過去の悪夢×リアナ王国×囚われし者……2
“厄介そう”と語る風薙の言葉を聞き、手紙の封蝋に刻まれた紋章を確める。
「……おい、此れは、王族が使う紋章じゃないか! こんな物が何故、俺達の所に……」
風薙は、キャトルフの口を手で塞ぐ。
「団長、喋りすぎな、今は扉が無いんだから、危ないぜ?」
軽くうなずくと、キャトルフは風薙と共に団長室を後にする。
その足で向かった先は古城の地下にある倉庫だ。
蝋燭に火を灯し、手紙を開封する。
内容は信じられない物だった。
『──黒猫よ、扉を閉め忘れた先に野犬の群れがいるだろう。
数匹ならば、何とか退けられるだろう、しかし、群れはその何倍も多く、危険があるだろう。
出来るならば、野犬の群れを駆逐するには棒よりも刃が確実であろう。
使い慣れぬ刃達が自身の手すら危うくする。
ああ、強き黒猫よ、良ければ、その牙と爪で願いを聞いてくれ、野犬の群れは直ぐに、寝室に姿を現すだろう……全てを喰らいつくす為に──』
「また、厄介な書き方だな……直訳しなくても言いたいことは理解できるが、毎度ながら、厄介な書き方としか言えないな」
キャトルフは静かに
◆ ◆
『──黒猫の団へ、今、鉄壁であった。
リアナ王国内部調査部隊にすら、裏切り者の存在が見えかくれしている。 少ない間は何とかなるが、敵は予想より多く、身動きが取れなくなった。
残念だが、此方では敵に対する戦力が足りない、しかし、確実に仕留めねばならぬのだ。
新たな新兵達は何も考えずに、敵であろう存在に向かうも、返り討ちにあった、此方の情報を知られた可能性がある。
黒猫の団よ、依頼を受けてくれ、その力を貸して欲しい。敵は直ぐに、リアナ王国内部調査部隊の前に姿を現すだろう……我等を駆逐する為に──』
◆ ◆
手紙を読み終えると、蝋燭の炎に手紙を翳す。キャトルフの手に握られた手紙はゆっくりと焦げ、煙をあげていく。
ゆっくりと歩きだし、燃えた手紙を鉄のバケツへと放り込む。
「団長、どうする? 間違いなく面倒ごとじゃね?」
「颯彌、直ぐに護衛を十人選んでくれ、先ずは話を聞きに行く。金額を書き忘れてるからな、俺達は傭兵だ。金額が分からないと話にならんからな」
真っ直ぐな瞳が蝋燭の炎に照されると風薙は軽く口元を緩めた。
「色気がないと、オレがやる気でないけど、仕方無いな、ごりごりの手練れを選んで出向くとしますか、ね? 団長」
「嗚呼、少数精鋭で頼む。数の勝負が最強と考える連中みたいだからな、後衛も抜かるなよ。颯彌」
地下室を後にする二人、太陽に照らされた二人の傭兵は鋭い獣のような瞳を輝かせていた。
風薙はキャトルフの指示に従い、自身とアルガノ=カヤン、更に獣人から四人、人間から四人の手練れを選ぶ。
キャトルフを含む11人は、太陽が沈み、霧が支配する視界無き世界へと馬を走らせていく。
目指す先は、リアナ王国──王都【エルドルメ】
黒猫の団が有する最強にして最小の一団が動き出す。
王都エルドルメ迄は、馬を使い二月程の距離である。
最初の目的地は【ケマル】小さな町で、普段は旅人も少ない。黒猫の団の加護を受ける町の一つである。
その間、古城は門を閉ざし、他の団員達は別の隠れ家にて、仕事をこなす。
黒猫の団とは、複数の少数傭兵団の集合体であり、古城は集会場の役割を果たしていた。
キャトルフの帰還に合わせて、集まる黒猫の団、その内部情報は各傭兵団の団長のみが把握しており、黒猫の外の傭兵団の名を語る事は禁じられている。
例外は戦の依頼があった際、各傭兵団が何処に雇われて要るかを共有する。その為、仲間同士で殺し合う事はない。
もし、例外が破られた際には、互いの誇りを胸に手を抜かず戦う事とされている。
裏切りは赦さず、互いが敵になれば、誇りを胸に殺し合う、黒猫の団の掟であり、そうなった際に片方が生き残った場合、討ち取った相手に別れの酒を奢る。
悲しいが現実に避けられぬ戦いは幾つも存在している。
キャトルフは、今回の依頼に対して、胸騒ぎを感じており、精鋭のみで王都へと向かった理由は少なくとも、キャトルフ、風薙=颯彌、アルガノ=カヤンの三人以外の8人が戦場でぶつかり合わないようにする為であった。
多くの思考と思いを胸に11人は最初の町である【ケマル】へと向かっていく。




