14.開かない宝箱
「ところで、リンプー。
昨日、お前が酔っ払って寝てしまって、大変だったんだぞ。
スージーは、言う事聞いてくれないし。
スージーのマスター権限を、俺に返してくれよ」
「ダメニャ」
一言のもとに否定かよ。
「何でだよ?」
「トモヤはきっと、エッチな命令をするに決まってるニャ」
「決まってねえよ。
エッチな命令なんか、しないし。
スージーだって、自分は機械人形だって言ってたじゃないか」
「するに決まってるニャ。
大体、しっかり女の子二人の間のベッドを取っているし。
さっきスージーの方をエッチな目で見ていたのが、何よりの証拠だニャ」
ベッドの配置は、俺なりにキチンと考えた結果なんだけどな。
「もう良いよ。
着替えて、朝飯を食いに行こう」
俺は、昨日雑貨屋で買った、こちら世界の服に着替えて食堂に行く。
女性二人も、俺がいなくなってから着替えて、食堂に来た。
食堂には、すでに昨日の3人組がいた。
「やあ、昨日はねこみみのお姉さん、すごかったねえ」
「すみません。お騒がせして」
俺は素直に謝った。
「君がトモヤ君だね。
ねこみみのお姉さんが、トモヤトモヤとうるさかったもんな。
そちらのお姉さんも、昨日はフードで隠れてたけど、えらい美人みたいだな。
キレイなお姉さんを二人も連れて、羨ましいよ」
「キレイなお姉さんなら、あんたも連れてるじゃない。
どうして羨ましいのさ?」
話しかけてきた男の人が、連れの女性に耳を引っ張られている。
「イテテテ。
いや、あいさつだよ、あいさつ。
本当に羨ましい訳じゃ無いから」
どこも同じだな、と少し笑いそうになりながら席に着くと、リンプーが真っ赤になってフルフル震えている。
「昨日アタイが、トモヤトモヤとうるさかったとニャ?」
「はい、マスター」
珍しく、スージーが答える。
「ト、トモヤのことを、アタイは何と言っていたのニャ?
まさか、す、す、……」
「す?」
リンプーが何か言い淀んでいるので、俺が聞いてみる。
「トモヤのことを、す、スライムとか言っていたとか」
「俺が、スライムって何だよそれ?」
「それ位雑魚だと思っていることが、バレたかと思ったニャ」
「何だよそれ。普通、『す』で始まる言葉なら、素敵とかスーパーとかあるだろう」
「ストーカーとかもあります」
スージーの奴、俺のことをそんな風に?
「とりあえず、『す』は置いておいて、何と言ってたニャ?」
「はい、イケズとおっしゃっていました」
「イケズ? ハアー。
まあ、それなら良い……
いや、良くないニャ。
トモヤは、本当にイケズだニャ」
また始まったか。
もう、俺は諦めた。
「ハイハイ、イケズですみませんね」
「何ニャ? やけに素直なのニャ」
「もう、昨日散々絡まれたからな」
「ウウーッ、なんか悔しいニャ」
「じゃあ、もう飲み過ぎるなよ」
朝食の後、早速部屋に戻って、リンプーが持って来た小さな宝箱を調べる。
フタは開かないが、鍵穴も見当たらない。
「どうやって開けるんだろうな?」
いきなり、リンプーが箱を奪って床に置く。
「こうすれば良いニャー」
ズドーン
俺が百円ショップで買ってきた金鎚で、ふたの部分を思いっきりぶっ叩いた。
すごい力で叩いたせいで、部屋が振動する。
リンプーって、こんな攻撃力を持っているのか?
窓枠に置いてあった花瓶が、グラグラと揺れて倒れる。
あっ、割れるという瞬間に、スージーが受け止めた。
「ちゃんと私、護衛している」
昨日の晩、寝ているリンプーを放置しているのを、護衛していないと言われて、悔しかったのかな?
だとしたら、多少は感情のようなものも、あるのかな?
宝箱には、傷一つ付いていない。
「金槌で叩いて無傷は、すごいぞ」
俺は思わず、感心してしまった。
100円ショップで買った安物の金槌は、壊れてしまった。
「言ってる場合じゃないニャー。
せっかく手に入れたのに、中身が見れニャいなんて、イライラするのニャ」
「合言葉なんてどうだ?
『開けー、ゴマ』とか」
「うーん。
船の秘密なんだから、きっと海に関係あるモノニャ。
開けー、カツオニャ。
開けー、マグロニャ。
開けー、イワシニャ。
…………」
リンプーは、30分くらい魚の名前を言い続けていた。
「疲れたニャー」
「そりゃ、疲れるだろ」
「お出かけするニャ」
「どうしたんだ? 急に」
「お出かけしないと、お掃除やベッドメイクをしてもらえないのニャ。
街の様子も知りたいし。
明後日からお祭りだって言ってたから、今のうちに町の平常を見るのニャ」
俺が、ベッドごとに用意されたセーフボックスに荷物を収めていると、リンプーが馬鹿にしたように絡んでくる。
「トモヤは、いかにも日本人だニャー。
こういう宿でセーフボックスに貴重品を入れるのは、素人ニャ。
着替えだけ入れて、荷物はちゃんと持ち運ぶニャ」
「ニホンジン? どこかで聞いたことがある響き」
スージーが、何か反応している。
街と言っても、店や宿屋などがあるのは、百メートル四方だ。
後は、少し寂れた港と、パラパラと点在する民家、街を囲う木の柵くらいだ。
見る所も別になく、1時間ほどで街を一回りできてしまった。
この港町の名前は、サウスパースだということが分かった。
太陽が真上に登ったので、お昼ご飯を食べることにした。
驚いたことに、タコ焼きらしきモノを売っている。
食べてみると、甘口ソースがかかっていて、間違いなくタコらしきものが入っている。
「中世ヨーロッパには、粉もん文化が伝わっていたのか」
思わず口にしてしまう。
「トモヤは馬鹿だニャー。
この辺りは、何故か地球の関西の文化の影響を受けてるだけニャ。
中世ヨーロッパに、タコ焼きが有る訳無いニャン」
「そ、それもそうだな」
しかし、異世界なのに関西地方の文化の影響を受けるって、どういうことだろう。
まるで、人が行き来しているみたいだ。




