後方部隊×第四の関所×暗闇の部屋……2
キャトルフの指示により、後方部隊とモルガ=グレイヴ、スラド=ゲルダの二名が兄妹と住民を連れ、黒猫の団が拠点とする一つ町である【ミストエル】に向かい引き返していく。
それと同時に【シスイ】から避難したいと願う住民達とキャトルフ率いる八人の黒猫の団員が第四の関所である水と自然の都【ウォルベア】に向けて出発する。
キャトルフは最後まで、シスイに残る住民に呼び掛けたが、同行する意思を示した者は僅かであった。
財産を手放せない者、住み慣れた家に執着する者、シスイの支配者が居ないことをいい事に利権を手にしようと企む者、理由は様々であった。
結果を受け入れたキャトルフは、シスイの橋を渡りきると切なげな表情を浮かべた。
「何故、人は財産に執着するんだろうな……命より重い金品なんて、俺には理解できない……」
第五の関所【シスイ】はマスク無しでは、生活出来ない場所になる。
生活が出来たとしても、霧に包まれ、シスイと言う酸の湖の上に存在する街に既に価値など有りはしない。
心までシスイと言う監獄に囚われた者達がキャトルフの目には悲しく哀れな存在にしか見えなかった。
シスイを中心に両方向に架かる橋の向かい側は既に半日かけて、流れてきたであろう濃い霧が橋の半分を覆い隠すように広がっていた。
「団長、急ごう、予定より、かなり遅れてる。野宿になるだろうってのが、団員の考えだ。夜までに次の町に入れればいいんだけど、無理だよねぇ?」
体力の低下した住民達が常人離れしたキャトルフ達と同様の速度で移動する事は困難であり、囚人と住民の食事の事も考えねばならない。
昼食の際に一度、止まった後、移動速度はかなり落ちる結果となっていた。体力の無い者達が、いきなり慣れない道で過酷な移動をしたのだから、休憩した際に足が疲労で悲鳴をあげたのだ。
予定の半分すら到達していない現実、水の都【ウォルベア】までの距離を考え、速度を上げず、現状を維持し早めに野宿出来る場所を探すのが賢明な判断だろうとキャトルフは考えた。
夕暮れ、川辺にたどり着いたキャトルフ達は後方部隊から預かった無数のテントを広げる。
住民や囚人達は地面に雑魚寝を覚悟していたのだろう、確りとしたテントと床に敷かれた円上のカーペットに驚きを隠しきれずにいた。
寝袋のような物はないが、十分に柔らかいカーペットの上で、はしゃぎ横になる子供達と感謝を口にする住民達。
振る舞われた、確りとした食事に囚人達も、驚きと感謝を口にする。
【シスイ】の生活がどれ程、過酷だったかを感じさせる瞬間であった。
夜が更け、カルナ=カルミナが目を覚ます。
「此処は……何処だ?」
「此処は……【シスイ】から半日の距離の草原地帯、目覚めたなら……大人しく食べる」
様子を見に来たアルガノがカルミナに、スープ、パン、果物が乗ったトレーを手渡す。
「お前は誰だ? 何故、私は此処にいる! 答えろ!」
質問と同時に起き上がろうとするカルミナ、しかし、足に力が入らなかったのであろう、その場で前のめりに倒れ込む。
「元気なら、此方で食べて、ボクは君が好きじゃない……マスターが君を大切にしたいと考えるから、我慢してるんだ」
「マスターとは、誰だ」
「今から連れてく、大人しくして」
アルガノは目覚めたカルミナを小さな体で抱える。
「もう一度、言うけど……ボクは君が嫌いだ……マスターは渡さないから」
夜の闇を照らす焚き火を目指し、アルガノと抱えられた状態のカルミナはキャトルフの元に向かっていくのだった。




