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夜が更け、アンナが退室した後、私はそっとベッドを抜け出し、バルコニーで考え事にふけっていた。
アンナは悪夢のような未来を回避すると言っていたが、正直に言って八方塞がりだ。
たとえ私が王子と結婚しなくても、王子があのままなら国費は底をつき反乱→戦争→病で一家全滅だ。
(こんなの詰みゲーじゃない)
私は大きなため息をつく。
前世では肘をついて考え事をするのに最適だったバルコニーの柵も、今じゃなんとか頭一つ分出るだけだ。
これじゃあ考え事にならないな、そうおもい自室に戻ろうとする。
その時遠くから馬の走る音がした。その音は次第に近づいてくる。この音の大きさなら、もう屋敷の敷地内に入っているだろう。
屋敷のドアから誰かでてきたのが見えた。私は即座にしゃがみ込み、柵の隙間から屋敷の入り口を見た。出てきたのは父と父専属の執事だった。
すると、庭の方から馬をつれた男性が何やら執事に手紙を渡した。
3人で何か話しているが、話の内容まではさすがに聞こえなかった。
(お父様が直接お会いになるなんて、お得意様なのかしら。でもこんな時間に来るなんて非常識だわ)
ふと、馬を見ると、左後ろ脚だけが足元の毛の色が違っていた。全体は茶色くほかの足は足元までしっかりとした美しい茶色だ。でもまるで靴下をはいているかのように左足の足元の毛の色が白かった。
(どこかで見たわ、あの馬に似た馬を………)
『王家で使われる馬は繁殖からすべて王家の人間がやっているのだけれど、たまに隔世遺伝子で足元が白い馬が生まれるんだ。そういう馬は欠陥品だからね。王直属の騎士団に譲ってやってるんだ』
思い出したのはあの王子の言葉だった。
馬ごときで自慢してくる王子の顔もついでに浮かんできて、思わず右手を握ってしまう。
(まだよ、ラウタ。あれが王子であるうちは殴っちゃだめ)
そう自分に言い聞かせ、自分で右手をなでる。あいつの自慢話の度に手がでそうになるのを、前世では何度我慢したことか。
しかし、あの王子が言っていたことが本当なら、あの人は国王直属の騎士団員ということだ。
(でも、王宮の騎士団がお父様に何の用かしら)
私はお父様たちに気づかれないうちにそっと部屋に戻った。
静かにバルコニーの扉を閉めて、ベッドに入る。久しぶりのベッドはもうすっかり冷え込んでしまったけれど、あっという間に私を夢へといざなった。
*~*~*~*~
窓から差し込む日差しを感じて、私は目を覚ます。
私は柔らかいベッドと、きれいなネグリジェに一瞬理解が追いつかなかった。
(あぁ、そういえば今は10歳のラウタなんだった)
私はベッドからでてバルコニーに向かう。こんなに日の光を浴びれるなんてとても贅沢だ。もうあの小さな窓から外にあこがれなくていい。
とても気持ちのいい天気に思わず鼻歌を歌ってしまう。
バルコニーへの扉をあけ、朝の爽やかな風を全身に感じる。
(こんないい気分久しぶりだわ、思わず歌ってしまいそう。少しぐらいいいわよね。なんだっけ、地球にいたときこんな時にぴったりな歌があったはず。まあなんだっていいか、適当で)
風が私にビートを教えてくれる。葉のこすれる音も、あわただしく動く人の音も、すべてが私にとっては音楽になる。
あとはそれにのせて歌うだけ。
『Beyond the long time, I'm back home
It's looks bad things gone
So I wanna dance, you know
I can fly so high
get over the wood
To everyone, say "Hi"
felling is very good
Under the light, everthing goes well
give me signals, ring the bell
Can I Change the future? I will
Under the light, everthing goes well
It's the signal, ring the bell
I Change the future!! He ill
I will !!』
(なにこのひどい歌!これが地球のトップレベルなんて笑っちゃうわ。作詞も作曲もひどすぎね)
自嘲に似たため息をついて目を開けると、外で作業していたメイドや庭師がこちらを向いて固まっている。
何か悪いことでもしたかしら、と固まっていると、屋敷全体から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
「ラウタ!一体いつ歌なんて覚えたんだい!」
後ろから声がしてふり返ると、父が駆け寄ってきてそのまま抱き上げられた。そのまま父は私を高く上げ、くるくると回る。
なんてことない、たかが10歳の適当作曲だ。そんな部屋に大集合するほどじゃない。
「とても素敵な歌声だったわ。今までに聞いたことがないぐらい」
母まで頬を赤らめて言う。
そこまでほめられると、私としてもいたたまれなくなる。
(曲の中に思いっきり悪口を入れてしまった………)
「これなら今年の聖歌隊にも参加できそうね!」
母の口から聖歌隊と聞こえて思わず聞き返してしまった。
「そうよ、毎年チェンレッジ港から留学で旅立つ方々に歌を送って差し上げているの。グリーン領の10歳から12歳の子供を集めて、教会で練習しているのよ。出航日は来週だから今年は無理かと思っていたけれど、これならラウタも参加できるわ」
「………歌が、歌が歌えるの?歌っていいの?」
「もちろんだ!ラウタはこんなにも歌がうまいんだ。一日中聞いていたいぐらいさ」
*~*~*~*~
歌が歌える、今日一日はそれだけで口角が上がってしまう。
「そんなに姫様は歌が好きだったんですか?」
アンナは朝の軽食を並べ、お茶を入れながら聞いた。
それはきっと前世での話だろう。
「夢の中では歌えなかったのよ、王子に取り入るために必死だったから」
前世では、お城に行く父についていってそこで王子を初めて見た。小説ならここで一目ぼれ、となるわけだ。城からでない王子に取り入るには自らが城に行くしかなかった。私は必死に勉強し、父のサポート役となることで国政に関与し、王子との逢瀬の機会を作っていた。
(好きでもないやつのために、あそこまで頑張れた自分に拍手を送りたいわ)
「そういえば、姫様の夢に出てきた王子ってエリック王子ですか? ジェラード王子ですか?」
聞きなれない名前に眉間にしわが寄る。
「エリック王子? あの王子に兄弟がいるの?」
「え、えぇ、エリック王子は先代の皇后陛下のお子様です。ジェラード王子とは異母兄弟ですよ」
前世では、王子はジェラードだけだった。でも、ジェラードには兄がいると噂では聞いたことがあった。
『ジェラード王子にはお兄様がいらっしゃいました。しかし12才のとき、留学先で賊に襲われ命を落とされたのです』
「ねぇ!エリック王子って今いくつ!」
「姫様より2つ上ですから、12才です」
お読みいただきありがとうございます
============以下言い訳============
英語歌詞は適当です。
文法的ミス、韻踏めてない、歌詞が平凡、はわざとの部分もあります。
ラウタはも元は日本人だし、8年もブランクがあったら
これくらいに作詞力も落ちるでしょう。
(そんな期待をこめて)