王国の騎士団×歪んだ感情×決意の先に……5
向けられた剣先、暗闇の中で睨み合い、互いを敵であると再確認すると、両者は無言のまま、動き出した。
共に戦場へ迎い、多くの危機を回避して来た者達が敵となり、襲い掛かる。
ガルボア……キャトルフにとって、信頼できる上官であり、強い理念とそれを形にする行動力を有した存在だった。
「俺は、アンタを尊敬していた、誰にも媚びず、真っ直ぐな信念と理想を掲げそれを形にするアンタ……ガルボア=デラム……」
小さく呟かれた言葉は誰の耳に届く事もない。
ただ、目の前から押し寄せる、敵に対して、覚悟を再度決めたキャトルフは一心不乱に駆け出していく。
次々と矢を回避して距離を縮めるキャトルフの動きを前に敵にざわめきが起こりだし、ざわめきは、不安を作り出していく。
百人程の兵を前に臆する事なく突き進み、迎え撃つ者を一太刀で切り裂く鬼神の如き猛攻、一人を潰せば勝てる戦いだからこそ、兵達は震えた。
兵達は無言のまま、考えていた“命が惜しい”と“今行けば、確実に死ぬ”……本能がそう叫ぶ程に荒々しく敵を切り裂くキャトルフの姿に恐怖を感じる他なかった。
部下の無言で恐怖を感じる姿に苛立ち、剣を握るとガルボアは、一歩前に出る。
「フンッ!」
ガルボアの前に立っていた兵が背後から斬られ、胴体が凄まじい斬撃に宙を舞う。
「臆するな! 一人を捕まえよ、手足などどうにでもなる! 数で押し潰せぇッ!」
目の前には、鬼神の如きキャトルフ。
背後からは、悪魔の如きガルボア。
両者に恐怖を感じながら、敵兵はキャトルフ目掛けて突撃していく。
恐怖に支配された敵兵は前の者を盾にするようにして、襲い掛かる。
キャトルフが防御に徹した瞬間、敵兵の背後を貫くようにして、槍が襲い掛かる。
「グァッ!」
「ガハッ……」
敵兵達の体を貫き襲い来る槍にキャトルフの目に怒りが込み上げる。
「オマエ達、俺の前からどけッ! ガルボアッ! 部下をなんだと思ってやがる!」
その言葉に、敵兵の動きに若干の乱れが生まれ、前衛が一歩後退する。
その一歩が未来を大きく変える事となる。
開かれた道の先に微かにガルボアの姿を見つけると、キャトルフはナイフを握り、力強く、投げ放つ。
「クッ!」
ガルボアの肩を掠め、木に突き刺さる。
瞬時に駆け出していくキャトルフ、その歩みを止めようとする者はいない。
木々を躱し、握られた剣先がガルボアに向けて、一気に襲い掛かる。
「ガルボアッ!」
「私を呼び捨てにするなぁッ! キャトルフ!」
互いの剣がぶつかり合うと、飛び掛かるように振り下ろされたキャトルフの猛攻にガルボアが膝をつく。
「くっ、小癪な! キサマ如きに膝をつかされるなど……」
「腐った貴様に! 負けるわけにはいかないんだよ! はぁぁぁッ!」
キャトルフが更に力を加える、しかし、ガルボアは魔石を起動させる。
剣が炎に包まれ、強度が増していく。
剣の刃が次第に砕けていく、キャトルフは覚悟を決め、更に力を加えていく。
「キサマは本当に剣に愛されぬようだな、キャトルフッ! その鈍らと共に砕け散れ!」
「お前のような奴に、俺は絶対に敗けを認めないッ! 部下達の無念を貴様に教えてやるッ! ガルボア!」
その瞬間、キャトルフの剣が砕け、勢いで大振りにガルボアの剣が振り抜かれる。
その瞬間、キャトルフの背後から声が叫ばれる。
「キャトルフッ! これを──!」
風薙の叫び声と共にナイフがガルボア目掛けて飛んでいく。
あっさりとナイフを躱すとガルボアは勝利を確信する。
しかし、ガルボアは次の瞬間、腹部に突き刺さる燃えるような激痛に襲われる。
キャトルフの手には折れた筈の剣先が元通りになった剣が握られており、ガルボアの腹部から背中に向けて突き立てられていたのである。
「な、ガハッ……何故、剣が……」
動揺するガルボアの元に風薙が息を切らせて到着する。
「はあ、はあ、オレが投げたのはナイフだけじゃないんだよ……」
風薙はナイフをガルボアに投げると同時に剣をキャトルフに向けて振り投げていたのである。
ガルボアがナイフに気を取られた瞬間、キャトルフは投げられた剣を手に取り、迷う事なき瞬速の剣で、ガルボアの腹部を貫いたのだ。
全てを理解したガルボアは、微かに笑みを浮かべた。
「私を殺して、どうやって生き延びる……キャトルフ、反逆者となり、上官殺しとなれば、キサマの言い分など誰も聞くまい……終わりだな、アルベルム=キャトルフ……」
次の瞬間、キャトルフと風薙、そして、ガルボアの部下達は信じられない光景を目の当たりにする。
「終わりは貴方です。ガルボア=デラム……」
第一騎士団副団長、クラウス=ドルムが突如、姿を現すとガルボアの首と胴体を切り離したのである。
「アルベルム=キャトルフ……此度の一件、本当に申し訳ない……本当にすまない」
ドルムはそう語るとキャトルフに頭を下げたのだった。