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庭の紹介を受けた後、私たちは邸宅内を軽く案内された後、それぞれの部屋へと通された。
使用人のモーリッツやアンナたちにも立派なゲストルームを用意してくれたようだ。
「私たちのような使用人がこんな素晴らしい部屋は使えません!」
ほかの使用人の部屋を使わせてください、というアンナとモーリッツにザシャさんは困ったような顔をした。
「うちには使用人はいないから、使用人部屋はないんだ………。すまないね」
申し訳なさそうにそういうザシャさんに、モーリッツとアンナは黙るしかなかった。客人のように扱われるのに慣れていない彼らをみて、ザシャさんがこっそりと、誰にも気づかれないように笑った。
今までのような穏やかな優しい微笑みではなく、いたずらっ子なような微笑みを盗み見た私は父とザシャさんが友人に慣れた理由が分かった気がした。
(類は友を呼ぶってね)
そう感心していた私の視線に気づいたのか、ザシャさんの目がこっちを向いた。
そしてザシャさんは私に近づくと、小さな声で囁いた。
「本当は使用人部屋もあるけれど、ね」
しぃーっと口元に人差し指を当てたその姿はまさしく、父の友人にふさわしい。この二人に困らさせた人間が数多くいるのだろう。
私は苦笑いを返すと、ザシャさんは子供のように全力の笑顔を浮かべた。
「ザシャ様、せめて夕食の準備だけでもお手伝いさせていただきたく………」
モーリッツがザシャさんに話しかけると、ザシャさんはすっと穏やかな表情に戻りモーリッツと話し始めた。
私は案内された部屋に入って周りを見渡す。グリーン家のゲストハウスと引けを取らないほど豪華なゲストルームだ。普段は使われないであろうその部屋も隅から隅まで埃一つなく、ベッドのシーツにもしわすらない。それどころか、シーツは洗い立てのいい匂いがするし、部屋に飾られている花はまるで今摘んできたかのようにみずみずしい。
(一体どうやってこの屋敷を維持しているのかしら。屋敷にはザシャさんしかいないのに)
普段ザシャさんが生活するエリアのみなら一人でも維持できるだろう。でも今日案内された場所はどこも掃除したてのように美しく、手入れが行き届いていた。
(とても一人で維持できる量ではないと思うのだけれど………)
私はそうおもいながらも、睡魔に襲われうとうとと瞼が重くなるのを感じる。
久しぶりの揺れないベッドは心地よく、私はそのまま眠りについた。
*~*~*~*~
「ザシャ、元気そうで何よりだ」
応接室のソファに腰かける二人は久しぶりの再会を心から喜んでいた。
部屋は暗く、暖炉の明かりだけが二人を照らしていた。
「おかげさまでね。 こっちでも元気にやれているよ」
ザシャは紅茶を飲みながら穏やかに答えた。
「そっちはどうだい?」
「最悪だよ、日に日に国内が荒れているのが手に取るようにわかる。いつ火の粉がグリーン領に降りかかるかわからない」
ライナーはそういって頭を抱えた。
「何としても、グリーン領を、ラウタを守らなければ」
そういって顔を上げたライナーの表情は決意にみちていた。
「そのためにテオをやったんだ、うまくやってくれよ」
「言われなくとも、あの能無しどもにグリーン領は汚させやしないさ」
「それは良かった。今度は僕も負けたくないからね」
紅茶には穏やかな表情とも、子供のような笑顔ともかけ離れた、黒い微笑みを浮かべたザシャが写りこんでいた。
お読みいただきありがとうございます。
だいぶ時間が空いてしまいました。
小説のプロット、キャラ設定等が入っていたUSBが破損。データは闇に消えしばらくやる気をなくしておりました。また少しずつ復活しますのでもう少しお付き合いいただけましたらと思います。