表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツクモ式  作者: MRS
3/27

第二話

 ───体育館へ移動した生徒達。




 クラスの全員で体育館に移動すると中には何だか過ごそな祭壇が

 置かれていた。

 オレ達を祭壇の前に並ばせ、凩先生は宮司のおじさんと少し話し

 をした後。


「はーい皆さん注目してください。現在は殆ど簡略化されています

 が、これが簡略化されていない正式な方法での『ツクモ式』。そ

 の儀式ですよー。」

「「「おおおー。」」」


 周りのクラスメイト達と一緒にオレも歓声を上げた。

 ツクモ式ってあんななのか! あんななのか!

 何か……。“ごっちゃ”ってしてんな。オレが知ってるのはもっ

 と科学っぽいヤツだけど。これは本当に儀式っぽい。

 つまり。特別感が違うな! うん! 心が躍る思いで祭壇を見詰め

 ていると凩先生がオレ達を見渡し。


「皆さんは中学一年生に成りました。それは、小学校を卒業したと

 言う意味の他に。中学生に成った皆さんが自分のツクモを持つ。

 と言う事でもありますね。」


 知ってる。十二歳なったら皆自分のツクモを持てるって、オレ知

 ってる。何か昔は特別な所で儀式をやってツクモを貰ったらしいけ

 ど、今は中学校でやるのが一般的。って母さんが前に言ってたな。


「物を故意にツクモ化し、それを自らに従う式と転ずる儀式。この

 儀式の事を通称『ツクモ式』と呼ばれている事は皆さんも知ってい

 ますね?

 そしてこの国では中学生。つまり十二歳に成った者はツクモの個

 人所持を許されます。はい、皆さんの期待通り。これから皆さん

 には予め持って来てもらった想い入れのある物を、この儀式を利

 用して順番にツクモ化します。

 そしてそれが、皆さんが初めて手にする自分のツクモ。と言う事

 です。」


 “うひょー!”っと思わず叫び出しそうな自分の口を両手で塞ぐ。

 周りでは凩先生の話を聞いたクラスメイト達がざわつき出してい

 た。そりゃ興奮もするよ。だって自分のツクモ何て言われたら

 ね、誰だってそうだ。

 その証拠にちょっと周りを見渡せば、ある女子は手にしたクマの

 ヌイグルミを、興奮した様子で何度も何度も撫でまくり。あのデ

 カイ奴はと言えば、自慢げに怪獣フィギュア抱え直しては位置調

 整をずっとしている。

 一緒に此処まで来た大人しそうな白波でさえ、オレの隣で自分の

 眼鏡を落ち着き無く触ってるんだからな。まあ皆の気持ちは分か

 る、分かり過ぎるぐらいに。オレを含めた皆が“早く早く”と言

 葉も無しに先生へ訴えてしまう程だもん。凩先生はそんなオレ達

 を見ては宮司のおっさんに何事かを確認し。宮司おっさんが一つ

 頷く。


「では名前を呼ばれた子から前に来てくださいね。最初はえーっ

 と……。白波、白波 絆さん」

「はは、はい!」


 おお!最初は白波か! オレは名前を呼ばれた隣の白波へ顔を向け

 る。白波は酷く緊張した様子で、見てる此方に緊張が移りそうな

 位だ。

 なのでオレは怖ず怖ずと前に出て行く白波の背中を軽く叩いて。


「?」

「!」


 少しだけ振り返った白波にオレは“頑張れ”って気持ちを込めて

 親指を立てる。すると。白波は少し戸惑った後に小さく頷き返し

 てから、また前を向いて歩いて行った。

 どうやら上手く伝わってくれた様子だ。前に出る白波を視線で追

 って行くと、そのまま凩先生達の元へ歩いて行き。

 先生から宮司のおっさんへと促されていた。宮司のおっさんに自

 分がそれまでかけていた黒縁眼鏡を手渡す白波。

 白波から眼鏡を受け取った宮司のおっさんはそれを祭壇の上に乗

 せ、何か難しそうな言葉を呟き始めた。何て言ってんだ? そう思

 っていると。

 おっさんが呟き始めて直ぐ、祭壇に置かれていた白波の眼鏡が光

 りだした! 何か凄い、何だあれ! 興奮しながら見ていると光は徐

 々に弱まって行き。


『───』

「おや? これは珍しい。」


 眩しい光が完全に消え去った後には。元の眼鏡とは少しだけ形の

 違った眼鏡。

 全体的に黒から白へと変色していた眼鏡が其処にはあった。宮司

 のおっさんが珍しいって言ってたけど、オレには何処が珍しいの

 かは分からない。ツクモ化したには余り変化の無いその様子に。

 周りのクラスメイト達から小さく笑い声が漏れ聞こえて来る。

 笑い声は白波の耳にもにも届いたのか、白波は祭壇に置かれた眼

 鏡を手に取りそっと元の列。

 つまりはオレの隣へ戻って来た訳なんだけど……。


「……。」


 行った時の希望溢れた顔から百八十度変わり、酷く落ち込んだ様

 子で帰って来た。緊張しながらも何処か嬉しげだった行きとはま

 たえらい違いだな。どう声を掛けて良いか全く分からない。

 そもそも声が届くかも怪しい。でも落ち込む白波に何かしてや

 りたかったオレは、強く白波の背中を“バンバン!”っと叩き。


「ッ!?」


 驚いた様子で此方を見てくる白波に“元気を出せ!”そう目で伝

 えてみるも、今度は伝わらなかった様で。白波は“何故?” って

 顔で此方を見詰めるばかり。


「……元気出せ。」

「え?あ、うん。」


 小声で話し掛けると白波はオドオドとしながらも、返事をちゃん

 と返して来た。オレには目で人に思いを伝える事は出来そうにない

 な。取り敢えずナニカは出来たし。

 オレは満足して視線を前へと戻す。先生は白波が列に戻ったのを

 確認しては次の生徒の名前を呼んでいた。


「次は『大山(オオヤマ) 大文字(ダイモンジ)』さん。」

「おお!」


 名前を呼ばれて前に出て来たのは他の生徒よりも大分大柄で、そ

 いつはさっき教室で睨み合っていた、あのデカイのだ。

 デカイのは宮司のおっさんへ自慢げに抱えていた怪獣フィギュア

 を手渡している。フィギュアを受け取った宮司のおっさんはそれ

 を祭壇へと置き、さっきと同じ様に何かを呟く。

 すると祭壇上のフィギュアが光に包まれ、そして暫くすると光が

 弱まり。


『GYYAAA!!!』

「おお。これまた凄い。」


 光の中から大きな咆哮と共に、怪獣が姿を現した。

 怪獣は全身が青く、腹の辺りが白い。色や見た目はそれ程変化し

 てないけど、光に包まれる前は脇に抱えられる程度の大きさだっ

 たのに今じゃデカイ奴の腰ほどの大きさはありそうだ。そして悔

 しい事にかなり格好良い。怪獣は男のロマン。

 そう思ったのはオレだけじゃなかった様子で。


「「「スゲー!」」」


 先程とは違いクラスメイト、主に男子達から大きな歓声が上がっ

 ている。デカイ奴は祭壇で佇んでいるツクモに大きな声で。


「ついて来い! ザラス!」

『GY!』


 そう言うと。祭壇上に居た怪獣型ツクモはデカイ奴の後ろをつい

 て歩く。

 怪獣型ツクモを従え最初よりも数段自慢げに胸を張りながら、デ

 カイのは元の列へと歩いて行く。すれ違うクラスメイトの誰もが

 振り返っては怪獣型ツクモをマジマジと見ている。

 デカイ奴が元の列に戻ると。凩先生は次の生徒の名前を呼ぶ。


「次は『奈那乃(ナナノ) 菜々美(ナナミ)』さん。」

「はーい!」


 名前を呼ばれた生徒が弾む様な声色で返事をしては、列の前へ出

 て来る。

 出て来たのはクマのぬいぐるみを抱えた女子で。ツインテールの

 髪に星型の髪ゴムを二つ着けた女子は、抱えていたクマのぬいぐ

 るみを宮司のおっさんに手渡す。その合間にも女子はクマの毛並

 みを揃えるかの様に撫でたりしていた。ぬいぐるみを受け取った

 宮司のおっさんは祭壇の上に乗せて何かを呟く。

 そしてまた光がぬいぐるみを包み込み。


『ヤツザキグマー。』

「ほうほう。これはまた……。」


 光が弱まり出て来たのは───変なクマだった。

 クマは暗い瞳で、何処を見ているのか分からない。

 多分あれは何もない宙を見詰めているんだ、と思う。クマは光に

 包まれる前より少し大きく成り、何故か右手をブラブラと揺ら

 す。

 そして何も持っていなかったはずの左手には魚を握っていた。

 この魚が妙にリアルで、テレビで見たままならあれは鮭だな。

 凄く男前な鮭を左手に持ったクマ型ツクモ。よく見ると鮭に爪が

 食い込んでいるのが遠目からも分かる。何だか痛そうだ……。


「……。」

『ヤツザキー。』


 女子は無言で、酷くゆっくりとした動作と共に。

 壇上のぬいぐるみを両手で抱き上げ。無言のまま元の列へと歩き

 戻って行く。何だか重い空気が辺りを包み込んでいる様でちょっ

 と息苦しい。何だこれ。


「ん゛ん゛! えっと次の子は───」


 変な空気の所為なのか。凩先生が声を大きくして次の生徒の名前

 を呼ぶ。

 そんなこんなで次々に生徒が呼ばれては自分のツクモを生み出し

 て行く。

 祭壇に置かれた物が姿形を多少変えて動き出す。

 格好良かったり可愛かったり。本当に色々なツクモが生み出され

 て、オレはツクモが生まれる度に歓声を上げては同時に、自分の

 番が待ち遠しくて仕方なかった。そして! 遂に!


「御柱 明進人さん。」

「はいはーい!」


 名前を呼ばれ初めた瞬間には、オレはもう前に駆け出ていた。

 だって待ち切れないしなぁ! 驚く宮司のおっさんにオレは大事

 な犬の玩具を手渡す。おっさんは今までと同じ様に祭壇へ『彼

 奴』を置いては呟く。オレは『彼奴』が光に包まれて行くのを

 “ジッ”と見詰める。

 ああずっと。ずっとずっとこの日を夢見て来た。

 写真でしか顔を知らない父さんが、オレにくれた『彼奴』。

 腕に抱いて寝た日には夢の中で、背中に乗せてくれた『彼奴』

 が。

 ツクモに成って動き出してくれるこの日を。

 オレはずっとずっーと待ってたんだ。見詰める先では光が消え

 て行く。夢見た現実が、現実で夢見た『ソレ』が。光の中から

 姿を現した。


『───』

「ううーん?」


 視界の端で宮司ではおっさんが唸りながら頭を傾げる。

 が、そんな事は今どうでもいい。光の中からは触り心地の良

 さそうな銀色の毛並みに、桜色の瞳を瞬かせる犬型ツクモ。

 大きさは子犬程度で、オレはそのツクモの姿から目が離せな

 い。何てこった…。何てこった…。これがオレの、ツクモ。


「「キャー!」」


 放心していたオレは、後ろから女子の悲鳴のような喜び声を

 聞いて“ハッ”とする。

 そして。桜色の瞳でオレを見詰めるツクモへ両手を広げ。


「オウカ!」

『───!』


 この日に呼ぶと決めていた名前を、オレは力一杯に叫んだ。

 名前を叫ぶとオウカは勢いよく祭壇からオレに向かい、飛ぶ。

 それを抱きしめる様にオレは受けめた。自分の手で触れたオ

 ウカの毛並みは思った以上! 抱いた暖かさも思った以上!

 最高の最高が今、オレの腕の中に! 腕の中で“もぞっ”と動

 いている! 何とも言えない思いが全身を駆け巡っては、オウ

 カを優しく抱きしめる事しか出来ない。くぅー!


「明進人君明進人君。」

「へ?」


 腕に抱いた暖かさを確かめていると、凩先生が列に戻る様に

 と声を掛けて来た。

 いけねいけね。余りの最高っぷりに意識がどっかに行ってた

 らしい。


 オレは凩先生に謝りながら、オウカを腕に抱いて自分の列へ

 小走りで戻る。勿論オウカの毛並みを楽しみながらな! うん。

 ずっと撫でていたい心地良さだ。

 自分の列へ戻る道中。女子の多くが振り向く。ははーん。

 オウカ、どうやらお前の最高な魅力が女子にも届いているら

 しいぞ? そう思いながら腕の中で丸まっているオウカを見下ろ

 す。すると。


『───(腕の中から頭を外へと出す。)』

「「「!!!」」」


 こ、此奴。自分の魅力を分かってやがる!? 何てスゲー奴なん

 だ!

 オウカは此方を見上げ自慢げ、そう。オウカの顔が自慢げに見

 えた。

 ああ。お前は間違いなく最高だ。さてさて、これなら男子諸君

 もかな? 男子の列の方をチラリと見ると。殆の男子が薄っすら

 笑───いや。

 あのデカイ奴は思いっっきり馬鹿にした様に笑ってた。やれや

 れ。

 どうやらオウカの魅力を分かっているのは今の所女子だけの様

 だ。まー真の魅力はオレ以外の誰にも分かってないみたいだが

 な。わはは。

 何て事を考えながら元の列へと到着。

 列に戻ると、隣の白波が腕の中のオウカを頻りに見詰めてく

 る。ので。


「……後で抱かせてやろうか?」

「え? 良いの?」

「ああ。勿論抱きたかったらだけどな。」

「うん!」


 どうやら白波もオウカの魅力を分かっているらしい。

 ちょっとオドオドし過ぎだけど、此奴はやっぱり良い奴だ。

 うんうん。

 オレが列に戻った後もツクモ式の儀式は続いて。クラスの全員

 がツクモを生み出すと。


「これで一組は全員……。ですね。」

「じゃあ私は引き続き二組の方を。」

「分かりました。じゃあ一組の皆、教室に戻りますよー。」


 凩先生は宮司のおっさんと会話をした後。オレ達をクラスへ連

 れて戻る。クラスへ戻る間も皆自分のツクモに話し掛けたり、撫

 でたりと。

 皆が皆、それぞれ自分のツクモを持てた事に喜んでいる様子だ

 った。

 そうだ。自分のツクモをオレも持ったんだ。腕の中でまるまる

 オウカのぬくもりを感じながら。ツクモ式の儀式が終わった一

 組は自分のクラスへ戻る。




 ツクモを連れた生徒達が教室へ戻って行く───

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ