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18.開いた箱

 大漁祭りの前日から、宿屋『トラねこのいこい亭』は、客でいっぱいになった。

 田舎町のお祭りなんて、人が集まったりしないだろうと高をくくっていたけど、最終日の花火は、かなり人気の高い行事らしい。


 宿のフロントには、行列が出来ている。


 確かに客は多いが、何十組もいる訳では無い。

 宿泊費の交渉があるから、中々行列が片付かないんだ。

 みんな、世知辛いな。


 街の中には、他に何軒も宿屋がある。

 折り合いが付かなかった客は、出て行って戻ってこなかった。


 フロントには、朝からお父さんが立ちっぱなしで、朝食はセルフサービスのパンとお茶とスープだ。


 セリカちゃんは働きづめで、お話をする暇もない。


 俺たちは、お祭りの準備の喧騒の中、街の活気を楽しんだ。

 昨日までと違って、大河ドラマでロケ地になった観光地状態だ。


 次々と、出店でみせが出来ていちが立っていく。

 部材を運ぶための船が、ひっきりなしに港を出入りする。


 この大きな変化も、楽しみの一つなのかな。




 お祭りは、楽しかった。

 セリカちゃんは、ずっとお仕事だったけど、リンプーとスージーと一緒に出店を回ったり、遊覧船に乗ったりした。


 結構お金も使ったが、『風の器[醤油ラーメン]』が金貨2枚で売れたと聞いて、風の器をあと3個売りに行った。

 なんと、ラーメンの容器3個が金貨2枚になった。


 リンプーが、この町では金貨は使い勝手が悪いと言うので、銀貨200枚にしてもらったが。

 実質200万円の値打ちか。

 大金持ちだな。


 売ったのは、塩ラーメンと、豚骨ラーメンと、味噌ラーメンだった。

 容器は、3人で砂浜で食べた時に出来た。

 今回は鍋を買っていたので、ちゃんと火を起こして熱湯で作った。


 1個足りないと思った人は、鋭い。

 風の器[ソース焼きそば]は、容器にソースの匂いが染みついていたので、売るのは諦めた。


 もう、即席ラーメンの在庫は尽きた。

 海外旅行先によっては、カップラーメンの在庫切れは生死を分ける。

 なんて聞いたことがあるが、この町ならお米も刺身も醤油もあるから、大丈夫そうだ。




 別に一緒にいるだけなんだけど、ねこみみの美少女とアイパッチのナイスバディの超美人の二人を連れて歩くだけで、男たちの羨望の眼差しを一手に引き受けた。


 俺の今までの人生の中で、こんな経験は一度も無かった。

「我が人生に、一片の悔い無し!」


「何馬鹿なことを言ってるニャー。

 トモヤは異世界に来て、少年になってしまったンニャ。

 人生、これからニャ」


 俺の魂の叫びを、茶化された。

 だが、それが良い。




 お祭り最終日の夜、部屋に戻って、3人で窓の前に並んで座って花火を見る。

 日本で見た花火と変わらないけど、満天の星空に花火だけがきらめく。

 ほとんど照明がない中なので、見たことの無い光景と言って良いだろう。


 幻想的な光景と、両手に花のこの状況。


 幸せって、こういうことを言うんだろうなあ。


 パーン、パーン、パラパラパラ


 思わず、大声を出す。

「たーまやー」


「かーぎやーニャ」


「お二人とも、その掛け声は、何なのですか?」

 異世界人には、分からないだろうな。

 実を言うと、俺も意味は知らない。


「江戸時代に、両国橋をはさんで花火師の玉屋と鍵屋が競って花火を上げたニャ。

 観客は、気に入った方の名前を叫んだのニャ」

 リンプーの解説に、スージーはチンプンカンプンみたいだ。


「さすが、大賢者だな。

 でも、みんな『たまや』ばっかり言う気がするけど」


「玉屋は、火事を起こして江戸を追放されてしまったニャ。

 判官贔屓(ほうがんびいき)の江戸っ子は、玉屋がいなくなっても『たまや』の掛け声を叫んだそうニャ」


「大賢者すごいな。尊敬しちゃうよ」

 俺が感心していると、リンプーがすごく嬉しそうだ。


「アタイをもっと褒めたたえるニャン」


「リンプー先生、すごい! 賢い! ヤバイ、可愛い、好きだー! 神、とうとい、ルーブルに飾りたい!」


「ウニャー、嬉しいニャー。

 可愛いの次あたりに、最高の言葉があった気がするから、もう一度聞きたいニャ」


「ルーブルに飾りたい!」


「それじゃ無いニャ。

 でも、まあいいか。

『橋の上 玉屋玉屋の声ばかり なぜに鍵屋と いわぬ情なし』

 こんな歌も詠まれたそうニャ。

 情無しと錠無しが掛け言葉になっているんだニャン」


「リンプー先生。そこまで行くと、逆にありがたみがありません。

 ネット検索で、出てきそうです」


「ワー、せっかく教えてやったのにー」

 ポカポカポカ


「痛い、イタイ、暴力はんたーい」




 眼前で花開く花火と、スージーの不思議そうな顔を見て、ふとひらめく。

「リンプー、スージーの魔力を受けたら、人間は爆発するとか言っていたよな?」


「ああ、言ったニャ」


「この間の、鍵穴のない宝箱、爆発するような魔力を注入したらどうだろう。

 フタが弾け飛んだりしないかな?」


 うなずいたリンプーは、自分の荷物から例の宝箱を取り出して、スージーに持たせる。

「スージー、魔力をこの箱に注入してみるニャ」


「分かりました。マスター」

 スージーが魔力を込めると、宝箱がまばゆく光り始めた。


 ガチャリ


 何かが、箱の中で動作する音がした。

 魔力で開く仕掛けに、なっていたのかな?

 リンプーがフタに手をかけると、スンナリ箱は開いた。


「トモヤの考えはビンゴだったニャ。

 中には、何が入っているのかニャー」




 3人で箱の中をのぞき込む。


 一番上には、ノートのようなものが中ブタのように入っていた。


 スージーが、それを取り出した。


 表紙に「僕の考えた最強の船 レヴィー号」と書いてある。


「古代ルーン文字だ。

 解読しにくい様に、複雑な各種文字が混ぜて描いてある」


 スージーが、もっともらしく発言するが、日本人の俺からすると単なるかな漢字混じり文だ。


「アタイも少しは読めるけど、漢字は苦手ニャ。

 トモヤ、読んでくれニャ」


 おいおい、大賢者じゃ無かったのかよ。

 まあ、いいけど。


「最初の数ページは、レヴィー号と言う船の構造とか操船方法だな。

 多分、あのゴーレムが守っている船は、風と魔法を動力にして進むみたいだ」


「この冊子は、あの船のマニュアルなんだニャ」

 リンプーが納得顔だ。


「俺もそうかと思ったが、その後ろは日記みたいだな」


「日記? 誰の日記だニャ?」


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