獣狩り×闇に埋もれし者×命の価値……4
疾走する黒猫。
既に彼等を制止できる者など居ない。
彼等が目指す先には、自我を失い始め、真の化物と成りつつあるグラウド=アバリシアの醜い姿だけが存在した。
グラウドは自身が化物となった事実すら理解出来ず、手当たり次第に食事を開始する。
逃げ遅れた住民、余りの恐怖から隠れた囚人、財産を手放さんとする上流階級の者達、全てが化物となったグラウドからすれば、活きのいい食事に見え、御馳走にしか見えなくなっていた。
次々に暴食を開始するグラウド。逃げ惑う者、全てを自身の液状の体を触手のように伸ばすことで捕らえ、三つの頭と腹部に開かれた醜い口へと乱暴に引きずり込み咀嚼するように潰していく。
「イヤだ! イヤだァァ──!」
「お願いします、許してください!」
「うわぁぁ!」
囚人や住民の断末魔が響き渡ると同時に次第に肥大化するグラウドの醜い肉体。
そんな中、更に最悪な事実を獣人の一人が口にした。
「アルベルム様、あの化物の体内に凄い魔力が膨らんでいくのがわかります」
そう口にした獣人の女性。
彼女の名はシシリア=リース。
獣人の女性でアルガノの部下である。獣戦士特攻隊の索敵部隊の指揮を任される存在である。
戦闘では、魔石を使い盾役としても優秀であり、自身のテリトリーとなる範囲の大地に触れる全ての者を把握する。
「シシリア、それはどれくらいヤバイんだ?」
キャトルフの問いに対して、シシリアは不安そうに口を開く。
「シスイと周りの森や林まで、全てを吹き飛ばせるくらいかと……」
「そうか、なら……そうなる前に、潰すまでだ」
キャトルフの言葉に団員達はうなずく。
グラウドの元に到着すると、直ぐに異様な光景に不快感が溢れ出す。
咀嚼するように動く腹部の口から、はみ出す幼い子供の足首と靴。
「な、酷い……」
シシリアがそう呟く。
「本当に醜くて、反吐がでるっすね……」
「グリム、アンタも大概だけど、アイツよりはましだね」
グリムとモディカも怒りを感じながら、目の前の化物へと敵意を込める。
「皆さん背後から来ます!」
シシリアの声に皆が反応する。
全員が戦闘を開始しようとした瞬間、無数の触手が一斉に襲い掛かる。
不意をついた攻撃、しかし、戦場をいきる黒猫の団に通じる筈がなかった。
奇襲を躱し、伸びた触手を皆が切断し、切り落とされた触手が煙を上げ、消え去る。
「キャトルフ様、触手の切断後、敵の魔力が消費されたみたいです。再生した可能性があります」
「なら、丁度いいな。奴をひたすら、切り刻むだけで勝てるんだからな」
その瞬間、悩むことなく、攻撃が開始される。
「俺、風薙、アルガノ、モディカで本体を、他の皆は、本体から出る触手を頼む! 一気に駆逐するぞ!」
四人の前衛はグラウドの三つの頭を次々に落としていく。無数に再生する頭部、更に切り裂かれた触手の再生を繰り返すグラウドは、次第に吸収した魔力を失い勢いが削がれていく。
肥大化した肉体が縮まりだし、体内に吸収された魔石が次々に砕けエネルギーに変換される。
「団長、見つけたぜ! 団長の魔石が心臓になってやがるみたいだ!」
風薙はそう言うと駆け出していく。その援護にアルガノが加わり、更にグリムが加勢する。
アルガノがコアを守ろうとする触手を切り刻み、風薙が風を纏わせた双剣で腹部の口を切り裂き、コアを丸裸にする。
そして、グリムのアンデッドが一斉に姿を現すと次々にコアに向かって突撃していく。
コアまで再生する僅かな時間を妨害する事で、風薙はキャトルフの魔石をグラウドの心臓部から、力ずくで剥ぎ取った。
「ギャアァァッッ!」
醜い呻き声が天を切り裂くように叫ばれ、化物となったグラウド=アバリシアが人間と魔獣の混じりあった姿に変わる。
風薙から魔石を受け取ったアルベルム=キャトルフは力強く剣を握る。
「俺は目の前の存在を否定する。斬れぬ剣を否定する。剣が剣である事実を否定する!」
キャトルフの手に握られた剣が輝き、グラウドの肉体に突き立てられた瞬間、神々しい輝きと共に、グラウドの体は人間の元なり、魔獣となった全ての部分が消し飛んだ。
黒猫の団、シスイ攻略。
第五の関所である【シスイ】を陥落させ、領主であり最高裁判官であるグラウド=アバリシアを討ち取り、勝利を手にしたのだ。




