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29.リンゴ樽の中で聞いた

 夕方には、嵐も落ち着いてきた。


 夜になって、雲がいなくなった。

 ゼロさんが夜空の星座を見て、海図の上に現在位置を記入する。

「多少流されたみてえだが、これくらいなら影響はほとんど無いだろう。

 ところで、兄ちゃんよ。もうすぐ目的の島に着くぜ。

 そろそろ、この島に行く目的を教えてくれても良いんじゃないか?」


「ああ、探し物ですよ。この島に、俺が好きな子の母親を助けるための薬があるって噂なんですよ」


「たったそれだけのために、船を用意して船員を集めて航海に出たってのかい?」


「たったそれだけって、好きな子の気を引くためですよ。

 まあ、馬鹿な奴ッて自覚は、ありますけどね」


「フーン。兄ちゃんは、そんなお坊ちゃまなのかい。

 おめえを捕まえて、身代金を要求したら、かなり取れそうだな。ハッハハ」


「いや、俺には身寄りが無いので、身代金の要求先がありませんよ」

 実際、この世界には知り合いすらいない。

 強いて言えば、この船とあの港町には知り合いは、いるか。


「じゃあ、おめえを殺して海に捨てても、誰にも恨まれねえってことか?」

 ゼロさんは大笑いしているが、俺には笑えない冗談だ。


 ごまかせているのかどうか、ちょっと不安だが、リンプーによると妖精島は何もない無人島らしい。

 そんな所に何をしに行くのかは、気になるよな。


 とりあえず、嵐は無事にやり過ごせた。

 嫌な予感が、このレベルで済んで本当に良かったと、俺は胸をなでおろした。




 翌日、台風一過というのだろうか、カラッと晴れて気持ちいい朝を迎えた。

 この日を境に、船員さん達がやたら島に着いてからの事を、聞いてくるようになった。




 その日の夜は綺麗な夕焼けだった。

 海の夕焼け、本当に見たことも無いくらいきれいだ。


 ラウールさんが、甲板の上で夕陽を浴びながらスクワットしている。

「兄ちゃん、海の夕日はきれいだろ。大概の奴は、見惚れちまう。

 だが、夕焼け空は信じちゃいけねえ。裏切るんだ」


「夕焼け空が裏切る?」


 ラウールさんは、スクワットを続けながら話を続ける。

「俺も好きだったぜ。兄ちゃんくらいの頃はな。

 でも、夕陽がきれいなのは、ほんの少しの間だけだ。

 すぐに姿を隠して夜になっちまう。

 夕陽は裏切りの名人だ。

 あっという間に、人の心を夜の闇の中に突き落としちまうんだ」


「は、はあ」

 俺は、軽く相槌だけ打った。

 脳まで筋肉のラウールさんらしくない、哲学的な話だな。


「だがよ、筋肉は裏切らない。

 兄ちゃんも覚えとくと良いぜ」


 そ、そっちか?

「は、ハッハハ、参考にさせていただきます」

 俺は、苦笑いでごまかした。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その次の日、パントリーに行くと、スープラ君が深刻な顔をしている。

「トモヤさん、折り入って話したいことがあります」


 スープラ君は、厨房周りに人がいないことを注意深く確認してから、声を潜めて話し始めた。


「実は、昨日の夜のことなんです」

 すっかり、男の子っぽい話し方が板についてきたな。

 こんなヒソヒソ話でも、女の子を感じさせない。

 だが、俺はセリカちゃんが可愛いことを知っている。

 小声で顔を近付けて来られると、ドキドキしてしまう。



 下品な話で申し訳ないが、スープラ君は、トイレのタイミングでとても苦労している。

 みんなが食事をしている時や、夜に船員さん達がギャンブルで盛上っている間に済ましているそうだ。


 その日も、いつも通りギャンブルが盛り上がり始めたタイミングで、スッと船室を抜けて甲板の縁で用を済ませていたらしい。

 だが、その日は人の気配が近付いてきた。

 俺やリブジーさんが寝静まったことを確認して、聞かれたくない話をするために場所を変えたようだ。


 とっさにスープラ君は、甲板上に置いてあったリンゴを入れていた樽の中に隠れたんだけど、そこでとんでもない話を聞いてしまったという。




 セリカちゃんじゃ無くて、スープラ君の話から再現すると、こんな感じか。


 まず、ゼロが言う。

「海図が正しいなら、明日にでも『伝承の妖精が死んだ島』が見え始めるぞ。

 まだ、宝の地図の在り処は分からないのか?」


「ああ。奴らこのまま一度も地図を確かめないまま、上陸する気じゃ無いか?

 せっかくキャプテン・ミッドの財宝の手がかりを持った奴らを見つけて、その船に潜り込んだのに出し抜かれちまうんじゃねえか?」


「それは困るな。

 財宝の中には、伝説の武器やゴーレムコアがあるらしいんだ。

 ゴーレムを何体か操られたら、10人や20人でかかったって、宝を奪い取れねえぞ」


「じゃあ、明日いっちまうか?」


「ああ、いっちまおう」


 樽の中で声だけを聞いたので、だれがどのセリフを言っていたのかはよく分からなかったようだが、6人全員グルで、昨晩の明日、つまり今日いっちまうってことだ。

 『いっちまう』の意味によるが、間違いなく俺たちに危害を加えるってことだろう。


 宝の地図のこともバレているし、地図を上手く扱えば命だけは助かるかも知れない。

 ゴーレムコアのあることまで知っているとは、どういうことなんだろう。

 あと、奴らは6人と1匹だが、10人や20人でかかった時の話をしていたそうだ。

 増援があるのか? 例え話なのか?

 いずれにせよ、この船員たちは海賊の一味のようだ。

 そうじゃ無きゃ、キャプテン・ミッドの財宝について知っているはずが無い。




 スージーは舳先へさきに座っている。

 わざわざ呼びに行くのは、警戒されそうだ。

 リンプーは、何処にいるのか分からない。


 とにかく、二人で医務室に行って、リブジーさんと相談する。

「それは、まずいな。

 ワシらは、年寄りと子供二人だ。

 スージーさんが戦力になったとしても、6人がかりに勝てるだろうか?」


「今日のいつ、奴らが襲ってくるか分かりません。

 何か武器とか無いんですか?」


「手術用のメスとかはあるが、やつらはカトラスを持っとるだろう。

 とてもじゃないが、対抗できん」


「カトラスって何ですか?」

 スープラ君が質問する。


「取り回しがいいので、船の上で使う武器として船乗りが持っている短剣じゃ」


「武装した6人に対して、丸腰のこの3人では、全く勝負にならないという事ですね」

 俺は、絶望しそうになる。


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