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17.セリカママの病状

 食事の後セリカちゃんのお父さんに、一緒に奥さんに会うように頼まれた。


 いよいよ二人の関係は、ご両親にあいさつをするほどに深くなったのだ。


 なんてことは無くて、お父さんが作ったエビみそのスープを持って行くのに、エビを買ってくれた俺を紹介しておきたいとのことだった。


 先に、元医者のリブジーさんとお父さんが二人で部屋に入っていく。

 お父さんは、滋養強壮の効果のありそうなスープを飲まして良いかどうか、医者の見立てで判断すると言っていた。


 最初に、お父さんの声が聞こえる。

「今日は、お客さんを連れてきた。

 お前の病気を診てもらおうと思ってな」


「こんばんわ、奥さん。

 ワシは、ここより北の方で昔医者をやっておりました、リブジー・ワトソンと申します」


「こんばんわ。

 ゴホッゴホッ

 すみません。私は、カリーナ・クラッキです。

 病に臥せっており、こんな姿で申し訳ありません」


「では、診察させていただきます」


 あいさつの取り交わしが終わった所で扉が閉まり、声が聞こえなくなった。

 俺の横には、セリカちゃんがスープの乗ったお盆を持って、心配そうに立っている。




 しばらく外で待っていると、扉が開いて、中に入るように促された。

 失礼とは思いつつ、部屋の中を見渡した。

 あまり飾りつけなどは無いが、きちんと掃除されていて片付いている。


 俺は、まず自己紹介する。

「こんばんわ、自分はトモヤ・フタガワです。

 宿に泊めさせてもらっています」


「カリーナ。このトモヤさんは、すごく良いお客様なんだ。

 それで、ここまで来てもらったんだ」

 お父さんが、力強くフォローしてくれる。


「まあ、宿のお客様ですね。ありがとうございます」

 さすがセリカちゃんのお母さんだけあって、昔はかなりきれいな人だったんだろうな。

 歳はそれなりに取っているけど、その面影がある。




「セリカ、やはり体が弱っているらしいので、栄養のあるスープはとても良いそうだ」

 お父さんに言われて、セリカちゃんがお母さんのもとに行き、スプーンですくったスープを口元に運んでいく。


「美味しいわ、セリカ。

 なんだか、元気が出てくる気がする」

 元気そうな母を見て、セリカちゃんは嬉しそうにニッコリ笑う。

 やっぱり、可愛い。


「カリーナ、このスープなんだが、ここにいるトモヤ君が手に入れたエビから作ったものなんだ。

 我々庶民の口には滅多に入らないような高級品を、惜しげもなく提供して下さったんだ」


「まあ、それはありが……

 ゴホッゴホッ」


 無理して起き上がろうとして、むせたようだ。

「あ、無理なさらずに、そのままで。

 俺は、たまたま手にしたあぶく銭で、漁師さんから譲ってもらっただけなんで」

 俺も経験があるから分かるけど、そんな風にむせると息苦しいんだよな。


「本当に、何とお礼を言って良いか」

 お母さんは、頑張ってお礼を言ってくる。


 薄ら笑いを浮かべるが、金髪碧眼の美少年ならこの表情でも許されるのかな?

 日本人顔の頃コンビニのレジとかでこの表情をすると、ギャル系の店員にうえ~という顔をされたことを思い出した。




 会話が止まったので、所在無さげだったリブジーさんが切り出した。

「では、ワシはこれで」


 出て行こうとするリブジーさんに、コソコソと付いていく。

 確かにキレイなお母さんなんだが、初めて会う人と長く会話するのは、結構疲れる。


 対人スキルがそこまで高くない俺には、相当高いハードルだ。


 部屋から出てから、リブジーさんに聞いてみる。

「セリカちゃんのお母さんの病状はどうだったんですか?」


「かなりひどい状態だ。

 病気になってからも、無理したんだろう。

 内臓も弱っているし、魂がすり減ってしまっている」


「魂が?」

 お医者さんらしくない表現だな。

 ここはファンタジー世界だから、普通なのかな?


「ああ、マナを補給しないと、持って後数年だろうね」


 カラーン


 俺たちの後ろを、セリカちゃんが歩いていた。

 スープが入っていたお椀を落とした音だった。


「そ、そんな、そんな。

 お母さんは、後数年しか持たないのですか?」


「聞いてしまったのか。

 残念だけど、君のお母さんは魔力障害だ。

 特別な方法でマナを体に取り込まないと、回復することは出来ない」


「マナを体に取り込むって、どうすれば良いのですか?」

 セリカちゃんは、すがるように聞いている。


「かなり上位の魔法使いなら、自分のマナを他人に分け与えたり出来るらしい。

 だが、天使級以上でないと無理だし、そんな上位の魔法使いが、こんな片田舎に来ることは無かろう。

 後は、聖杯のような神器にマナを吸収する薬草水を注いで、神器から吸収したマナを含んだ水を飲ませることくらいじゃな」


「天使級以上の魔法使いさんか、聖杯のような神器を探せば、お母さんは助かるんですね」

 セリカちゃんは、希望を持ったのか強い眼差しでリブジーさんを見る。


「そんな魔法使いは、帝国の宮殿で囲われていて、会うことも叶わんよ。

 聖杯のような神器は、太古に失われた技術を使用しておる。

 ワシも存在を聞いたことがあるだけで、何処にあるのか想像もつかんのだ。

 ワシの妻も、同じ病気で亡くなったのさ。

 後は、残された人生を穏やかに、全うさせてあげることだろうね」

 リブジーさんは、申し訳なさそうに話す。


「そうですか」

 セリカちゃんは、意気消沈して答える。

 リブジーさん。もう少しオブラートに包んだように言えないものかな。

 まあ、いくら遠回しに言っても、結果は同じなんだろうけど。






「トモヤー。セリカの母の様子は、どうだったニャ?」

 部屋に帰ると、早速リンプーが聞いてくる。


「いや、マナっていうのを補給しないと、後数年の命らしい。

 ファンタジーではよく聞くけど、マナって何なんだ?」


魔素エーテルが、人間の体に取り込める形になったものニャ。

 普通は、寝てる間に補給されるものだけど、セリカママは取り込めなくなったのかニャー」


「取り込めなくなると、死んじゃうものなのか?」


「この世界で生まれた人は、魔力なしでは生きられないから、死んじゃうだろうね」


「リブジーさん、あ、あのスキンヘッドのお爺さんが言ってたんだけど、魔法使いならマナを分け与えたり出来るらしい。

 俺は、魔法使いになったんだよな?

 セリカちゃんのお母さんを、治してあげられるのかな?」


「それは、無理ニャ。

 トモヤは、ついこの間魔法使いになった所ニャ。

 そんな大魔法を使えるのは、早くても10年後くらいニャ」


「10年か、間に合わないな。

 そういや、スージーは古代の魔力で動いているって言ってたよな。

 あいつの魔力ってマナじゃ無いのか?」


「まあ、マナの一種だけど、人間が取り込めるようなモノには程遠いニャ。

 人間がスージーの魔力を取りこんだら、文字通り爆発してしまうニャ」


「そうか、ダメなのか。

 後は、聖杯とかがあれば、何とかなりそうだったけど、大賢者ならそのに心当たりがあったりしないのか?」


「ある訳無いニャー」


「ですよねー」

 俺は、セリカちゃんのお母さんの病気をなんとかしてあげて、感謝される自分を想像して舞い上がっていたけど、一瞬にして現実に戻された。


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