否定する者×鬼の心×生命の息吹……1
ステルビオは確認するように濁した声でキャトルフに質問する。
「おい、ガキ! 本当にアルベルムと言うのか?」
「ああ! 俺はアルベルム=キャトルフだ」
幼いながらに殺気に満ちた瞳で大人達を睨み付ける姿にステルビオは表情を変え、笑い出す。
「そうか……ふふ、なら話が早い! 俺は、お前一人を始末しにきたんだからな!」
その瞬間、キャトルフは只ならぬ恐怖を感じ、咄嗟に距離を取る。
ステルビオは剣を手に取るとキャトルフに対して斬り掛かる。
豪快にキャトルフの身長ほどある大剣を軽々振るうステルビオ。
荒々しい剣を必死に躱しながらも、次第に距離が縮まっていく。
狩人が獲物を弄ぶように、じわじわと迫る剣先、闘技場の端まで追い込まれるキャトルフ。
ステルビオの一振りが鈍った瞬間、キャトルフは無我夢中で駆け出していく。
“武器が欲しい”
そう考えた瞬間、キャトルフの視界に入ったのは気絶した鬼島と最初に投げた置物であった。
大剣に敵う筈がない事は幼いキャトルフにも理解出来ていた。しかし、チャンスがあると考えたのだ。
キャトルフは割れた窓の破片を手に握り締めると、鬼島の首に押しあてた。
「それ以上、何かするなら! コイツを殺す! 動くな!」
鬼島に突きつけられた鋭い破片を持つ手が震える。
そんなキャトルフにステルビオは冷静に返答を返す。
「遣るならやれよ? 最初からいってるだろぅ? 目的はお前、あと、リリアノアだったか……まあ、キャトルフの名を持つ者は皆殺しだ」
ステルビオは鬼島が死のうが構わないと口にすると、ゆっくりとキャトルフの元に歩み出した。
闘技場を包み込むような、圧倒的な殺気、それは、キャトルフが初めて感じる本当の恐怖であった。
ステルビオがキャトルフを剣の間合いに入れた瞬間、悩む事なく剣を振り上げる。
「逃げねぇと終わっちまうぞ! アルベルム=キャトルフよぉ!」
その瞬間、頭上から無数の剣や小さな木箱や置物、有りとあらゆる物が落下してくる。
カルミナが鬼島の部屋にあった物を片っ端から闘技場にいるステルビオ目掛けて投げつけたのだ。
「キャトルフ、逃げなさい!」
カルミナの叫び声にステルビオとキャトルフの視線が向けられる。
「せっかく、楽しんでるのに……邪魔ばかりだぁ……まったくよう……お前ら! 上のガキを始末してこい!」
男達は慌てて、鬼島の部屋に向かっていく。
ステルビオは再度、剣を振り、その一振りがキャトルフの腹部を掠める。
経験したことのない激痛と、肉と肉が熱をあげるような感覚にキャトルフは死を直感する。
“死にたくない” “死にたくない”と頭で何度も考えるが目の前に振り上げられた無情の刃が全てを刈り取ろうと振り下ろされる。
キャトルフが必死に後退りをした瞬間、背中から寝そべるように後ろに倒れた込む。
全てが終わりを迎えたとキャトルフが悟った瞬間、奇跡は起きた。
『相手を否定せよ』
『痛みを否定せよ』
『力なき自身を否定せよ』
『剣が使えぬ事を否定せよ』
“否定せよ”と言う言葉がキャトルフの体内を刹那に駆け巡ったのだ。
「くそ、コイツを否定する!」
咄嗟に剣から自身を守ろうと前に出された腕。
その瞬間、ステルビオの大剣が幼い腕に触れた途端に弾き飛ばされたのだ。
何が起きたか理解できずにいるステルビオ。
「テメェ! 何をしやがった!」
“ドサっ!”
ステルビオが叫んだ瞬間、闘技場に数人の男性が落下する。
確認するステルビオを混乱させたのは、鬼島の部屋に向かわせた男達達が闘技場へと落下してきた事実であった。
「くそ、どうなってやがるんだ!」
苛立つステルビオ、そんな中、闘技場を見つめるように鬼の面をつけた人影の姿があった。




