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 私がラウタ・グリーンの2度目の人生を歩み出してから、季節が4回巡った。

 私は14歳になり、聖歌隊は国全土に名を知られるようになった。

 

 ただ、平穏に有名になったわけではない。それは大層な紆余曲折があった。

 初めて仕事として聖歌隊が領主さま(つまり私の父親だ)に、歌の披露を頼まれたときなんてひどかった。

 なれない環境、品定めするような視線に、マリアが堪え切れず本番前に吐いてしまった。

 まぁ、それは予兆を察知していたリサのおかげで大事にならずに済んだ。寸でのところで袋で受け止め、大輪の花を咲かせた大量のユリとマリアにコロンを付けなおしてなんとか処理したのだ。

 最初はリサを経理として雇ったが、今となっては大切且つ優秀なマネージャーとして大活躍だ。

 

 聖歌隊のメンバーもほぼ変わらない。

 マリアの友人だった二人は無事に嫁入りを果たし、聖歌隊から抜けたが、ほかの庶民の子たちはまだまだ働き盛りだと言って、日々練習に励んでいる。もちろん、新しいメンバーも年々増えて、最初は15人だった聖歌隊も今では40人と地球で言うところの1クラス分ぐらいにはなった。

 大所帯とは言えないものの、40人もいれば音楽の幅もうんと広がった。

 

 マリアは宣言通りまだ両親に養育費を返していないから、と言って結婚を拒み続けている。

 彼女も16になったということで、幼さがだいぶ抜け、初めて会ったときはどこかくすんでいた金髪も、今では太陽の日差しを受けてぎらぎらと光る。ルビーのような赤い瞳も、強い意志を秘めていて、どこからどう見ても美しい令嬢に育った。

 銀髪碧眼の私と対象の姿をなすということで、二人で舞台に並ぶと黄色い声が上がるようになった。

 噂によれば「マリア様が先陣斬って歩む姿と、それをラウタが後ろからついていく姿にときめく」らしい。

 実際はその逆なわけだけれど。


「なんですの、人の顔をじろじろと見て」

 

 私の家の庭で一緒にお茶会をしていたマリアは眉間にしわを寄せる。

 成長していくらか感情を隠すようになったらしいが、美人になった今でも私の前では平然と嫌な顔をする。


「いやぁ、世間では美人と名高いマリア様が()()()()()()()()()をしたなんて、みんな知ったらなんて顔をするのでしょうね」

「ラウタ様のその儚げな見た目に反して、そんな意地悪な性格だと知ったら皆さん悲しむでしょうね」


 ふんと、顔をすまして紅茶をすするマリアは明らかに機嫌が悪い。

 あの大失敗は彼女の中では黒歴史だ。

 

 くすくすと私が笑っていると、後ろから声をかけられた。


「お嬢様方、今日も一段と麗しいですね」


 そういってこちらに近づいてくるのはテオだった。

 あれからというもの、4年たっても相変わらず婚約者として私の家に住み着いている。

 以前家はないのか、と聞いたら、どうもテオは庶民の出らしく、このままグリーン家に住み込みで働くことになったらしい。

 ということで、テオは私の婚約者(仮)兼見習い執事だ。テオはとても親しみやすかったのか、気づけば屋敷中がこのままラウタお嬢様とくっついてくれと、願うようになってしまった。

 みんなそう思っているのか、聖歌隊のメンバーも、屋敷の者も、みんなテオが将来のグリーン家領主になることを祈って「テオ様」と呼んでいる始末だ。

 

 テオは新しいお茶をもってこちらまでやってくる。

 机に置いてあったお茶を見ると、確かに冷めて若干の渋みも出ているようだ。


「本当に執事としては優秀ですね。このまま我が家専属の執事として働いていただけません?」

「ラウタ様に心から愛する人が出来たら、婚約者をやめてそれもいいかもしれませんね」

 

 「一生傍にいれますから」と笑っていうテオにはちょっとした嫌味も通じない。

 こんなやり取りを毎日のように見ているからか、マリアは大きなため息をついた。


「ラウタ様、相手の好意に胡坐をかいていると、いつか逃げられますわよ」


 その一言にテオは笑った。


「逃げないですよ、私の居場所はラウタ様がいるところですから」


 テオはそういって私の胸下まで伸びた髪を一房救い上げ口づけをした。

 その行為に、マリアはやれやれといった表情だ。

 私はテオを見上げる。


「たとえ地獄でも?」

「えぇ、もちろん。処刑台でもついていきますよ」


 テオの返事はかなり物騒だった。前世のこともあるので、処刑台はちょっとシャレにならない。

 私が思わず目をそらして苦笑いすると、テオはキョトンと頭の上に?を浮かべた。


「大層な愛情ね」


 マリアは机に肘をついた。

 身内にしか見せないその態度も、4年間の成果だと思えば愛しく感じる。


 テオにすわったら、と隣を進めると、彼はおとなしく椅子に座った。

 交わる目線が同じぐらいになると、テオはにこりと笑った。


「まったく、ラウタ様はテオ様なの何が嫌なんですの?」


 もったいない、といわんばかりの表情だ。


「だって私は聖歌隊がありますから………」


 とふざけて言うと、マリアは「またそんな昔の話を持ち出して………」といって呆れる。


「でも、マリア様もひどいですよ。僕を応援すると言っておいて、ちゃっかりラウタ様の隣を確保しているんですから」


 そういったテオは実に残念そうだ。

 まぁ、テオも金髪に淡い赤紫目と、私の対としてもてはやされそうだが、実際その役はマリアに奪われた。


「あなたの金髪は私に比べて淡すぎますし、瞳も赤というより紫に近いじゃありませんの」


 ばっさりと切り捨てるマリアにテオは悲しそうに肩を落とした。

 

「そういうマリア様はどうなんですの?」

「私?私はまだ「まだマリアはお父様と一緒にいたいの」が通用するうちは結婚いたしませんわよ」


 以前、父親から結婚を急かされていたマリアに教えた必殺の呪文だ。父親にしか通じないが、マリアの役に立っているようでうれしい。

 私が以前テオの件で使った時は『僕は早くラウタの花嫁姿が見たいよ』と、24歳だった地球でも言われたことない悲しいことを言われた。


「それに結婚したら今のように聖歌隊やお父様の事業に口出しできなるでしょう」


 世の中の令嬢は()()()()()()()()おびえているというのに、マリアはあっけらかんとしている。


「第一女性に生まれたからと言って16で自由を奪われ搾取されるなんて、私はごめんですわ」


 あまりの酷い言い方に眉間にしわが寄る。


「搾取だなんて、世の中の既婚女性に失礼だわ」

「いいえ、ラウタ様は愛情にあふれたご両親しか見ていないからそう思うのです。そうでしょうテオ様」


 そう話を振られたテオが苦笑いするということは事実なのだろう。


「一緒にいれば情が、なんて生易しい世界じゃないのです。私の友人の二人を覚えていらっしゃるでしょう。ミリアンは運よく良い家に嫁ぐことができましたど、ナタリーの嫁ぎ先は最悪です。彼女は決して泣き言を言いませんけれど、ナタリーの父親は家が出世することを望んで、もう4回も離婚をしている男爵の家に娘を送り込んだのです。16の少女が25の男性に嫁いで幸せなことがありますか」


 そういうマリアの顔は苦虫を噛み潰したようだ。

 

「でもナタリー様の旦那様は結婚式に私たち聖歌隊を呼んでくださいましたわ」

「あれも出演者でなく、開催者となることで、もう聖歌隊には戻れないとナタリーに分からせるためですわ」


 そうマリアに言い切られてしまうと、結婚式でナタリーにおめでとうと言った時の彼女の顔が無理にでも思い起こされる。

 あれは、本当に喜んでいた表情だっただろうか。


「さらにはまだ身ごもりを許されていないナタリーに毎晩迫るそうですよ。バルテン男爵は今までの奥方と子をなせなかったようで、全員を家から追い出しています。そのバルテン男爵にナタリーの父は何と言ったと思います? 「まだ若い我が娘なら」といったそうよ」


 マリアの口調には怒りを感じる。

 小さく「どう考えても無能はそっちじゃない」といったのをテオが咳払いした。


 無駄に大人びているからとマリアに忘れられがちだが、私はまだ14ということでテオは気を使ったのだろう。

 中身としてはマリアやテオよりもうんと年上なわけだけど。


(バルテン男爵ね)


「まったく、早くお父様が私に商談の権利を渡してくださらないかしら。そうしたら真っ先にナタリーの父親を陥れますのに」


 マリアがいうと、本当にやりそうである。

 その顔はにこりともしていないので本気だろう。


「マリア様! ラウタ様!」


 屋敷の門の方から誰かが走りながら私たちの名前を呼んでる。


 黒に近い茶色い長い髪をみて、リサだと分かる。


「どうしましたの、仮にもグリーン家領主さまの屋敷ですわよ、走るなんてなんてはしたない」


 マリアはそういってリサをたしなめた。

 仮にもではない、れっきとしたグリーン家の屋敷だ。


(最近領主の娘としての威厳がなくなっている気がするわ)


 ちらりとテオをみると、すっと立ち上がり新しいティーカップを取りに屋敷に戻った。


「そんなことより! これをみてください!」


 リサはそういって一枚の手紙を見せた。

 それは王家の印章が入っており、たった一言だけ書かれていた。


『3か月後のジェラード王子の14歳の誕生会で歌を披露すること』

お読みいただきありがとうございます。


本当は聖歌隊の成長とかいろいろ話は尽きませんが、

それはまた別の機会に。

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