第五の関所×領主の所有物×優しい声……3
閉ざされた門に対して、アルガノ=カヤンと他四名のフードを深々と被った獣人達が一斉に攻撃を開始する。
常人や、普通の獣人ならば、抉じ開けるなどと言う発送は生まれないだろう。だが、アルガノ=カヤンと部下である獣人達は違っていた。
四人の獣人が次々に門の四隅を目掛け、攻撃を開始する。
一人、一人が細身でありながら、攻城兵器を思わせる程の重い一撃を門に加えていく。
「ごめん、ちょっと、下がって……ボクが遣る」
静かにそう呟くアルガノの言葉に素早く門から退避する獣人達。
門の内側では、尋常ならぬ攻撃に、役人と防衛を任されていた【シスイ】の兵隊達が何も出来ぬまま、武器を手に待機していた。
兵隊達の脳裏には、一つの言葉が浮かび、それが現実でない事を無言のままに祈っていた。
(第五の関所【シスイ】に攻撃を仕掛けた存在が役人達の報告通り、黒猫の団ならば、オレ達のような一般の者が勝てるわけがない……)
(黒猫が現実に攻めてくるなんて……)
兵隊達の思考を支配する“黒猫”と言う言葉、普通の傭兵団ならば、何一つ悩まずに戦うことだろう。
しかし、黒猫は他とは違う……明らかに他の傭兵団とは比べ物にならない程の魔石を所持しており、それを使いこなす“魔石使い”の人数が異常なのだ。
本来の魔石は強い力を使い手に与える。が、数が増えれば、争いの火種となる。
その為、魔石を有している者が戦闘になった際に倒した相手が魔石使いだった場合、相手の魔石、もしくは自分の魔石を砕き、片方を世界から葬る事で自身の力を揺るがないようにしている。
黒猫はそうではなく、手にした魔石を戦利品として持ち帰り、団長に一旦預ける事が決まっており、団員の性格と得意分野に応じて、一番あった物を渡す事をルールとして決めていた。
他の傭兵団ならば、有り得ない非常識な行動であった事は間違いない、たが、それこそが黒猫の団と言う傭兵団が戦場の死神とまで、呼ばれるまでに成長した要因であったと言える。
バルメルム大陸は忘れていたのだ、霧に覆われた最果ての地に、国を食い潰す程の化け物達がいる事実を、敵として向き合う事は無いであろうと安心していた。
霧の先からリアナ王国に向かって、敵となり、攻めて来ることは無いと考えていた兵隊達は心から今日と言う日にその場所に居たことを後悔する。
そんな兵隊と役人の耳に響く、凄まじい打撃音。
単純でデカイ音と同調するように門と壁を揺らす。
“ドガッ!” “ドガッ!”と一回、二回と連続で鳴り響く、激しい衝撃音が次第に勢いをます。
「ま、まさか……も、も、門が! 逃げろッ!」
役人の声が響く。
そして、最後の一撃が門に荒々しくぶつけられると、巨大な門の扉が撃ち破られ、無惨に地面へと沈んでいく。
撃ち破られた門から役人と兵隊達が最初に目にしたのは、小さな体に似つかわしくない巨大なハンマーを軽々握るアルガノ=カヤンの姿であった。
倒れた扉に刻まれた打痕の後が全てを物語る。
「ちょっと、時間掛かったけど、よし……取り敢えず、門は壊した……」
落ち着いた表情でそう語る獣人の少女、罪悪感の欠片も無いような無邪気な笑みを浮かべ、団長であるアルベルム=キャトルフが門から【シスイ】へと侵入する姿を見つめていた。
何一つ、動揺する様子のない黒猫の団員達が団長に続いて、法律と監獄を司る第五の関所【シスイ】へと、足を踏み入れる。
第五の関所の門が破られた事実は直ぐに【シスイ】内部に知れ渡り、出口側の門からも次々に増援が集まり、一気に包囲される黒猫の団。
「て、テメェ等! 本気なのか! この【シスイ】には、五千の戦力があるんだぞ!」
兵士長が到着すると同時に門の内側に姿を現した十人の男女の姿に苛立ちを露にする。
その言葉に詰まらなそうに返答するキャトルフ。
「あのさ、先に俺等を挑発したのは、そっちだろ? 悪いが、俺等は止まらないぞ?」
団長の言葉を聞くと団員達はクスクスと笑い、得物を改めて握りしめる。
既に戦う事しか考えていないであろう、黒猫はその爪と牙を目の前の獲物に向けた。
「全力で……目の前の敵を駆逐せよッ! 黒猫達よ、かかれぇッ───!」




