五精神×力ある者達×霧の国……4
絶対の自身と武力を振りかざす【リアナ王国】三十八代国王──“ダンベルム=リアナ=ディエルド”は、【獣帝国ガルシャナ】との戦闘に対して非道、邪道に関わらず全ての力を持って討ち滅ぼさんとした。
毒霧が【獣帝国ガルシャナ】に送り込まれ、森の葉が散り始めた事実を確認すると、マスクを一斉に装備し、炎の魔石を武装した兵士と槍を基本とした大部隊が森へと進んでいく。
国境に隣接する村から、異常事態の報告が入り即座に獣帝軍が動き出す。
しかし、直ぐに後退を余儀無くされる。毒霧が広範囲に広がり、獣帝軍が装備していたマスクでは、それを防ぐ事が出来なかったのだ。
森は死に焼き払われていく。逃げ惑う獣人達の姿はリアナ王国軍の的となり、全てが炎の渦にのみ込まれていった。
力と恐怖を前に獣帝国民達は、帝都へと集まりだしていた。
「獣帝陛下、既に国境に近い村や町は野蛮な人間の手により、蹂躙されました……このまま進行を許せば、数日で帝都まで進軍してくるでしょう、どうか、御決断を……」
帝都に堂々たる姿で構える城の中、獣帝ジャルバノ=サラバンに決断を迫る獣人達の姿があった。
「普通に追い払えない状況か、本当に人間とは、争いをボードゲームのように行う、参ったものだ……魔石部隊に出陣命令を、他の兵は皆、後退させよ。よいな?」
「御意、早急に」
獣帝は、深い溜め息を吐くと静かに窓を開き、空を見上げた。
「本当に……殺し合いが好きな種族よな……」
国境では、次々に逃げていく獣人に対して、リアナ王国軍の追撃が続いていた。
「やれやれ! 女、子供は生け捕り! 逆らうなら悩むな! 殺せッ!」
「「「おおぉぉッ!」」」
獣狩りを称して私益を増やす為の奴隷狩りを始める者や戦えない無力な獣人をいたぶり殺す者までいた。
【リアナ王国】は巨大になり過ぎたのだ。
殆んどの兵士達に誇りは無く、ならず者、野盗、盗賊と言った呼び方が相応しいであろう振る舞いを平気で行っていた。
国王ダンベルム=リアナ=ディエルドは自国優勢の報告を【シスイ】にある臨時拠点の室内で聞き、酒を手に高笑いを浮かべた。
「フフ、実に素晴らしいじゃないか、我がリアナ王国は最強であると、バルメルム大陸の誰もが認め、後に、全ての国を跪かせる……バルメルム大陸その物がリアナ王国となるだろう! あははッ!」
上機嫌に酒を一気に飲み干すダンベルム=リアナ=ディエルド。
そんな最中、扉が開かれる。
「ノックもせず、誰だ?」
「私です、父上。ダンベルム=テイルに御座います」
扉の前に立つ三十代の男、短い金色の髪、透き通れような淡い青色の瞳、肉体は鍛え上げられており、腰には立派な剣を携えている。
「なんのようか? 今、貴様の戯言を聞いてやる余裕は無いのだ。世界を手にするのだからな……バルメルム大陸を統一すればば、いずれ……」
「世迷い言を……私がこの場に現れた意味を理解しているでしょうに、父上……ッ!」
国王ダンベルム=リアナ=ディエルドは、直ぐに兵士が手にしていた槍を奪うと迷うこと無く、槍を実子であるテイルの腹部に突き刺した。
「国王に対して……世迷い言だと? ふざけるなッ!」
敢えて、自身の剣を抜かず、槍を奪い息子であるテイルを攻撃した事には訳があった。
剣でダンベルム=テイルに敵う存在などリアナ王国に存在しなかったからだ。
その事実を受け入れていたからこそ、槍を手に息子であるテイルに襲い掛かったのだ。
強欲な感情からの浅はかで軽率な行動であったが、国王ダンベルム=リアナ=ディエルドは見張りの兵士に対して睨みつけると、兵士の腰から剣を即座に抜き取った。
「貴様は、国王の考えに従う者か? 逆らう愚か者か、今すぐに答えよ!」
兵士は即答する。
「はっ! 国王の命令に背かず、この命を捧げれ覚悟に御座います!」
国王は、不敵な笑みを浮かべ、兵士に向かって剣を振り下ろす。
「よくぞ言った! キサマの覚悟は立派であったぞ!」
兵士のみが証人となる存在であり、気にする事はなかったであろう、しかし、国王が実子を殺めたと噂になれば、反乱分子などの勢いが増すと考えたのだ。
「リアナ王国の未来の為に死ねるならば、本望であろうッ! あははッ!」




