21.ゴーレムを倒せ
俺たちは、港の近くでリヤカーのような荷車を買った。
船への荷物の積み下ろしに使うのだろう。
店には大小様々なサイズが揃っており、少し大きめの物を買った。
それを引いて、船のある建物の所に行く。
多分、馬や牛のような動物に引かせるための物なのだろう。
人間が引くには、ちょっと扱い難い。
いよいよ、ゴーレムとの対決だ。
リンプー大賢者に、疑問点をぶつける。
「一か月くらいの船旅なら、港で船をチャーターして『伝承の妖精が死んだ島』まで行くことは可能って言ってたよな」
「うん、言ったよ」
「俺は、魔法使いになったと言っても、全然戦える気がしない。
無理してゴーレムを倒すより、チャーター費用を稼ぐ算段をした方が安全で良さそうに思うんだが。
百円ショップで買ってきた便利グッズを売れば、そこそこの金になるんじゃないかな」
「戦える気がしなくても、戦わなくちゃダメニャ。
便利グッズは便利に使った方が、今後の生存確率が上がるし」
確かに、ラッピングフィルムやガムテープなんかはすごく便利だが、この世界の人には価値が分からないかも知れない。
前にゴーレムに会った時、俺は奴の横殴りのパンチを間近に見ている。
あんなのを食らったら、人間はひとたまりも無いぞ。
あんなデカい怪物に、俺たち3人で勝てるんだろうか?
「しかし、戦ったら犠牲が出るかも知れない。
俺たち3人が五体満足でいられる保証は無いんだぞ」
ちょっと不安になった俺は、それを口に出した。
「それを言うなら、どうして宝島にゴーレム同様の防御システムが無いと保証できるのニャ?
船よりももっと厳重に守っている可能性が、高いんじゃ無いかと思うけど」
うっ、確かにそうだ。
俺の、痛い所を突かれたという顔を見て、リンプーが続ける。
「アタイは、このゴーレムを越えられない様なら、『伝承の妖精が死んだ島』で秘宝に辿り着くのは、絶対に無理だと思う。
それに、わざわざ宝島に行くために用意された船ニャンだから、何か秘密があるかも知れないし」
「そうだな。
最強の船らしいし、この船じゃないと越えられない何かがあるかも知れないな」
「ニャンと言っても、借り物の船では秘宝を隠し通せないよ。
船員にバレないように、コッソリ船倉に宝物を運び込んでも、中身がバレたら船員との間で奪い合いが始まるかも知れないニャ」
「そうか、船を入手する日にちに余裕を見ているのは、秘密の船倉を作るためなのか」
船の底の方を2重底にするとかして、宝物を隠せるようにしないとな。
「その通り!
分かってるね、きみー」
リンプーは、人差し指をビシイッと伸ばして、中空を指さす。
〇●〇●
しかし、スージーの馬鹿力には驚くほかない。
建物の入り口は、厚い鉄の扉がふさがっている。
そのままでは、リヤカーを運び込めなかったが、スージーが扉を無理やり開けた。
というより、取り除いたという方が正しいような開け方だった。
俺たちは、スージーが見つかった小部屋に落ちていた、古い石のブロックをリヤカーに乗せて運び、廊下の溝の手前で降ろす作業を繰り返した。
俺やリンプーは石のかけらを運ぶことしかできないのに、スージーは丸ごとのブロックでも軽々とリヤカーに積み、廊下の溝の手前でリヤカーから降ろす。
リヤカーを引くのも、スージーにお任せした。
この力があれば、あの強力なゴーレムにも勝てそうな気が、少しだけしてきた。
その日は、石を運ぶだけで終わった。
リヤカーは、小さな部屋に運び込んで、ヘトヘトになりながら宿まで歩いて帰った。
「おんぶして、あげようか?」
しんどそうな俺を見かねたリンプーが提案してくるが、いくら何でもそれはカッコ悪すぎる。
しかも、3人の中で俺の働きが一番悪かった気もする。
「体は子供になっているけど、子供じゃ無いから」
周りで殺人事件は起きないし、推理とかできないし。
「無理しなくてもいいニャよー」
余りの疲れから、ちょっと心が動いたが、後が怖そうだ。
俺は必死で歩いた。
宿に帰ったら、体中が筋肉痛で痛い。
3階に上る階段も苦痛だった。
部屋に戻ったら、リンプーがマッサージしてくれたが、あまりの気持ちよさに、ハッと気づいたら朝だった。
「気持ちいいのは分かるけど、そのまま寝てしまうニャンて失礼な奴ニャ」
リンプーが責めてくる。
「す、すまない。
き、昨日はありがとう、リンプー。
おかげで、今日は筋肉痛が治っているみたいだ」
「まあ、トモヤのためにマッサージしてやったんだから、治ったのなら良かったニャン。
特に今日は決戦の日でもあるし、体調は重要ニャー。
でも、晩御飯も食べてないし、セリカも心配してたニャ」
俺は、朝ご飯のために一階の食堂に降りて行き、セリカちゃんにも心配かけてすまなかったと謝った。
さて、いよいよゴーレムとの決戦の時だ。
意気込んだ3人で、あのレンガ造りの建物に入っていく。
俺とスージーは、溝には降りずにこちら側で待機する。
素早く動けるリンプーが一人だけ、廊下の溝の向こう側に行った。
リンプーが、ドックのある扉を開く。
しばらくすると、部屋からリンプーがタッタッタと軽快に走って飛び出してきた。
後を、あのゴーレムがズシンズシンと追いかけてくる。
「ヤーイ、捕まえれるもんなら、捕まえてみろー。
ベロベロバー」
大丈夫とは思うんだが、何だか危なっかしいなー。
可愛い子は、アッカンベーも可愛いけどな。
リンプーは、溝の手前で立ち止まり、ゴーレムをしっかり引き付ける。
ゴーレムの大振りの右フックをよける。
さらにもう一発、左からの体をねじっての横殴りのパンチをよけながら、溝に飛び降りる。
以前と同じように、ゴーレムは溝の縁から、下を覗き見る。
だが、前回と違って、そこにはロープで作った輪っかが地面にあった。
俺は、上手くロープを操作する。
輪っかを浮かして、ゴーレムの脚に引っ掛けて引っ張る。
当然、子供の力では輪っかがキュッと締まったものの、それだけだ。
だけど今、俺の隣にいるのは超絶クソ力のスージーだ。
スージーがロープを引っ張ると、あの大きなゴーレムが足を引かれて、ひっくり返る。
一体、どれほどのパワーなんだ?
そして、そのままゴーレムは3メートル以上ありそうな溝を落下していく。
ズズズーン
多分何トンもあるような石の塊のストーンゴーレムが、石造りの床に衝突した。
5体を構成するパーツが、いくつか衝撃でちぎれ飛ぶ。
昨日リヤカーで運んでおいた石のブロックを、溝の上から二人で投げつける。
俺の投げる石は、あまり効いて無さそうだ。
だが、スージーの投げる石のブロックは、多分重さ100キロどころじゃ無いだろう。
スピードも出ていて、高さの差もあってすごい威力だ。
人間が食らったら、タダでは済まない。
スージーが投げたブロックの一つが、ゴーレムの頭に命中して、破壊した。
起き上がろうともがいていたゴーレムは、その瞬間動きを止めた。
「やったー。あんなすごい怪物を倒したぞ」
俺は、喜んで梯子を降りていく。
梯子の横を、スージーが飛び降りていくのが見える。
ゴーレムの首の下辺りに埋め込んである、ゴーレムコアを取り出せば、ゴーレムはもう動くことは無い。
スージーがゴーレムの胸に手を埋め込もうとした瞬間だった。
ブーン、ゴツッ
ゴーレムが振るった腕がスージーに当たって、スージーが吹っ飛ぶ。
スージーは、壁に衝突して動きを止める。
腕がおかしな方向に曲がっているのが見える。
ゴーレムが、ゆっくりと起き上がろうとする。




