16.オートマタの口元
せっかくのきれいな女性たちを独り占めできるチャンス。
まさにハーレム状態だぜ。ムッハー。
それを全く活かせない俺。情けない。
そうは言うが、美女を間近に見られるだけでも幸せなのは事実だ。
俺は、幸せになる基準が低いかも知れない。
でも、それは幸せになりやすいってことだ。
女性陣を眺めているだけでは仕方ないので、お爺さんたちの会話に聞き耳を立てる。
お爺さんは、眉毛も白くて、頭はピカピカに光るスキンヘッドだ。
かなりのお年なんだろう。
セリカちゃんのお父さんが、質問する。
「リブジーさんは、北の方でお医者さんをしていたんですか?」
お爺さんの名前は、リブジーさんなんだ。
「ああ、そうは言っても、もう年だ。
何年も前に診療所はたたんで、今は単なる隠居じゃよ」
「でも、北の方では、医療技術も進んでいると聞きます。
うちの家内を診てやっては、もらえませんか?」
「こんな老いぼれでよければ構いませんが、良いのですか?
ワシがウソを言っているかも知れないし、法外な金を請求するかも知れませんぞ」
「この数日間の、あなたの全てに対して謙虚で誠実な態度を見ている者として、あなたは十分信じるに足る人だと判断できます」
「ハッハッハ、かいかぶり過ぎじゃ。
じゃが、よろしいでしょう。
食事が終わったら、診て差し上げましょう」
「もし、家内の病気が治るなら、法外なお金を請求されても、一生かかってでもお支払いさせていただきます」
「ハッハッハ、謙虚で誠実。
あんたにこそ、ふさわしい言葉じゃろうて。
お嬢さんの素直さを見ても、あなたの人となりがよく分かりますよ」
セリカちゃんのお父さんとお爺さん、リブジーさんと言うのか、二人は話がはずんでいる。
そうか、セリカちゃんは素直でいい子なんだ。
俺も、そうだと思っていたけど。俺の目に狂いは無かった。
でも俺は、セリカちゃんのお母さんのことを聞いたって、どうしてやることも出来ない。
実は俺にも医療の心得があって、とか言えたら格好いいけど、そもそもそんな特技を持っていたら、リンプーの誘いに乗ってこの世界に来てないよね。
そ、そうだ。
「あ、あの、セリカちゃんのお父さん」
「何だい?」
「あの、エビやカニのミソはすごく栄養価が高いと聞いたことがあります。
もし、セリカちゃんのお母さんの体が弱っているのなら、ミソを溶いてスープにしてあげたら、どうでしょうか?
差し出がましいことを言って、すみません」
俺は、そんな栄養とかに詳しい訳じゃ無いが、伊勢海老の頭の部分が飾りのように出されているのを見て、言ってみた。
「ミソ? それは、何だい?」
「これです。一口食べてみてください。
ちなみに、脳みそでは無いそうです」
なんか、肝臓だとか複合的な臓器だとかいう説を聞いたことがあるけど。
俺は、エビの頭を割って、ミソの部分を取り出した。
スプーンで少しすくって、お父さんの口に運んだ。
「う、美味い。エビに、こんな旨い部位があったなんて。
今まで知らなかったのは、不覚だ」
リンプーが直ぐに、飛んでくる。
「アタイにも食べさせるニャ」
リンプーの口にも運んでやる。
「フニャー、トモヤー、大好きニャー」
どうやら、美味しかったようだ。
本当にこいつは、美味しい食べ物に弱いな。
リンプーは、さすがねこ獣人だ。
自分の前に置いてあった伊勢海老の頭を、てっぺんからバリバリ食べている。
さすがに、それはどうかと思うけどな。
スージーもリンプーの真似をしようとしているが、無理なようだ。
そんな上品な口では、伊勢海老のヒゲも噛み割れないよ。
と、あれ?
スージーがマスクをずらしているが、普通の口だ。
「スージー、キレイな口元じゃないか?
どうして、マスクをしているんだ?」
「ここに来る少し前に、戦いで左目と口元を剣で切り裂かれた。
古代の魔力で再生するのだが、治るのに10年以上かかる。
醜いので、隠している」
「動作停止が20年以上と言っていたから、もう治っているんじゃないのか?」
治っているなら、隠す必要は無いはずだし。
「トモヤ殿は、私の口元を見たいのか?」
うっ、見たい。でも、そんなこと言っても良いのだろうか?
「トモヤは見たいらしいニャー。
マスクを取ってやるといいニャ」
うおっ? リンプー、また勝手に俺の心を読んで。
「分かりました。
マスターのご命令ですので、マスクを外します」
スージーが、静かにマスクを外す。
き、キレイだ。
尖ったあご、キュッと締まった凛々しい口元。
本当に、ファッション雑誌の表紙を飾っても不思議じゃないほどの美人だ。
そういうモデルさんは、アイパッチで片目を隠したりしないとは思うが。
リンプー、グッジョブだ。
思わず親指を立てて、リンプーを称える。
「フニャー、トモヤは本当に酷いニャ。
スージーは美人で、セリカは可愛いニャ。
アタイはどうなのニャ?」
「い、いや、それは、その……」
女の子に面と向かって可愛いとか言えるなら、魔法使いになって無いって。
ちなみに、リンプーによるとアイパッチの下は、まだ見ない方が良い状態らしい。
とりあえず、悔しそうなスージーにもエビのみそをスプーンですくって食べさせた。
「これは、すごくエネルギーが充填されそうです」
いつも通り平坦な反応のはずなんだが、何だか嬉しそうに感じるのは気のせいか。




