第五の関所×領主の所有物×優しい声……6
粉塵の先に、巨大アンデッドの拳が地面に向けて切断されている事実にグリムは驚き、その横に剣を構えたカルミナがアンデッドの体液が付着した刃を勢いよく振り払う。
「アンデッドは、やはり痛覚がないようだな。まぁ、痛覚が無いからといって何もかわらないが……」
淡々と語るその姿に黒猫の団員達はカルミナに対して敵意を向ける。
“パチパチ”
老人の手を叩く音と嫌味な笑い声が周囲の視線を集める。
「いやぁ、素晴らしい。本当に使える道具は、素晴らしい……だが、服が汚れた……」
老人は兵士が手にしていた槍を取り、逆さに持つと “バギッ!” と、カルミナの脇腹に強く叩き込む。
「ぐぅ、うぅ……」
腹部を押さえる事すらせず、必死に耐える。
「私の服が汚れる前に何とかするのが、貴様の仕事じゃないのか? 素晴らしく使えぬ女だ! バカが! バカが! バカが! ハァ……ハァ……」
怒りと罵倒を無抵抗のカルミナに物理的に何発もぶつけていく。
そんな無抵抗なカルミナの姿を前に怒りを露にするキャトルフ。一瞬のうちに両足を輝かせると、人とは思えぬ速度で駆け出していく。
「クッ! 私を護るのです!」
老人の声に反応するとカルミナも駆け出していく。
互いが、ぶつかり合う瞬間、キャトルフは小さく声にする。
「もう従わなくていい、カルミナ、お前を縛る全てを否定する」
一筋の滴がカルミナの頬を流れた瞬間、キャトルフは迷うことなく、剣を振り抜く。
全ての視線が凍りつくと同時にキャトルフは更に加速し、構えた剣を前へと突き出す。
カルミナがやられた事実に動揺するシスイ兵達が我に返り、老人の盾とならんと槍を構え、盾を前衛に押し出し壁を作る。
老人の視界からキャトルフの姿が消えた瞬間、激しくぶつかる衝撃音と土煙が舞い上がる。
「ふん、驚かせおって……巨大アンデッド以外は恐れる必要すらない。直ぐに駆逐してやるわ!」
衝撃音の後の僅かな沈黙に勝利を口にする老人。
「恐れを知らないようだな、ジジイ!」
次の瞬間、老人は人生を振り返る程の恐怖に顔を歪めた。
再度、衝撃音が鳴り、兵士達が作り出した鎧の壁を軽々と貫くように、黒い獣毛に覆われた巨大な獣の腕が老人の顔すれすれで止まった。
「ひ、ひぃ……な、なんなんだ!」
腰を抜かし、後退りする老人。
「黒猫の団、団長……アルベルム=キャトルフ、友を愚弄した貴様を葬る存在だ」
兵士の壁が左右に崩壊し、その先に片腕のシャツが弾けとんだ姿のアルベルム=キャトルフが堂々と老人を見下ろす。
「キ、サ、マァ……私を見下すなぞ……誰でもよい! コイツ等を早く始末しろ!」
焦り、掠れた怒鳴り声が響く。
しかし、目の前に振り|翳された圧倒的な力を前にして、既に動ける兵士は存在しなかった。
「くそ、どいつも、こいつも、使えぬ連中ばかりか!」
老人が怒鳴る最中、キャトルフはゆっくりと前に歩み出す。
「最初は、力を示すだけのつもりだった。お前にも、部下達にも興味が無かったんだが……お前は、俺の友を侮辱し、手を出したんだ……死んで償え」
「そうか、その女が、そんなに大切かッ!」
老人の指輪に嵌め込まれた魔石が輝くと、カルミナが急に苦しみ出す。
「う、がは、うぁぁ……」
その瞬間、僅かな隙が生まれ、老人が走り出す。
直ぐにカルミナは苦しまなくなるも、キャトルフは下劣な行動に怒りを露にする。
キャトルフの怒りを知ってか、【シスイ】が突如、震動する。
そして、キャトルフ達の視線が一ヶ所に集中した。




