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12.最初の晩さん

 俺たちは、セリカちゃんの家、『トラねこのいこい亭』に到着した。


 入り口で髭のおじさんが、威勢よく迎え入れてくれる。

「3人様、いらっしゃい!

 あんた達、セリカを助けてくれた旅の人たちかい?」


「ハイですニャ。

 美味しいお刺身を食べさせてくれると聞いて、飛んできたニャ」


 リンプーの奴、調子いいこと言ってるな。


「おう、お刺身の美味しさは、魚の新鮮さと料理人の腕前で決まるからな。

 ワシの包丁さばきには、期待しておいてくれよ」


「セリカのお父さまー、期待しているニャー」

 本当に調子のいいやつだ。




 俺たちは、とにかく席に着いた。

 セリカちゃんが、前菜を運んでくる。


 周りには、2組客がいる。

 ちょっと年を取ったお爺さんが一人。

 もう一組は、冒険者だろうか?

 体格の良い男二人、女一人の3人組だ。


「すみませーん。

 このお客様は私の命の恩人で、特別食になりまーす。

 皆さまも追加料金をお支払いいただけば、同じ料理をご用意出来まーす」

 セリカちゃんが、トラブルを未然に防ぐために、説明する。


「ワシは、構やせんよ」

 スキンヘッドのお爺さんは、穏やかに言葉を返す。


「俺は、特別食を食ってみたいなあ」


「ダメだよ。あんた、お金ないだろ?」

 3人組は、笑いながら冗談を言い合っている。

 仲が良さそうだ。




 前菜は、あの時セリカちゃんが摘んでいた野草を和えたものだ。

 マツタケみたいなキノコも、使われている。

 結構上品な味に仕上がっている。


 客層や雰囲気も良さそうなので、セリカちゃんに聞いてみる。

「3人で宿泊したら、一泊いくら位になるかな?」


「そうですね。一番景色の良い部屋を確保していますので、銀貨3枚でどうでしょうか」


 俺は、この世界の相場が分からないので、リンプーの顔を見る。

 リンプーは、セリカちゃんに直接言う。

「なかなか、シッカリしているニャア」


「すみません。

 もうすぐ大漁祭りっていうお祭りがあるので、あまりサービス出来ないんです。

 こんなこと言ってはいけないんですけど、色々あって経営も苦しくって」


「親子二人で宿屋を切り盛りするのは、大変なはずニャ。

 ちゃんと掃除も行き届いているし、前菜だけを見ても料理もちゃんとしているニャ。

 なのに、あんな人里離れた所にまで食材集めに行くなんて、よっぽど大変なはずニャ。

 アタイ達も、そんな無茶は言わないニャ」


 確かに、掃除して洗濯して、給仕もして、材料を店で買うのではなく、自然採取に出かけていたのでは、休憩する時間など取れないだろう。


 セリカちゃんは、思いついたように顔を上げて、元気に語り始める。

「あ、でも、本当に良い部屋をご用意しましたから。

 大漁祭りの最終日の夜は、海の上で船から花火を打ち上げるんです。

 あの部屋からなら、すごくよく見えるはずですよ。

 出来たら、その日まで泊まってもらえたら嬉しいです」


「フーン、その大漁祭りはいつから始まるのニャ?」


「3日後から3日間です。

 だから、6泊していただければ、最後の夜に花火が見れますよ。

 って、すみません、商売っ気を出したみたいで」


 セリカちゃんは、調子に乗ってしまったと思ったのか真っ赤になって、奥に引っ込んでいった。




とまっていってやんなよ。

 6泊は無理でも、一泊でも二泊でも良いからさ」

 横から、冒険者っぽい3人組の中の女性が、話しかけてくる。


 まあ、一泊銀貨3枚で6泊なら、お金も十分だ。

 などと考えていると、冒険者の中の男も小声で声をかけてきた。

「親子二人じゃないんだ。

 ここの女将おかみさんは、ずっと病にせっていて、薬代もかかるし本当に大変みたいなんだ。

 俺達も祭りは見てみたいけど、明日には出発しないといけない。

 もし急ぎじゃないなら、人助けだと思って泊ってやってくれよ」


 対人スキルがそれほど高くなかった俺は、一生懸命笑顔を作って答える。

「分かりました。

 そんな事情があるなら、良いよな? リンプー」


「だから、アタイはそんな冷たい女じゃないニャー」

 この宿に泊まることで、決まりだ。




 メインのお刺身が、運ばれてくる。

 リンプーの顔が緩みっぱなしだ。


 だが、ご飯は全員薄いお粥だ。

 ちゃんとリクエストに応えてくれた形だが、リンプーは不満そうだ。

「スージーの分だけのつもりだったのに、ちゃんと伝わらなかったニャー」


「まさに、人を呪わば穴二つってやつだな」

 俺は、思わず笑ってしまった。

 俺の方は異世界でもお粥が食べられるだけで、嬉しいのだ。


「そんな教訓じみたことわざ、聞きたくないニャ」




 言葉通り、料理人の腕が良いのだろう。

 お刺身は絶品だ。

 悪魔の所業と言えるほどの美味さだ。

 お酒が欲しくなってくる。


「セリカー。

 別料金を払うから、お酒も持ってくるニャー」


 俺も嬉しくなる。

「おっ、リンプーさん。

 分かってらっしゃる」


「トモヤ、勘違いしちゃダメニャ。

 13才の子供は、酒なんか飲んじゃダメですから」

 そう言って、リンプーは自分だけ酒を飲む。




「プハー、たまらないニャ」


「リンプーさん、リンプーさん」


「どうかしたかニャ?」


「リンプーって、意外とイケズだな。

 スージーにはお刺身をあげないし、俺には酒を飲ませない」


「トモヤの体のためを思ってのことニャ。

 体は、13才の体ニャンだから、酒なんか飲んだら病気になっちゃうニャ。

 スージーも、何十年も動作していなかったンニャから、薄いお粥から始めないと故障のもとなのニャ」


「よく言うよ」

 呆れて答える。


「大体、イケズって言うなら、トモヤの方がイケズだニャー。

 アタイのチューブおやつを、チューブおやつを、エーン。

 思い出したら悔しくなってきたニャー」


 ポカポカポカ


「痛い、痛い、痛い」

 いきなり、肩口を叩かれた。


「思い出したら、許せないニャー!

 トモヤ、酷いニャ、酷いニャ、人間の所業とは思えないニャー。

 ずっと思ってたのニャー。

 トモヤは、昔からアタイの気持ちも分からずに、酷いやつだったのニャ。

 エーン、エーン、本当に酷いやつだニャーン」


 どうやら酔っぱらっているようだ。

 酔っ払いは相手にしないのが一番だ。


 リンプーは食事中に寝てしまったので、お刺身はスージーにも少しあげた。

 さらにお騒がせしたお詫びとして、周りのお客さん達にもおすそ分けした。

 すごく感謝された。

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