23.船員の採用
翌日の俺は、言葉通り寝て過ごした。
お昼前に出かけたリンプーは、昼過ぎに帰って来た。
「お買い物とか、するんじゃなかったのか?」
「男女二人っきりにしておくのは、何か心配だったのニャ」
「俺もスージーも満身創痍だから、心配の必要は無いだろう」
「言われてみればそうかも知れないニャ。ポリポリ」
「うん? 何だ、そのポリポリというのは?」
「別に何でもないニャ。カプッ、ポリポリ」
よく見ると、リンプーのやつ、ピーナッツを買ってきて一人で食べている。
「ポリッ、これは適度な脂肪分が含まれており、回復が早まりそうです」
スージーが、リンプーのピーナツの袋に勝手に手を突っ込んで食べている。
「あっ、スージー。
お行儀悪いニャ。
本当に、油断も隙も無いんだから」
リンプーは、一人で買い物に行って、ピーナッツしか買って来なかった。
結局、リンプーは前に豆屋に行ったときに、ピーナッツらしきものを見たので、どうしても買いに行きたかっただけらしかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その次の日は、募集した船員の面接の日だ。
船舶事務所の会議室を1つ借りて、朝のうちに準備した。
お昼過ぎには、応募者が集まってきた。
リンプーは、スージーが最初に着ていたフード付きローブで顔を隠している。
出航の時いなくなるので、顔を覚えられたら困るからだそうだ。
6人の募集に対して、6人応募してきた。
そんな偶然って、あるんだろうか?
6人が自己紹介する。
まず、片足が義足の初老の男性、ゼロ・ブラックドッグ。
航海士の経験が豊富で、操舵手として働けるという。
肩に龍の幼体、ドラゴンパピーを乗せている。
フリントという名前だそうだ。
ドラゴンパピーは、ずっと目をつぶっていて、ピクリとも動かない。
生きているんだろうかと、心配になる。
ゼロさんは、杖が無いと歩けないみたいだが、航海は大丈夫なんだろうか?
それに、フリント? ドラゴンパピー?
どこかで聞いたような気がするな。
残りの5人は、船員希望だそうだ。
ラウール・サンダー、山犬系獣人。元軍人らしく、動きがキビキビしている。
ディエゴ・アース、黒髪でガッシリした体格の身長2メートルの大男。
シウバ・ウオーター、長い銀髪で目つきの悪いひょろ男。
アルセ・ウインド、形の悪いジャガイモのような武骨な見た目の筋肉男、スキンヘッド。
アンヘル・ファイア、オレンジ色の丸いネズミの耳をした、背の低い獣人
風水火雷地って、なんか苗字が取ってつけたようだ。
偽名なんじゃ無いかって、疑惑を持つ。
「えっと、俺は今回の募集をかけたトモヤ・フタガワです。
歳は、13才です。
えーっと、それで、えーっと」
い、いかん。
海の男たちになめられないように、あいさつはビシッと決めるつもりだったのに、何を話すのか、頭の中から飛んでしまった。
「ガーハッハッハッハ。
お前が募集をかけたってことは、お前が今回の航海の船主ってことだな」
突然、ゼロという男が大声で話し始めた。
「そ、そうです」
「つまり、お前さんが船長ってわけだ」
「はい。募集に書いていたと思いますが、13才の船長の命令に従えないようでしたら、採用できませんので」
俺は、いきなり迫力に飲み込まれないように、勇気を振り絞って対抗する。
相手は、海千山千の海の男だが、俺たちだってゴーレムを倒して船を手に入れたんだ。
船を持っているってことは、雇われ船員よりも立場が上なんだ。
だから、自信を持って臨めとリンプーに言われた。
ここで、人に言われたのを根拠にする所が俺のウイークポイントだな。
「ガハハハ、アンタ達は運が良いぜ。
俺様たちは、大漁祭りに出店を出してたんだが、終わっちまったんで次の仕事をどうするかってとこだったんだ。
海賊の山賊焼き屋って店だったんだがな」
そう言えば、そんな出店があったな。
確かに、あの山賊焼きは上手かった。
「それで、俺様たちは6人だが、アンタ達の募集も6人だ。
さらに、わざわざ船長が13才だとか、それに従えとか募集に書くってことは、航海の中でリーダーシップを発揮出来ないってことじゃ無いか?」
「まあ、そう言われたら、そうかも」
「俺様たち6人は、俺様をリーダーにまとまっている。
つまり、船長がとやかく指示を出さなくても、俺様がちゃんと航海を仕切ってやれるってえことだ。
理想的な取り合わせってやつだな」
航海の主導権は取っちまうぜってことかな?
それは困るな。
「で、でも、ゼロさんが、俺の言う事を聞かなかったら困るんで、あの……」
「心配スンナ、兄弟。
その辺は、ちゃんとわきまえてるぜ。
航海では、船長の言う事は絶対だ。
俺たちで決まりだろ」
バアーンと肩を叩かれる。
「は、はあ」
「よし、そうと決まれば、前金の銀貨10枚をいただいていくぜ。
それを持って、今から宴会だ!」
「「「「「オオーーーっ!」」」」」
「い、いや、お金だけ払って消えられちゃうと困るので、その出航の時に……」
「なんだ、おめえ、俺様たちが信用できねえって言うのか?」
「そういう訳では無いんですが、出航は明後日なんで……」
「海の上では、銭金なんざ何の意味もねえ。
もらった金は今日明日中に、全部パアッと酒と女につぎ込んじまう。
それが、海の男ってもんだ。
安心しな! 最高の航海をさせてやるぜ!」
「おいゼロ。
てめえは、女つっても幼女専門だろうが」
ネズミ獣人のアンヘルさんが、からかう。
「馬鹿野郎! 下らねえこと言ってんじゃねえ!」
何やら、船員さん達にドッと笑いが起こっている。
ええっ? 幼女専門?
あの歳で? めっちゃ危険じゃ無いか?
絶対にセリカちゃんは、この男に見せちゃダメだな。
銀貨を10枚ずつ配ると、海の男たちは港町に消えていった。
「トモヤ、圧倒されてたニャ」
「一言のサポートも無かったな」
スージーには期待していなかったが、リンプーには場を制圧するような何かを期待していたのに。
「そりゃ、そうニャ。
アタイがフード被って得体を知れなくしておかないと、女二人と子供主導の航海ってなったら、なめまくられるニャ」
「なんか、すでになめられまくってた気がするんですが」
「吹っ掛けられなかっただけ、上出来だニャ」
それは良いとして、俺は船員さんたちに一律金貨一枚、つまり100万円っていうのに、納得していなかった。
セリカちゃんやリブジーさんにも同じだけ払うつもりなんだろうか?
で、聞いてみた。
「前金で、銀貨一人10枚は分かるんだよ。
手持ちの金で十分間に合うからな。
でも、帰ってきたら金貨1枚っていうのは、絶対に宝物が手に入る前提なのか?」
俺は、宝島に行ってみたら地図と全然違う島だったとか、宝箱が空だったとか、悪い想像ばかりが頭に浮かんだ。
だから、いかつい海の男たちに金が払えない可能性があるのは、怖かった。
「大丈夫ニャ。トモヤは心配し過ぎニャ。
この船は、お宝を手に入れるための船だし。
お宝が手に入らなかったときは、別にこの船に拘る必要もないニャ。
そんな時は、船を売り飛ばしたお金で払えば良いニャ」
そう、この頃の俺たちは、宝島までの船旅は静かで何も起こらない、平穏なものだと思い込んでいたんだ。




