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断章2A.幼女好きの変態野郎

 ゼロ・ブラックドッグ視点です。


 俺様が海の男になったのは、ちょうどそうだな、あのトモヤってガキくらいの頃だった。

 貧乏な村に生まれて、食うや食わずの生活をずっと続けていた俺様は、仲間と一緒に村を抜け出した。

 近くの港に来たという海賊船を見に行ったんだ。


 港を見下ろす山の上から眺めた。

 立派な海賊船だった。


 船を停泊させている港の近くの港町にも、行ってみた。

 小さな漁港だったんだが、海賊と協定を結んでいて、そこの町では海賊は大人しかった。

 海賊たちは悪魔のような所業で恐れられていたが、そんな悪辣あくらつさは微塵みじんも感じさせなかった。

 荒々しい海の男感は、かもし出していたけどな。


 海賊たちが使う金や置いていく宝物のお陰で、その町は俺たちの村とは違って豊かだった。


「おいゼロ。俺達も海賊の仲間に入れてもらおうぜ」

 一緒に行った仲間が、誘ってきた。


「そんな名も知らねえような海賊の仲間になって、生きていけんのか?

 雑兵として使い捨てにされるだけだろ。

 俺様は、ご免だぜ」


「そう言うなよ。ゼロ。

 確かにお前の言うような雑魚の海賊なら、海の上で食料や水が無くなったらポイ捨てされる可能性は高い。

 でもな、あそこにいる海賊は、なんとあのキャプテン・ミッドの関係者らしいんだ」


 興奮しながら言ってくるんだが、こいつ本気かと思ったね。

「ちょっと待てよ。キャプテン・ミッドと言やあ、何百年も前の伝説の海賊じゃねえか。

 関係者って言っても、かたっているだけだろう」


「ああ、そうかも知れないな。

 でもな、奴らはキャプテン・ミッド・ジュニアを名乗っているんだ。

 そんな目を付けられやすい名前で、もう何年も生き延びている。

 つまり、それなりに実力があるってことだ。

 海賊みたいな悪になるなら、一番大事なことは生き残る実力があることだ。

 俺は行くぜ。お前も来いよ」


 俺様は余り気乗りしなかったんだが、海賊たちが町の酒場でタップリの飯を食っているのを見て決心した。

 腹一杯食えるんなら、汚い事だってなんだってできる。

 略奪も、殺しでさえも出来ると思った。






 数年後、一緒に仲間になった奴はチョロマカシがバレて、海の上で処刑された。

 キレイな宝石に目がくらんで、ポケットに入れて隠していたらしい。

 港に帰ったら、最近気に入ってた酒場のねえちゃんにやるつもりだったようだが、仲間に見られていて、チクられたってよ。


 俺様はと言えば、飯を腹一杯食いたかったから、コックの見習いから初めて正規のコックまで昇格していた。

 コックとはいえ海賊の一味だ。

 それなりに戦わねえといけねえ。


 襲った船の乗組員、俺様の飯が不味いと言ったクソ野郎とか、すでにその時点で数人は殺していた。

 一言で言って、俺様はクズ野郎ってことだ。






 船は久しぶりに、俺様の生まれた村の近くの漁港に停泊した。

 あの山の上から眺めた場所だ。


 俺様が仲間に加わった町に降りたって、酒場に行く。

 あの頃は見るだけだった酒と飯を、腹いっぱいに食いながら思い出す。


「あの時、奴が誘ってくれなかったら、俺様は今頃地を這いながらゴミ拾いをして、腹ペコのまま暮らしていたんだろうな。

 それに比べて今の俺はまあ、幸せなんだろうな。

 奴も、それなりに好き放題やって死んじまったんだから、まあ幸せな方だな」

 気付いたら独り言を言っていた。


 奴はずっと言っていた。

 絶対に一端いっぱしの男になってやると。

 金で動かず、道理を曲げず、命の取り合いになっても男を曲げない。

 そんな男になってやると言っていた。

 そして、宝石一個チョロマカシて死んでしまった。

 まあ、一個じゃ無かったんだが。


 馬鹿な奴だと思ったね。

 だが、俺様はどうなんだろう。

 金どころか、メシが食えれば動く。

 気に入らない奴は、道理なんか関係なくぶっ飛ばしてたし、命のやり取りになる前に汚い手を使ってでも潰すのが俺だ。




 だが海賊ってのは、そんなもんだ。

 海の上の大自然も、海賊船に襲われた船の護衛の奴らも、男らしいからって手加減なんてしちゃくれねえ。

 奴は、男の矜持なんてモンを持ってたせいで早死にしたのさ。


 協定を結んだ町では暴れねえってのもそうだ。

 結局、海の上で好き放題やってても、陸の上ではのんびりしてえってことだ。

 そんな中途半端なモンに、俺様は頼らねえ。


 俺様は、俺様のやりたいようにやる。




 この酒場に来たのには、もう一つ理由があった。


 羽振りの良い俺達が食事していると、店のねえちゃんたちが勝手に同じテーブルに座りやがる。

 夜の相手をすることで、金をせしめようってわけだ。

 そんで、俺様の酒を勝手に飲みやがる。


 店としても、キレイなねえちゃんのいる店が人気になるので、止めるどころか推奨してやがる。

 店の2階がそういう目的で使われてるしな。

 部屋の使用料をねえちゃんたちから取って、2重に儲かるって寸法よ。




 飯を食い終わるころ、給仕のオッサンが聞きに来る。

「今晩は、どの子にするかお決めになりましたか?」


「ああ、奥で皿洗いしているドミニクって子がいるだろ。

 そいつにする」


 俺様にしなだれかかっていた女が、不機嫌そうに言う。

「あんた、何考えてんの?

 ドミニクって、こんなちっちゃなガキだよ。

 あんな子に夜の相手をさせるってのかい?」


「ああ、ちっちゃくても皿洗いを頑張ってんだろ。

 俺様は、頑張る子が好きなんだ」


「ガキなんて止めときなよ。

 アタイを選んだら、本当に天国に連れてってあげるよ」

 女が股間をまさぐってくる。


 給仕のオッサンが、ここぞとばかりに耳打ちしてくる。

「ダンナ。申し訳ありませんが、ドミニクは本当に未だガキなんですよ。

 しっかり皿洗いもさせなきゃいけやせんし、今日の所はそこの女で手を打ってくれませんか?」


「いや、俺様はやりたいようにやる。

 文句は言わせねえ」

 少し多めに金を握らせたら、給仕の奴は黙って部屋のカギを置いて去って行きやがった。


「ケッ、変態が!」

 女が舌打ちしながら、別のテーブルに移って行った。




 俺様は、酒場の2階の小汚い部屋でボーッとしていた。


 ノックの音がして、ガキが一人入って来た。

 酒場にいた女たちの派手な格好とは違って、みすぼらしいボロボロの服だ。

 こんな所に行かされるのは初めてなんだろう。

 小さく震えている。


「久しぶりだな。ドミニク」

 俺が声をかけると、ガキは顔を上げる。


「えっ、あなたはゼロさん?」


「へっ、覚えていやがったか。そうだ、ゼロだ」


「ゼロさん。お兄ちゃんと一緒に海賊になったって聞いたけど、本当なんですか?」


「ああ本当だ」


「お兄ちゃんは、お兄ちゃんはどうしているんですか?

 元気なんですか?」


 俺は、その質問には答えずにガキの手を握った。

 皿洗いをずっとやってるせいだろう。

 あかぎれだらけで、ガサガサの手だ。


「今日は、ジムの野郎の言伝ことづてに来た。

 この宝石を町の魔法具店に売りに行って、その金で店を止めろとよ。

 魔法のかかった宝石だから、お前が売られた額の何倍の金になるらしい。

 あと数年もすれば、客を取らされる。

 今、逃げねえと、取り返しがつかねえ。

 以上だ」


 ガキは、自分の手に握らされた宝石を見てつぶやく。

「お、お兄ちゃん。そんなことを……

 でも、お兄ちゃんに伝えて下さい。

 私は、貧乏でも平気だって。

 海賊なんて止めて、家に帰って来てッて」


 なんだか、目に涙まで浮かべて馬鹿なガキだ。

 ジムの奴は、とっくの昔にくたばっちまってるってのによ。

 本当に馬鹿な兄妹だ。

 何処で妹のことを知ったのかは知らねえが、こんな事の為に命を落としてんだからな。


「おう、伝えられたら伝えとくぜ。

 奴が俺様の言う事を聞くとは思えねえがな」


 伝えられるのは、天国に行った時かな。

 まあ、俺様はやりたいようにやる。

 今回は、何となく約束を守ってやっただけだ。

 このガキとの約束が守れねえことがあっても、別に気にはしねえ。






 次の航海の時、古株のオヤジがニヤついた顔で言ってきた。

「おいゼロ。お前、幼女好きの変態野郎らしいな。

 おかしな趣味も大概にしとけよ。ブッハハハ」


 まあ、言いたいやつには言わせとけばいいさ。

 俺様には、別に男の矜持もクソもねえ。

 生きたいように生きるだけだ。




 そうさ、あれから何十年も経つ。

 今も俺様は海賊だ。人呼んでキャプテン・ゼロ。

 それなりに名も知れてきているが、それは戦利品を売りに行く大きな港での話だ。

 まだまだ南の方の小さな港では、海賊船で乗り付けない限り、海賊だってバレねえ。

 名前を偽らなくても、隠れなくても何の問題もねえ。


 おかげで、宝探しに出て行こうなんていうガキの船に忍び込むのも、容易たやすいってことだ。


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