炎の大地×冷血なる一族×光の道……6
アルトゥト中佐は予想だにしていなかった黒猫の分断作戦に苛立ちを露にしながらも、丘へと辿り着く。
「クッ、やってくれたな! 黒猫の団よ!」
怒りを込めて口にするアルトゥト。
「いやぁ、思った以上に数が減ってないな? まあ……いいけど」
そう呟く風薙は堂々と残った特務隊の前に姿を現す。
月明かりの下で相対する特務隊と黒猫、そして、キャトルフがアルトゥトの前に姿を現す。
「いや、十分だろ? 死人が出る前に、話し合いを済まそうじゃないか、だが、対等か此方が上で無ければ意味がないからな……わかるよな?」
コルト村を前に取り乱していたキャトルフの姿は其処にはなく、冷静な口調で威圧感を全身から放つ、黒猫の団をまとめる団長としての姿があった。
そんな、キャトルフを直視するアルトゥト。
「何故だ、私はお前の考えを理解し、追撃したのだが……随分と違う結果になってしまっているな……」
アルトゥトの魔石の力は心を読み取り、更に感情を思う方向に誘導できる【疑心の魔石】であった。
そして、本来はキャトルフの心を揺さぶり、疑心暗鬼を引き起こし、内部から分断するように仕向ける手筈になっていた。
コルト村で互いが顔を見合わせた際、キャトルフの心に“子供に手を出したなら、この場に居る全ての敵を玉砕する”と言う、思いが心の叫びとなっていた。
結果的に、その場での戦闘は危険と判断したアルトゥトは、子供を解放すると、話し合いを求める事にしたのだ。
それこそが全ての勝敗をわける結果となったのだ。
アルトゥトの魔石の力が発動していたキャトルフを無理矢理、正気に戻した風薙 颯彌の存在であった。
キャトルフの異様な興奮状態を目の当たりにし、風薙は違和感を感じるとその場から即座に後退したのである。
更にキャトルフを試すように、わざと口調を変えて会話を試していた。
その結果、風薙はキャトルフに何かしらの干渉が生じていると確信し、指揮権を自然と自身に向かうように仕向けたのであった。
「残念だったな、本来なら、団長が指揮をして、作戦を口にしただろうに、精神が混乱していたんだろうさ、あっさりオレに指揮権をくれたんだ、普段なら有り得ないけどな!」
相手を小馬鹿にするような態度でキッチリと説明をする風薙の姿に殺気だった目を向けるアルトゥト。
更に言うならば、アルトゥトの魔石には、致命的な欠陥が存在していたのである。
心をよむ為、対象から別の対象に切り替える際に数十秒のラグが生じる。
今はキャトルフがアルトゥトの術中にあり、即座に動き出す事はないが、術中から解放されたキャトルフがどう行動するかを考えるアルトゥトは魔石の対象を即座に切り替える決心が出来ずにいたのだ。
風薙はキャトルフの状態から、幾つかの推測を立てており、その内の最悪な展開から試す事にしたのだ。
推測の中で一番の最悪は、複数人を一斉に“精神支配”すると言う物であり、その場合はキャトルフを含め、全員がアルトゥトの術中に陥る事となる。
その為、黒猫の団員を一ヶ所でなく、複数にわけ、配置したのである。
次に最悪な推測は、目に見える者に対する精神支配であり、その場合も回避できるようになっていた。
キャトルフ以外の団員には既に話をしており、最悪の場合はキャトルフを含む、アルトゥトと戦う団員の捕縛を命じていたのだ。その際に、アルトゥトに関しては手を出さないように命令を下していた。
後方から操られた場合、キャトルフと後方を任せたグリムとシシリアによる挟み撃ちの恐れをあったからだ。
しかし、現実は風薙の考える数倍も単純であり、恐れる必要など有りはしなかった。
勝利を確信する風薙はアルトゥトに向けて微笑みを浮かべていた。
「なぁ、アルトゥトさ、命の重さって感じた事があるか……かなり重みがあるんだけどさぁ……アンタにはわからないだろうなぁッ!」
「来るな、うわあァァ──ァァッ!」
風薙が俊足でアルトゥトに向けて、駆け出し、即座に短刀を両手に握る。
瞼を閉じる一瞬の間にその刃はアルトゥトの乗馬していた馬の頭部が両断される。
落馬したアルトゥトに向けて、特務隊が動こうとした瞬間、風薙が声を響かせる。
「動くなッ!」
短刀はアルトゥトの額スレスレに向けられており、馬すら両断する切れ味を目の当たりにした特務隊は、完全に沈黙する。
それと同時に、 丘の入り口に巨大なアンデッドが姿を現すとその手には数名の特務隊が捕らえられており、同様に中間地点からは勝利の雄叫びのように激しい落雷が輝き大地を照す。
アルトゥトは即座に腰の剣を地面に下ろし、両手を上にあげる。
「降参だ! 今生きている部下達を見逃してくれ……部下達は私の指示に従っただけだ、頼む」
潔く敗北を口にするアルトゥトは、自身の所持する魔石を地面に投げ捨てる。
「降参の言葉に偽りはない……頼む」
この瞬間、黒猫の団は特務隊に完全勝利を遂げたのだ。




