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王国の騎士団×歪んだ感情×決意の先に……2

 “殺したくない”と言う意思表示に、ジェフリは激怒する。


「ふざけるな……勝った気になってんじゃねぇよ!」


 戦意を失う事なき、ジェフリの瞳を前にキャトルフは砕けた剣を確りと握る。


 覚悟を決めると、迷うこと無く剣を振り下ろす。


 遊撃隊の面々が下を向き、ジェフリの死を確信した。しかし、誰もが、予想していなかった事態が起きる。


 “ガキン……ギギギッ!”


 キャトルフの剣がジェフリの額に当たる寸前で止められる。


 二人の副団長の間に飛び込み、剣を止めた人物を前に団員達は驚き、

その場の空気が一瞬で変化する。


「いやいや、本日に剣を振り抜こうなんて、アルベルム=キャトルフ副団長……少し遣り過ぎじゃないかな? 取り敢えず(しめ)ようか?」


 剣を止めた人物は第一斥候部隊副団長 クラウス=ドルムであった。ニヤリと笑みを浮かべ、終わりを口にする。


 無言のまま、キャトルフは剣から力を抜き、その場に座り込む。


「キャトルフ副団長……遣り過ぎたな、この事は団長の耳に入ってる……ジェフリの命を奪っていたら、釈明(しゃくめい)すら出来なかったぞ?」


 ドルムは次に視線をジェフリに向ける。


「シアノフ=ジェフリ副団長……貴方には失望しました。副団長としての自覚が足りないのではないでか?」


 ジェフリは言われるがまま、反論を行わず、頷いた。


 互いの戦意が消え去った事を確認したドルムは、団長の元に二人が連れていかれる。規則に違反し、互いを殺そうとした事実は言い逃れ出来ない。


 ドルムは規則に従い、キャトルフとジェフリの手足は手枷(てかせ)と鎖の足枷(あしかせ)がはめられる。


 抵抗する様子は無く、護衛部隊の団員達が心配そうに見守る。


 キャトルフとジェフリの両名はドルムと部下達により、騎士団長の待つテントへと向う。


 団長専用のテントの前に立ち、敬礼を済ますとドルムが声を出す。


「ガルボア団長、失礼します! アルベルム=キャトルフ副団長、並びに、シアノフ=ジェフリ副団長の二名を連れて参りました!」


 テントの中から、渋みのある掠れた声で返答が返される。


「入りなさい」


 ドルムが二人をテントへと誘導し、他の団員はテントの外で待機する。


 テント内には騎士団長が一人、テーブルに置かれた指令書に目を通している。


「来たね、報告は聞いてる。誠に残念だ……シアノフ=ジェフリ、そして、アルベルム=キャトルフ……規則は知っているだろう? 事実のみが真実となり、流れは関係ない……わかるな?」


 穏やかな表情を浮かべるも、鋭い眼光が二人の副団長へと向けられる。


 特別輸送護衛騎士団、団長──ガルボア=デラム。


 若くして、実力を示し、王国騎士団の座まで手にするも、本人の意思で王国の為に身を捧げたいと特別輸送護衛騎士団の創設を提案し、団長を勤める。


 穏やかな表情と口調とは裏腹に残忍にして、無情、法を犯す者を赦さず、積み荷を襲撃した相手が幼子であっても躊躇無く切り捨てる残忍な性格の持ち主であり、強化魔法の魔石(アーティファクト)を所持しており、強化した剣を用いた剣術を得意としている。


 ガルボアの言葉にキャトルフは絶句した。


「……何か、言いたいのかね? アルベルム=キャトルフ副団長……いや、元副団長?」


 その言葉に、キャトルフは全てを理解した。言葉は意味を持たぬ、既に結論が出た時点で何も変わらないのだと。


「元……ですか、いえ、何もありません。敬礼が出来ない事を御許し下さい。ガルボア=デラム隊長……」


「うむ、構わぬよ。敬礼とは、形にあらず、敬意と礼を持って行動と思考を巡らせる事に意味がある……実に素晴らしいことじゃないか」


 会話が無くなり、全てが終わった事を意味していた。


 そして、ガルボアは静かに合図を出す。


 ドルムは確りと頷くとキャトルフとジェフリを連れていこうとするとガルボアが軽く語り掛ける。


「クラウス=ドルム副団長……シアノフ=ジェフリに処置をしてやれ、血生臭くて、仕方ないからな」


 テントから、出るとジェフリはドルムに連れられていく。


 外で待機していたドルムの部下達がキャトルフに敬礼をする。無言のまま、捕虜を捕らえる為の輸送馬車に誘導される。


 無言のまま、キャトルフが馬車に乗り込むと、ドルムの部下達は遣る瀬ない表情を浮かべた。


「すみません、キャトルフ副団長……命令ですので、御許し下さい……」


「構わない、寧ろ、謝るな……お前達まで、疑いを持たれるぞ」


 団員達が居なくなると、暗闇に包まれた世界に風が吹き、厚い雲が流れ、隠れていた月光に無数に並べられた輸送馬車が照らされる。


 隣の輸送馬車から男が呟く。


「…………眩しい……たく、うるせぇ連中が帰ったと思ったら……夜くらい、ゆっくり寝かせろよ」


 キャトルフが視線を向けると、ボロボロの見慣れない服を纏った少年が雑魚寝をしている姿が照らされる。


「誰だ? 捕虜がいるなんて、報告は聞いていないんだがな……」


 少年が起き上がり、呆れたようにキャトルフを見つめた。


「アンタは、奴等と違う側の人間か……」


「奴等? 違う側って、いったいどういう事だ……」


 静かに少年は語りだした。


「アンタは、俺と同じさ、奴隷として売られるんだよ」

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