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24.さらば、サウスパース

 翌日、船員さん達は誰一人現れないので、俺たちだけで食料、飲料水、酒、その他の荷物を積み込んだ。

 出航の時に船員さん達はみんな二日酔いで、まともに動けないとかになったら困るなあ。


 実はリブジーさんもやって来て、手伝ってくれた。

 船を見ておきたかったってことも、あるらしい。


「船員さん達は、船を見なくても大丈夫なのかな?」


「船員たちは、港の船の出入りをチェックしていたそうニャ。

 ちゃんと前もって全員がこの船を見に来ているのは、船舶事務所の人が言ってたニャン」


「何カ月も自分の職場になるんだから、当然か」

 俺は、元の世界でブラック職場を見分けられなかった。

 彼らは、そういうのは気にならないんだろうか?

 仲間でつるんでいるから、そんな心配は不要なのかな?




 出航の準備にリヤカーは、大活躍だ。

 スージーさんの馬鹿力も大活躍だ。

 水や酒の入った樽が、船底にビッシリ並んだ。


 酒を水や食料並みの量積んだのは、リンプーが船乗りをコントロールするのに必要だって言ったからだ。

 あいつが自分で飲むためじゃないことを祈るが、まあこれだけの量を一人で飲めるはず無いから、大丈夫だろう。


 船室には、2段ベッドが10人分最初から設置してあった。

 枕元には、鍵付きのセイフティボックスも付いている。


「俺、リンプー、スージー、リブジーさん、セリカちゃん、あれ、ゼロさん他6人を合わせると、11人じゃないか。

 一人分足りないぞ」


「大丈夫ニャ。

 アタイがベッドを使わないから」


「まさか、一緒に行かないつもりなのか?」


「そんな訳無いニャ。

 出発の時に分かるニャン」






「お父さんは、応援してくれるって」

 宿に戻ると、超ショートカットになったセリカちゃんが話しかけてくる。

 どうやら、お父さんの許可はもらったようだ。


 でも、引っ掛かる。

「応援?」

 意味が分からないな。

 命がけの航海だって、分かっているのかな?


「最悪聖杯は手に入らなくても良いから、トモヤ君を絶対逃がすなよ、って言われ……」


「ワーワー、もう良いニャ。分かったニャン。

 それ以上言わなくていいニャ。

 トモヤもそれ以上聞いちゃダメニャ。

 女同士の秘密の事情ニャ」

 リンプーが、セリカちゃんの言葉をさえぎって騒ぎ出す。

 騒がしいやつだ。




「ところで、どうですか? この格好」

 セリカちゃんは、男の子の服を着て髪の毛を短くして、男の子らしくなっていた。

 いやあ、可愛い子は、どんな格好をしても可愛いなあ。


「トモヤ、女の子の顔なんて、あんまりちゃんと見ていない癖に」

 なんだか急に、リンプーがプリプリ怒りだす。

「どうしたんだよ、急に?」


「リエネルとかいう声優が最高だって、言ってたじゃニャいか」


「うん、リエネルは最高だよ」

 主に七色の声が、だけど。


「リエネルの顔に、ねこみみを付けたはずなのに、何の反応もしない奴がいるニャ」


「えっ? そうなのか?」

 言われてみれば、今のリンプーをよく見ると顔はリエネルだ。

 ねこみみになって、髪型が違っていたし、いきなり海水に漬かってボサボサの頭しか見ていなかったから気付かなかった。

 俺、やっちまってた?




 焦る俺を無視して、リンプーはセリカちゃんにダメ出しをする。

「言葉遣いも男っぽくしないと、ダメニャ。

 今度の航海には、幼女専門の変態オヤジもいるそうニャ」


「じゃあ、これでどうでしょう。

 ボク、セリカって言います」


「港には、セリカっていう名前は、宿屋の娘だって知っている人もいるんじゃないか?」

 リブジーさんが、意見を言う。


 確かに、出航までに港の人にそのことに触れられたら、ぶち壊しだ。

 セリカって、スペイン語のシエロ(空)を女性っぽくした名前だって説を聞いたことがある。

 女性っぽくってことは、女性とバレるんじゃないか?


 俺は提案する。

「セリカちゃん。スープラって名乗ったらどうかな?」


「スープラ?

 そうですね。いや、そうだな。

 スープラにするよ。

 ボクは、スープラです」


「名前がスープラなら、苗字はコンソメかカレーにしたら、美味しそうニャ」


 クスッ


「あ、あれ?

 今、スージーが笑った?」

 もしかして、こいつ、こういうコテコテのダジャレに弱いのか?


「笑っていません」

 即座に否定したが、絶対に笑っていた。

 機械人形だとか言ってるけど、長生きし過ぎて心が芽生えてるとかじゃないのかな?


 セリカちゃんが、スープラ・カレーは嫌だと目で訴えてくる。

「じゃあ、苗字は無難にトヨタにしておこう」


「せっかくアタイが、覚えやすい名前を考えてあげたのに」

 リンプーは、不満そうだ。




 出発の日、正午に船の前に全員集合の約束だ。


 お金を払ったきり、姿を見なかった船員さん達も、太陽が真上に登る時間ピッタリに現れた。

 みんな、荷物がすごく少ない。

 ただ、みんな釣竿を持っている。

 この世界での、海の男の趣味第一位とかなんだろうか?




「それでは、伝承の妖精が死んだ島に向けて、出発します。

 皆さん乗り込んで下さい」

 みんな並んだところで一人だけ台に乗って、船長らしくあいさつする。


「おう、10人に2匹での航海なんだな」

 ゼロさんが、声をかけてくる。


 2匹とは、ゼロさんの連れているドラゴンパピーと、俺のトラねこだ。

 そう、リンプーはトラねこの姿に戻っている。


 リエネルの顔になっているのに気付いてもらえなかったから、拗ねている。

 という訳では無く、海上で何十日も男だけで過ごす海の男たちの前に、女性の姿でいるのは危険だからだ。


 ねこなのに、胴体にポーチのようなものを巻き付けている。

 魔法のポーチで、人間の体に戻った時は大きさもウエストポーチに戻って、中身が帰ってくると言っていた。

 ピーナッツとか色々入れているそうだ。


 スージーは、戦闘用のオートマタだから大丈夫だと本人は言っていたが、本当に大丈夫なんだろうか?

 セリカちゃんは、女の子だってバレないだろうか?


 まあ、色々と不安はあるが、船は港をゆっくりと出て行く。

 こんなにワクワクした気分になるのは何年ぶり、いや何十年ぶりなんだろう。


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