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ツクモ式  作者: MRS
2/27

第一話

 ───朝の日差しが薄っすらと部屋へ差し込む。




 弱々しくも明るくなり始めた部屋の中。ベッドの上では部屋の主

 たる少年が“すやすや”と寝息も穏やかに眠って居た。やがて部

 屋に差し込んで来た陽の光が、その強さを増して行くと。


『ピッ───』

「!!!」


 サイドテーブルに置かれたデジタル時計が、予め決められた時刻

 を知らせるため。アラーム音を発し出そうかと言う瞬間。

 寝ていた少年は時計上部のボタンを透かさず押し、見事時計を沈

 黙させた。片手をサイドテーブルに伸ばしたままの奇妙な態勢で

 固まる少年。

 少年の顔が段々と下がり、枕へ再び埋めかけた所で“バッ”と顔

 を上げ───


「起き───たッ!」


 危ない危ない。また寝ちゃう所だったよ。いや一瞬ちゃんと寝て

 たな。

 起きたと言っても瞼は重いし、眠気は全身に纏わり付く様だ。

 一刻も早く眠気を振り払おう。その為にもさっさと顔を洗いに行く

 か。

 ベッドから出たくない気持ちを掛け布団と一緒に蹴っ飛ばし、一

 階の洗面所へ駆け下りる。洗面所で速攻顔を洗って歯を磨き。

 自分の部屋に戻って来てはパジャマを脱ぎ捨てて、洋服タンスか

 らTシャツと長ズボンを取り出しては着替えた。

 着替え終えてカレンダーを確認するれば、今日の日付には

『ツクモ』と自分が書いた文字。


「へ、へへへ……。」


 文字を見ると思わず感情が込み上げ、笑い声が漏れ出てしま

 う。そう、今日は中学校への初登校日で。待ちに待った。


「ツクモが貰える日! くぅー!くぅー!」


 溢れ出る気持ちが抑えきれなくて、オレは両手を“バタバタ”

 と動かしては燥ぐ。どうにも抑えきれない思いのままに独り部屋

 で燥いでいると下から。


明進人(アスト)ー。起きたのー?」

「おー!」

「ならもう朝食用意出来てるから、早く下りて来なさい。」

「はーい!」


 母さんの声が聞こえて来た。そうだ、とっとと朝ご飯を食べて、

 学校に行かなくちゃ。オレは机に置いてあった鞄の隣。

 桜色の目をした犬───の玩具を手に取り。部屋をそのまま出

 て。

 階段を下りかけた所で気が付く。慌てて部屋に戻っては机の上

 に忘れられた鞄を手に。今度こそ一階リビングへ向かう。

 リビングに着いたオレはまず。


「おはよう母さん。」

「はいおはよう。」


 リビングでスーツにエプロン姿の母さんと朝の挨拶を交わし。

 鞄と犬の玩具を壁に立て掛けて置き。急いでリビングのテーブル

 へ向かっては、椅子に座る。テーブルの上には熱々で美味そうな

 のベーコンエッグと野菜スープ。それとサラダ。

 良い匂いがまた空腹に響き、それが堪らない。オレが腹を擦りな

 がら椅子に座って待っていると。台所から母さんが、焼き立ての

 食パンを持ってリビングへ出た来た。母さんは食パンをテーブル

 の中央に起きながら席に着く。

 席に着いた母さんとオレ。向かい合うように座り、手を合わせて

 は。


「「いただきます。」」


 朝食の始まりだ。早速焼き立ての食パンに手を伸ばして一口噛じ

 る。

 美味い。次にスープを一口、当然此方も美味い。後で食パン浸し

 て食おう。うん。

 サラダはあんまり好きじゃないけど、食べないと母さんが怖い。

 だから嫌いなサラダを口に沢山頬張り。一緒にベーコンエッグも

 少し口に放る。うん。嫌いな物も何かと一緒に食えば食えるな。

 嫌いな物を食べる時はこの方法に限る。母さんが作ってくれた美

 味しい朝ご飯を夢中で食べていると、母さんが不意に。


「そう言えば今日よね?」

「う゛ん゛。」


 多分ツクモの事を聞いてるんだと思う。口いっぱいにサラダを突

 っ込んだので上手く喋れないオレは、短くそうと応えた。

 母さんは何故か少し呆れた様に笑ってから。


「で、持ってく物は決まってるの?」

「ん゛!」


 勿論決っている。オレはずっと前から決めていた物を。

 綺麗な桜色の目をした犬の玩具を力強く指差す。

 今日持って行く物は彼奴以外考えられないってね。母さんはオ

 レがリビングに置いた荷物を見ては、少しだけ微笑んだ。

 笑顔、間違いなく笑顔の筈なのに。見ていると何だかオレは胸

 が締め付けられる様な笑顔で。多分それは。


「父さんからのプレゼントだから、

 持ってくなら『彼奴』しかいないよ。」

「……そうね。」


 家には父さんが居ない。父さんはオレが生まれて直ぐに事故で

 死んでしまったらしい。母さんは、父さんの話をすると時には

 悲しそうには絶対に話さない。代わりに……。

 あんな笑顔をするんだ。だからオレは、オレから父さんの話を

 聞いた事は無い。どんな事故だったとか、父さんが何の仕事を

 してたとか。オレは一切知らない。でも良いんだ。

 母さんが偶に話してくれた父さんの話だけで、オレは満足だ。

 勿論オレだって寂しいし、もっと父さんの事を聞きたい。で

 も母さんはオレ何かよりもずっとずっと寂しいに決まってる。

 だからオレは聞かない。まーでもでも。実は母さんほどオレっ

 て寂しくないけどね。なんたって、オレには六歳の時に母さん

 が『お父さんが貴方に買って置いたプレゼントがある。』

 って『彼奴』をくれたからな。お陰で全ッ然寂しくない!

 それに今日からは、今日からはッ!


「ぐふふ……。」

「どしたの? 変な笑い声なんか出しちゃって。」

「んーん! 何でも!」

「?」


 ああ。今日は本当に学校が楽しみで楽しみで仕方ない。

 今日は中学校への初登校日ってだけじゃない。自分のツクモを持

 てる日でもあるんだから。オレはワクワクが抑えきれない中、母

 さんが作ってくれた美味しい朝ごはんを平らげた。食べ終わった

 自分の食器を台所の流しへ運び。

 待ち切れないオレは、犬の玩具を手に取ってり急いで玄関へ向か

 う。興奮しながら靴を履いていると背後から。


「ちょちょっと。明進人! 鞄鞄。学生のアンタには此方も大事で

 しょーが!」

「忘れてた……。本日二回目。」

「もう。楽しみなのは分かるけど、ちょっとは落ち着いたら?」

「んー今日は無理!」

「うん。素直な子ね! 全く……。」


 母さんは『仕様が無い。』って呟きながら笑っては、オレを優

 しく見ていた。だって落ち着ける訳ない。

 オレが今日をどれだけ楽しみにしてたかは、母さんも知ってる

 はずなのになぁ。

 靴を履き終わり、リビングに忘れて来た鞄を母さんから受け取

 ろうとして。母さんが。


「あれ? アンタ制服は?」

「朝礼とか、何か学校で特別な事がある日以外は要らないっ

 て。」

「あー……。そう言えばそんな事を入学式で聞いたわね。

 ふーん。もうアレも特別な行事に入らないの。

 授業の一環って認識になってるのかしら?」


 母さんは何処か懐かしむ様に遠くを見詰めている。

 自分の時の事を思い出してるのかな? こう言う時は話し掛け

 ない方が良いけど、オレも早く学校に行きたい。なので。


「母さん鞄。」

「あ、ああごめんごめん。はい。気を付けてね。」

「うん。」


 母さんから鞄を受け取って肩に掛け、玄関に掛かっていた濃い

 青色のパーカーを羽織り。オレは玄関から外へ出る。

 玄関からちょっと歩いて家の門扉の辺りでオレは立ち止まり、

 待つ。少し後から家を出て来た母さんが俺の隣に立って、家の

 屋根の方を見据え。


火扇(カセン)。」

『!』


 そう名前を呼ぶと母さんのツクモ。赤橙色の鳥型ツクモ、火

 扇が家の屋根辺りから姿を現す。火扇は屋根から飛び立ち。

 母さんの側の塀に“ふわり”と降りて母さんを見詰めている。

 見詰めてくる火扇に母さんは。


「明進人の送り迎えをよろしくね。」

『───』


 何時もの様にオレの送り迎えを頼まれた火扇は母さんに小さく頷

 いて見せる。

 自分のツクモを持っていないオレみたいな子供には、大体は親の

 ツクモが学校まで一緒に付いて来てくれる。勿論ただの送り迎え

 の為じゃない。通学中にハグレや怪しい人何かから、オレ達を守

 る為だ。最高に頼もしい! 序に怖い犬に吠えられた時にも助け

 てくれたらもっと最高なんだけどなぁ。それは兎も角。


「今日もよろしくな! 火扇。」

『───!』


 火扇が大きく翼を広げて見せる。多分『任せろ!』って意味だと

 思う。オレは火扇から母さんに向き直り。


「んじゃ行ってきます!」

「はい、行ってらっしゃい!」


 門扉を出て、学校へ向けて走り出す。背後からは翼の羽ばたく様

 な音。

 視線を少し上に持って行くと遙か上空に大きな鳥の姿を確認。

 それは一つではなく、同じ様な姿が数個見え。そのどれもがツクモだ

 ろう。オレは一度立ち止まって家の方を振り返って、まだ見送ってく

 れている母さんへ大きく手を振る。母さんが手を振り返してくれるの

 を見届け。また前を向いて走り出した。

 さあ。いよいよ学校だ!


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 オレは学校の校門前で立ち止まり、学校を眺める。

 此処が今日からオレが通う学校。名前は『私立伊勢物学園』。

 兎に角デカくて広い学校で、それは中高一貫だからとか式者教育に熱

 心だからとか。何かそんな話を入学式の時に聞いた気がする。ちゃん

 と聞いてなかったのでうろ覚えだけど……。

 学校から視線を周りに移せば。周りにはオレと同じ様に通学中の生徒

 が沢山。でも、居るのは生徒だけじゃない。皆何かしらのツクモを連

 れ歩き、そして一部の生徒は校門前でツクモと別れていた。

 別れていたのは多分皆オレと同じで、今日が初登校日の一年生だな。

 とと、オレも早く校舎に入ろう。


「ありがとう火扇。今日はもう母さんの所に戻って良いよ。なんたっ

 て帰りは自分のツクモが居るからな!」

『……。』


 オレがそう言うと。側に降りて居た火扇の顔が、少しだけ寂しそう

 に見えた。今日まで毎日学校へ一緒に付いて来てくれた火扇。今日が

 最後なら、今日で最後なら。


「やっぱり今日も一緒に帰ろうか。」

『!』


 そう言うと火扇は大きく翼を広げ。校門の塀の上へと飛んではオレ

 を見送ってくれる。帰るまでが今日だもんな。オレは火扇に見送ら

 れながら校舎の中へ。

 下駄箱で靴を上履きに履き替えながら、鞄から一枚のプリントを取

 り出し。

 自分のクラスと教室の場所を確認。ふむふむ、オレのクラスは

『一の一』らしい。一が並んで良い感じだ。上履きを履きプリントを

 鞄に仕舞い込む。ふと側に居た生徒の何人かが。


「─!──!」

「───!」


 オレと同じ様に何かしらの物を抱え、皆嬉しそうにしているのが見

 えた。あれが皆ツクモに成るのか!

 楽しみ、楽しみ過ぎるぞ! 自分の中のワクワクがより一段と強く

 なるのを感じ、顔がニヤけるのを抑えられない。ワクワクがこれ以

 上溢れ出ないうちに、教室へ向かおう───


 ───教室には既に他の生徒達が沢山。

 特に席の指定は無かったので、オレは開いている席を探す。

 好きに座って良いなら教室のドア近く───は既に埋まってる。

 残念。

 となると次は外の見える窓際が───おお? 後ろの方で一席空い

 ている! オレは早速その席の側へ行き。

 椅子に手を掛けた。けど、手を掛けたのはオレだけじゃなかっ

 た。


「「あ。」」


 オレとは違う方から来た、黒縁眼鏡をかけた誰かとかち合う。

 緑色の上着に七分丈のズボン。眼鏡をかけた誰かは、オレをチラ

 チラ窺ってはオドオドしながら。


「ご、ごめん。どうぞ……。」


 そう言って椅子から手を離す。おいおいおい、これじゃあオレ

 が有無を言わせなかったみたいで格好悪いじゃないか。しかもこ

 のまま座ったら嫌な奴にも成っちまう。

 だからオレはそう成らない為に。


「ジャンケンだ。」

「え?」

「行くぞ! 最初はグー!」

「ええ?!」

「ジャンケン───ポン!」


 オレはチョキで眼鏡はグー。ジャンケンはオレの負け。

 椅子に手を掛けたのは同時。でも勝負で負けた。うん。

 オレは椅子を引いては眼鏡の方へ向け。


「勝ったお前の物だ。」

「……良いの?」

「勝ったんだから良いに決まってる。」

「じゃ、じゃあ。……ありがとう。」


 そう言って眼鏡は窓際の席に座った。惜しかったなぁー。

 でも仕方ない。公平に戦って負けたんじゃな!

 オレはそう考えながら眼鏡の隣の席へドカリと座り。鞄を机の横

 に引っ掛けて。机の上に桜色の目をした犬の玩具だけを乗せ。眺

 める。

 こうしてじっくり眺めてみると、それなりに汚れている事が分か

 ってしまう。大切にしてきた積りなんだけどなー……。ううー

 ん。

 やっぱり母さんに言われた通り、洗濯した方が良かったかな?

 でもこの日が近付くに連れて片時も手放したくなかったし。洗濯

 したら想い出も流れちまう気も。んむむむ! 今更ながら悩む。


「可愛いね。それが君の想い出の品かな?

 でも男の子がめず───」


 あれこれ悩んでいると、隣の眼鏡がオレに話し掛けて来た。

 ふむふむ『此奴』が可愛いと。成る程成る程。

 オレはの頭が『可愛い』の単語を理解した瞬間、勢いよく隣の眼

 鏡へ振り向き。


「だろぉ!? だがな、『此奴』は格好良くもあるんだよ。

 まーそれに気が付くには時間が必要だけどな。しかし、

『此奴』の魅力に気が付くとは見る目がある。えっと……。」


 この眼鏡の名前をオレは知らない。

 それを何と無く目で訴えかけて見ると。何故か呆気に取られてい

 た眼鏡が。


「……あ。ぼくの名前は『白波(シラナミ) (キズナ)』だ

 よ。」

「オレは『御柱(ミハシラ) 明進人(アスト)』だ。よろしく

 な白波。」

「此方こそよろしくね。御柱くん。」


 オレは名前を教えあった白波と握手を交わす。

 最初は変な奴かと思ったけど、ちょっとオドオドしてただけで悪

 い奴じゃなさそうだ。何せ『此奴』の魅力に気が付いたんだから

 な。白波はオレが机に置いた物を見ながら。


「大事にしてきたんだね。

 うん、きっと良いツクモになるよ。」

「おうよ! 『此奴』は間違いなく最ッ高のツクモに成る。

 オレには分かる。」

「あはは。自信満々だね。」

「満々の満々だ。」


 小さく笑う白波。オレも何と無く笑う。登校初日に知り合った

 クラスメイトは嫌な奴でも悪い奴でも無い。

 幸先が良いぞ。が、白波とそんな会話をしていると。


「そんなモンが最強のツクモに成れるか!」


 向こうから大柄な奴が歩いて来ては、オレ達の話に割り込んで来

 た。デカイ奴は自慢げに抱えていた怪獣フィギュアを両手に持ち替

 え。


「最強は俺のザラス! 此奴に決まってるんだからなぁ!」


 そう言いながらオレと白波の机の間に“ドカンッ”と置いた。

 置かれたフィギュアは近くで見ると結構な迫力!


「おおー!すげーな! ザラスってあの、CMとかで

 よく見る玩具屋のヤツか。これ結構人気だよな。」

「ふふん。多少は知っているみたいだな。だが、

 此奴はただのザラスじゃない。俺様がお袋を拝み倒し、

 親父と一緒に徹夜してまで手に入れた超限定版のザラスだ!」

「へぇー!」


 聞いたままに驚いては見たけど。ぶっちゃけどの辺が限定仕様な

 のかオレにはまるで分からなかった。ちょっと隣を見れば白波が

 眼鏡を支えながら、マジマジとザラスを見詰め。

 頷いている。もしかして白波には違いが分かったのかな?


「だから! このザラスこそが最強のツクモに成るんだ!」


 大柄な体格で大きく宣言する誰か。オレはそんな誰かに。


「ああ。此奴は最強に成りそうだな。

 後オレが言ってたのは“最強”じゃなくて“最高”だぞ。」


 デカイ奴は一瞬の間を置いて。


「そ、そうだったか。どうやら聞き間違えた。すまん。

 だがそれならそれで! 最強で最高のツクモに成るのは

 やはり俺様のザラス! そう言わせてもらおう!」

「ああ!? 最高だけは譲れないなぁ!」


 オレは椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり、

 デカイのと睨み合う。


「あわわわっわ。」


 隣から白波の、気の抜けるような慌て声が聞こえて来たが、今は

 此方が大事。最強は別にどうでも良い。だけど最高、最高だけは

 絶対に譲れない。そうやってお互いに譲れないと睨み合いをして

 いる教室に。


「はーい。皆さん席に着いてー。」


 そう言いながら大人の女性が入って来た。多分あの人は担任の先

 生だろう。オレとデカイのは同時に先生をチラリと見ては。


「後が楽しみだな。」


 デカイのはそう言って怪獣フィギュアを抱え、前の方へと歩いて

 行く。『フン! 此方こそだ!』とは言い損ねてしまった。オレは

 “ドカンッ”と椅子に座り直す。

 他の生徒も皆席へ着くと前に居る先生が口を開き。


「はい。皆さんおはようございます。」

「「「おはようございます!」」」

「別日に行われた入学式で知ってるとは思いますが、改めて。

 私が今日から皆さんの担任を務めます、

(コガラシ) 美咲(ミサキ)』です。改めてよろしくね、皆。」


 女性の先生はにっこり笑顔を皆に向ける。やべぇ。

 全然覚えてなかった。まあオレは入学式の時にうたた寝してたか

 ら当然か。今度はちゃんと覚えて置かないとな。担任の先生は挨

 拶を済ませ。


「では。皆さんが気になっているツクモの儀式───」

「「!!!」」


 先生の言葉にクラスの生徒達が息を呑む。勿論オレも。


「───の前に。午前はツクモについての勉強をします。

 儀式は午後からね。」

「「「えー!?」」」

「気持ちは分かるけど、これも大事なんですよ?

 と言う訳で。今日の儀式を執り行ってくださる宮司さんに、

 ツクモについてのお話をしてもらいたいと思います。」


 担任の先生はそう言いながら教室のドアへ近付き、開く。

 開いたドアからは何だか神社やお寺、或いは時代劇とかに出てき

 そうな和装の男性が教室の中へと入って来た。男性は先生に軽く

 頭を下げては教壇の前に立ち。


「皆さんこんにちは。本日の儀式を執り行う宮司さんです。

 ま、堅苦しい挨拶は抜きにして。早速ツクモについてお話しまし

 ょうか。」


 そう言うと宮司さんはツクモについて語り出す。

 この世界にはツクモと言う存在が沢山居て、殆の人が自分のツク

 モを持ち、ツクモと共に多くの人間が生活をしている事など。誰も

 が知っている様な常識を説明した後。


「さてさて。皆さんは『ツクモ』の起源をご存知かな?古来よりこ

 の日の本では、長い年月を経た物には何事かの魂が宿る。そう言

 い伝えられて来ました。とは言え、実際にはそんな事は分から

 ず。この話も『だから物は大切にしましょうね。』と言った教訓

 で使われるのが主な物でした。

 超常的な意味合いなど微塵も無い御話、だったのです。」


 宮司のおじさんは言葉を一旦区切り。そして。


「ですが。ある一人の神職者は物には本当に魂が宿ると信じ、これ

 を呼び起こそうとした訳です。

 神秘の側面、または科学的な側面。そしてその両方を合わせた方法

 など。

 実に様々な事を試みた訳です。結果は───皆さんもご存知です

 ね?

 神職者は見事物言わぬ物をツクモと化し、また同時にそれを御す

 る方法を編み出しました。神職者が編み出した“技”は“技術”

 として瞬く間に世界へと広がり。今日まで連綿と受け継がれて来

 た訳ですね。ツクモのお陰で我々の生活は豊かになり、またツク

 モに関する技術も日進月歩。昨日よりも今日と言った具合に便利

 で扱い易い様に簡略化されつつあります。

 まさに誰もが『蛇口を捻れば水が出る。』程度の認識でツクモや

 その技術を利用出来るまでになりました。……ですが。

 便利で扱い安く成った事で、ツクモの悪用やハグレ等など。無視

 出来ない問題もまた生まれてしまいましたね。」


 息を静かに吸い。宮司のおじさんは生徒を見渡し。


「皆さんに今、ツクモの成り立ちの一片。そのお話をしたのには勿

 論理由があります。それは、皆さんがこれから扱う事になる力の起

 源。

 それを知る事、しろうとする事が如何に大切か。それを分かって

 欲しかったからです。そのモノの成り立ちを知らずして、本当の

 理解や力は身に付けられない。皆さんがこれから手にするツクモ()

 それを今一度良く考え、またこれからも考え続けてください。

『蛇口を捻れば水が出る。』そんな感覚でツクモ()を使わない

 様に。」


 教室は何だか静かだ。皆宮司のおじさんの話に集中しているらし

 い。


「とまあー。ツクモを持つ前に話すべき事はこんなもんかな?

 後は学校の授業で学んで行くとして……。」


 宮司のおじさんは担任の先生へに視線を向けて。担任の先生が一

 つ頷き。


「はい。それでは皆さんお家から持って来てもらった、

 想い出の品を持って、体育館へ移動しましょう。

 そこで儀式を行いますよ。」




 クラスの全員が思い思いの荷物を持つ。

 勿論オレも犬の玩具を手に持って、皆で体育館へ移動する──

最後までお読みいただきありがとうございます。この物語が少しでも楽しめる物であったのなら

幸いです。

物語を最後までお読みいただいた貴方様に心からの感謝とお礼を此処に。誠にありがとうございます。

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