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26.航海の日常

 ゼロさんが舵を取りながら、チラチラと俺の方を見ている。

 泣いてるからか?

 いや、目線が俺じゃない。


 この日記が気になるのかな?


「やあ、そのノートは何なのかな?」

 ドキッとして後ろを振り返ると、リブジーさんだった。


「ああ。これは、他人の日記です。

 ただ、古の海賊ミディアム卿が書いたとか書かれていて、ちょっと嘘くさいんですけどね」


「ハハハハ、確かに嘘くさいね。

 キャプテン・ミッドは、何百年前の伝説だが、その日記は明らかにそんなに古くない」


 ゼロさんが、キャプテン・ミッドの名前に反応した。

 俺は、ちょっと(まず)いかなと思い、小声でささやく。

「キャプテン・ミッドの話は、秘宝と紐づいているから、あまり他の船員の前でしない方が良いのかも知れませんね」


「いやしかし、この航海の乗組員は、奇跡だなあ。

 誰も、船酔いの症状を訴えて来ないんだから。

 船酔いの薬を沢山積んできたんだが、無駄になりそうで良かったよ」

 リブジーさんは、機転を利かせて話題を変えてくれた。


 ゼロさんも、もうこちらを見ていない。

 ごまかせたかな?




 たまにスコールのような大雨が降るが、おおむね平穏無事な航海が続く。


 操舵を任せているゼロさんをはじめとした船員さん達のスキルの高さが、大きく貢献しているのだろうとは思うが、基本何事もなく日々が過ぎていく。


 航海も3日目を過ぎた頃から、船員さん達は退屈しだしたようだ。


 俺は、船と並んで泳ぐトビウオやイルカを見るだけで楽しいが、こういうのを見慣れている海の男たちには退屈な光景なのだろう。


 甲板の縁に何人も並んで、釣りを始めた。

 なるほど、このためにみんな釣竿を持って来ていたんだ。


 操舵室にこもりっぱなしのゼロさんと、元軍人で暇な時には黙々とトレーニングしているラウールさんは、釣りをしないようだが、他の4人は釣り好きみたいだ。

 何匹釣ったとか、釣った魚の大きさとかで、やたら張り合っている。




 本当に不愛想で、いかついだけのドラゴンパピー、フリントはマストに止まってカモメを追い払っている。

 こいつは、何だか得体が知れない。

 存在感が無く、いるのかいないのか、分からないくらいだ。


 それに対して、リンプーは愛嬌があるから大人気だ。

 釣った魚を丸ごともらっているのを、何度も目撃した。






 航海5日目、俺が操舵室に入ると、ゼロさんが舵を握りながら話しかけてきた。

「あんちゃん。この間、なんかノートみたいなのを一生懸命見ていただろ。

 俺様にも、少し見せてくれねえか?」


「古い航海日誌みたいですけど、異国の言葉で書かれていますよ」

 やはり、この日誌に興味を持っていたんだ。

 変に隠すより、見せた方が良いだろう。

 俺は、ゼロさんに冊子を渡した。


 ゼロさんは、パラパラとページをめくるが、目が真剣だ。

「あんちゃんの言う通り、俺には読めねえや。

 本当に日記みてえだな」


 興味無さそうに言って来るが、さっきの様子では興味津々だった。

 しかも、今日俺は航海日誌と言ったが、何日か前に俺の言った日記という言葉を返してきた。

 その時からずっと、中身を見るチャンスを待っていた可能性もある。


 ちょっと、気を付けないといけない。

 なんせ、金貨だけで10億円、下手すると100億円の財宝だ。

 普通の人でも、お金の亡者に変えてしまいかねない額だ。




 俺は、お昼間はパントリーにびたっていた。

 パントリーとは、キッチンに隣接した場所に設けられた収納スペースのことだ。


 何故入り浸っているかというと、スープラ君が料理の材料を仕分けするために、一日の大半をそこで作業しているからだ。


 この船には、魔法で作動する冷蔵庫がある。

 基本的に誰の魔力でも、冷えて冷蔵庫として機能する。


 だが、船員のシウバ・ウオーターは水魔法の使い手だ。

 彼の水魔法で作った氷を使うと、その冷蔵庫の性能がグッとアップする。

 冷蔵庫の一部が冷凍庫と化すのだ。


 冷凍庫があると、みんなの釣った魚の保存がきく。

 結構みんな沢山の魚を釣るので、夜は刺身が出ることが多く、翌朝冷蔵庫から出した焼き魚、余った分は冷凍している感じだ。

 おかげで、沢山積んでいるハム類が減っていない。

 ありがたい限りだ。


 その氷のメンテと、各種素材の使用する時期を考えて冷蔵と冷凍を使い分けるのに、出し入れが大変になる。

 重い材料の出し入れが滞っていると、スープラ君の非力さがバレてしまう。

 そうすると、女の子だとバレる危険性も高まるので、バレないように、重いものは俺が運んでいるのだ。


 男の子の恰好をしているとはいえ、中身は可愛い女の子だ。

 二人っきりで、半閉鎖空間にいるというだけでドキドキしてしまうが、二人の秘密を共有しているというシチュエーションも、ドキドキの加速に役立っているだろう。


 セリカちゃんは、上手く偽装できているようだ。

 年齢を言っていないので、10才くらいの男の子だと思われているようだ。

 だが、しっかりとみんなのご飯を作っているし、それが結構旨い。


 本人には言わないが、みんなコッソリ褒めている。

 みんなとコミュニケーションを取りたがらない理由があるのだろうと思って、そっとしておいてくれる辺り、船員さん達は意外と紳士なようだ。




 そして、スージーは機械人形オートマタで、俺たちの用心棒としてこの船に乗っていることを説明してある。


 銃を沢山持っているせいだろうか?

 スージーに近付こうとする船員は、いない。

 スージーの方も、エネルギーの節約の為だろうか、船室のベッドの上で動かずにジーッと座っていることが多い。


 そうは言っても、すごくきれいでナイスバディな女性が、ベッドの上でジーッとしている訳だ。

 誰も、何もしないことに、俺は少し驚いていた。


 夜に、リンプーに何となく言ってみた。

『セリカちゃんも、女の子であることを隠さなくて良かったんじゃ無いか?

 ゼロさんは、幼女好きらしいから危ないかも知れないけど。

 船員さん達は、そんな危なそうには見えないけどな』


『油断しちゃダメニャ。

 大航海時代の地球でも、何カ月間の航海中に我慢できなくなった船員たちが、船に乗せていた山羊や羊のメスに襲い掛かったせいで、様々な性病が蔓延することになったのニャ。

 男の性欲を舐めちゃいけないニャ』


『まあ、俺も男だから、分からなくはないけど』


『トモヤは枯れちゃってたから、大丈夫かも知れないけどニャー』

 リンプーが、馬鹿にするように言ってくる。


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