舵を握った。
航海中俺が一度も、地図も海図も箱から出して見なかったのは、出航までにずっと見ていたからだ。
星や星座で方向は分からないけど、太陽とマストの影の方向で大体の向きは分かる。
奴らは、宝島に向かう。
俺たちの位置から、南東に向かうはずなんだ。
スージーは、望遠鏡を使うみたいに遠くが見える。
きっと、発見してくれるはずだ。
伝声管から声がする。
「スージーが見つけたみたいだニャ」
「よし、追尾するぞ。
リンプー、帆にしっかり風を受けてくれよ」
「了解だニャー」
敵の海賊船は、俺の目には見えないが近付いているらしい。
携帯型のオペラグラスで見えるくらいまで近付いたところで、帆をたたんだ。




