表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/65

11.あこぎな商人

 一休みしたら、太陽がちょっと傾いていた。


 俺とリンプーは、木の枝に干していた服が渇いたので、着た。

 寒く無い気候とはいえ、半裸の男女だ。

 セリカちゃんは、変に思っただろうな。


 ボロボロでも、ちゃんとローブを着ているスージーがいなかったら、変な誤解をされたかもな。


「じゃあ、教えてもらった港町に向かおうか?」


「オオーッ」

 リンプーが手を上げて応える。


 リンプーの動作がストップする。

「スージー、お前もこういう時は、一緒に『オオーッ』って答えニャイと」


「了解いたしました。マスター」


 なんか、スージーさん、おもちゃになって無いか?




「じゃあ、トモヤ、もう一回ニャ」


「ええっ? もう一回やるのか?」


 リンプーが、早くしろと言いたげに、にらんでくる。

 逆らわない方が良さそうだ。


「じゃあ、教えてもらった港町に向かおうか?」


「「オオーッ」」

 今度は二人揃って、手を上げて応える。




 確かに少し歩いて行くと、木の柵に囲まれた町が見えてきた。

 入り江のようになっていて、船がまばらに停泊している。


 入り口に門番がいるなんてこともなく、普通に町に入れた。




 街の中を少し歩いて、教えてもらった雑貨屋に入る。

 店主の胡乱うろんげな目線に、ひるみそうになる。

「なんだい、あんたら。

 見たこともない格好だな。

 遠くから来た旅人かい?」


 俺は、ベージュのチノパンに水色のシャツ、紺のジャケットを羽織っている。

 リンプーは、典型的な黒のメイド服姿。

 スージーさんは、濃い茶色のフード付きローブ。

 見事に統一感のない、一団だ。


「旅人か。まあ、そんなようなものだ。

 買って欲しいものがある」

 俺は子供の外見らしいので、少しでも大人っぽく言ってみる。


「そうか、ウチに持ってくるとは目が高いね。

 よその店は、見る目が無いからな。

 良いものを持ち込んでも、二束三文で買いたたかれるのがオチだ」


 店主は値踏みするように見てくるが、俺の背中のリュックサックに興味津々だ。

 海水でちょっと色あせてしまったが、中世の文化だと、これほどのキレイな色のカバンは無いだろう。


「この器を売りたいんだが。

 恐らく、この辺の商人は知らないと思うが、超高級品だ。

 古の魔法使いの職人が作った、魔法の器。

 その名を『風の器』、[醤油ラーメン]だ」

 俺は、そう言って、リュックサックからどんぶり型の器を取り出した。

 [醤油ラーメン]は小声で言ったので、相手にはちゃんと聞こえていないと思う。


 大事そうに、店主に手渡す。

 店主は、独り言のように評価を口にする。

「ほお、中々きれいだな。

 外は赤い装飾。中は真っ白か。

 まぶしいほどに白いな。

 これほどの白さの器は、そうそう見ないな。

 何といっても、この軽さ。

 鳥の羽のような軽さだ」


「フフフフ。

 まさに、天使の羽のように軽く、そして……」

 俺は、カップラーメンの容器を店主から取り返すと、その場でポトリと落とした。


 店主が焦って声を上げる。

「ああっ、なんてことを」


 カラカラーン


 発泡スチロール製の容器は、音を立てて転がる。

 石造りの床だ。

 白磁器の器なら、木端微塵こっぱみじんだろう。


 俺は、それを拾い上げて商人に見せる。

「しかも、陶器やガラスのように割れたりしない」


 店主がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

「し、しかし、木の器でも、割れたりはしないぞ」

 少しでも値を下げようとしているな。


「木の器は割れないかも知れないが、石に当たれば傷は入るだろう。

 見てみろ、傷一つ入っていないぞ」


「ほ、本当だ」


「いくらまで出す?」


「銀貨20枚でどうだ?」


 俺は、リンプーの方をチラっと見る。

 けわしい顔だ。

 俺は、目をつぶって首を横に振った。

「話にならないな」


「じゃあ銀貨40枚では?」


 俺は、やはり首を横に振る。


「銀貨50枚。

 これ以上は無理だ。

 どれだけ高級品でも、これ以上必要なら、よその町へ行くんだな」


 リンプーがニヤついている。

 ここらが落としどころなんだろう。

「分かった。それで、手を打とう」


 俺は、銀貨50枚のうち40枚を受け取って、銀貨10枚分雑貨や食料を買い込んだ。

 色々選んだら、銀貨10枚分を少し超えたようだが、オマケしてくれた。

 また、リュックサックが一杯になった。


 異国の地の買い物でちゃんと駆け引きが出来て、なんだか感動だ。




 店を出て、リンプーに話しかける。

「この世界でのお金も手に入れた。

 これで、とりあえずは生きていけそうだな」


「お(ぬし)ワルよのー。

 150円のカップラーメンの容器を、5万円で売ってしまうんニャから」


「リンプーの指示通りに、売っただけだけどな。

 でも、銀貨50枚で5万円ってことは、銀貨1枚千円位ってことか」


「そうニャ。

 この世界では、貨幣がお金として信頼されてるニャ。

 帝国銀貨と言って、ここから遥か北にある帝国が発行して、価値を保証しているニャ。

 多分、あの店主は金貨1枚以上の値段で売れると見込んだから、銀貨50枚も出したニャ」


「金貨1枚は、どれ位の値打ちなんだ?」


「日本円にすると、10万円位かニャー。

 帝国銀貨100枚で、帝国金貨1枚と交換できるから。

 本当は、お湯を入れても熱くないとか言って、もっと吹っ掛けたかったけど。

 王侯貴族でもないと、ただの食器に金貨何枚も出さないからニャー」


「リンプーは、色々詳しいんだな」


「だから、大賢者だと言っておろーが」

 俺が駆け引き出来たのは、リンプーが横でサポートしてくれたからだ。

 今回は、大賢者に同意しておこう。

この世界で流通しているお金を、無理やり日本円に換算すると以下のようになります。


 帝国銅貨 1枚 10円相当

 帝国銀貨 1枚 千円相当

 帝国金貨 1枚 10万円相当


一億円相当とかになってくると、証文や高級品(高価な魔法具や宝石)で代用します。


なお、日本円の価値は令和3年時点を基準にしています。


ただ、トモヤたちが流れ着いた町では、かなり厳しい肉体労働でも日当は銅貨30枚もらえるかどうかです。


いきなり、普通の労働者の稼ぎ一ヵ月分以上に相当する銀貨10枚分の買い物をする彼らの姿は、かなり豪快に見えたことでしょう。


なお、副題の「アコギな商人」は、トモヤたちのことを指しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ