獣帝国ガルシャナ×国王テイル×王の決断……2
火神【イリョス】の巫女──カルバチノ=セセルが再度、手を前に翳す。
聖騎士団が一斉に獣人へと襲い掛かる。
「うぅ、お母さん!」
「うわぁッ!」
「「「我等、神の使徒なりて、悪を滅する者なり」」」
剣先が幼い獣人に触れようとした瞬間、激しい突風が吹き荒れる。
地上から天高く吹き上がる風に聖騎士団の剣速が鈍る。
「誰です? 神の裁きを代行せし私達に仇なす愚か者は……本当に嫌になるんだけど」
“ムッ”としたようにカルバチノ=セセルが怒りを声にする。
「餓鬼とオッサンか……悪かないが、餓鬼の躾がなってねぇなぁ?」
聖騎士達が慌てる最中、その背後から高熱を全身から放ち更にセセルは怒りを露にする。
「誰、お前! 人に向かって、獣が生意気言ってんじゃないわよ!」
「自己紹介して欲しいのか? 本当に面倒な餓鬼だな? 俺は【獣帝国ガルシャナ】総大将──サンジャラム=ペリグロッソだ」
その場がざわめき。
総大将が戦場の最前線に姿を現したのだから、当然のざわめきであった。
聖騎士団がしきりに呟く。
「獣帝国のペリグロッソだと……」
「千人殺しのペリグロッソか……」
「噂通りなら、化物じゃないか……」
怯えるように、剣をペリグロッソに向ける聖騎士団。
ペリグロッソは剣を抜くと、軽く数を数え始める。
「一、二、三、四、五、六……多いなぃ? えっと……」
数を数えている姿は無防備であり、巨大な剣は地面に刃先をつけられた状態になっている。
「クッ! ふざけるな! 獣人風情が!」
聖騎士の一人が叫びながら、駆け出す。其れを合図に一斉に聖騎士達が襲い掛かる。
「たく、まぁ……数を減らした方が数えやすいか……」
楽しげにすら見える不敵な笑みにセセルは寒気を感じ直ぐに声を出す。
「馬鹿者……それは罠だ! 散れ!」
即座に聖騎士団が声に反応したが既にペリグロッソの間合いに足を踏み入れていた。
「反応がなってねぇなッ!」
地面に向いていた刃を豪快に振り上げ、更に地面に叩きつける。
まるで雷が地面に落下したように爆音が響き、振りあげた際の突風と叩きつけた際の爆風が聖騎士団を軽々と吹き飛ばす。
距離を保った者すら、爆風で足を取られる程の一撃、接近していた聖騎士達が無惨な肉塊へと姿を変える。
「少しは数えやすくなったなぁ?」
勝ちを確信するように語るペリグロッソ。
「ふざけんじゃないわよ……幾ら、無能な兵士を削った所で、意味無いって事を証明してあげるわ」
その言葉に怒るセセル。感情が熱を作り出すと、大地からは煙が上がり、空気すら焼き尽くす。
「おいおい、マジかよ? 話より大分危ない奴じゃねぇか」
森が焼かれ地面が溶け始めると、ペリグロッソですら、近づけない程の高温が次第に全てをのみ込むように広がっていく。
「今更、逃がさないんだからッ! 燃えちゃえ!」
仲間すら焼き尽くす炎が次第にペリグロッソ達を追い詰める。
そんな時、天から声が響く。
「ペリグロッソッ! 部下達と直ぐに後退しろ!」
「その声は……テイルか! ふざけんな! 動くなって言ったじゃねぇか!」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ! 生きるか死ぬか、今すぐに選べ! ペリグロッソ!」
「嗚呼、わかった! 全員、テイルの指示に従え、いいな!」
テイルの指示に従う事を選択したペリグロッソ軍。
感情に支配されたセセルにテイルの声は既に届いておらず、獣人の撤退を目にして炎を強める。
炎がペリグロッソ達に迫り、死を覚悟させられる。
その瞬間、炎がピタリと止まる。
「ナニッ!」
セセルが驚くと同時にもう一人、驚きの声をあげた者がいた。
水神【コリエンテ】の巫女──エレステ=ティエルである。
「なんなのこれ!」
二頭の頭を持つ、水の化物が動きを拘束されている。
全力で拘束を抜け出そうとするエレステ=ディエル。しかし、それは拘束とは全く違う物である事実を直ぐに理解する事になる。




